経済学史学会創立までの事情



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(赤間 道夫作成)
(経済学史学会編集『日本における経済学史研究十年の歩み』1961年5月,より。原文縦書き。漢数字もそのまま表記した。) 

 昭和二五年四月に本学会の創立総会と第一回大会が東京の早稲田大学において開かれたが,本学会創設への動きはすでのその前年の春頃からはじまっていた。戦時中に閉じこめられていた学問研究への自由な窓が,終戦とともに広く開かれたので,日本の学界の各分野において再び活発な動きを示し,さまざまな学会が相ついで復活したり,創設されはじめた。経済学説史や経済思想史の研究者の間にも独立した新しい学会を持とうとする気運が生じてきたことは当然であろう。昭和二四年の春頃から,早稲田大学の久保田明光教授と関西学院大学の堀経夫教授との間で本学会の創設のことが私的に取り交わされていたが,正式に取り上げられたのは,昭和二四年十一月六日京都での両教授の会合においてであった。両氏の協議の結果,学会創設を積極的に推進することになり,そのためにはまず発企人として広く学界の有力者の参加を求めることが必要であるとして,それぞれ手分けしてその許諾を得ることにした。久保田教授は帰京後直ちに学界の長老である高橋誠一郎氏と懇談してその許諾を得,さらにその翌年(昭和二五年)一月十七日には一橋大学の大塚金之助教授を訪い,またその前日には東京大学の舞出長五郎教授に手紙にて,それぞれ発企人の承諾を求め,許諾を得た。関西では堀経夫教授が神戸大学の坂本弥三郎教授に発企人の承諾を求め,その快諾を得た。このようにして六名の発企人がまず結集したのである。そしてこれら六名の発企人連名でつぎのような勧誘状を関係の各方面に送った。その結果入会希望者約百名を得ることができた。

 なお本学会の会則原案については,発企人の間で協議を重ねていたが,久保田発企人が原案を作成することになった。そしてその原案を中心に,昭和二五年四月二一日上野の国立博物館の高橋館長室で,久保田,高橋,堀,大河内(舞出発企人の代理)の四人が集まって,大塚発企人の書面での修正違憲をも加味しながら協議の結果,第一回会員総会に提出すべき会則案を作成した。この原案は一,二の字句の修正のみで第一回会員総会で可決された。その原案をつぎに掲げておこう。

経済学史学会会則

 この会則において注目すべきことは,これまでの多くの学会の会則では,会務を処理する役員を「理事」としているのを「幹事」という名称を用い,また「会長」という名称を避けて「代表幹事」という名称を採用していることである。役員はもちろん会員総会において会員中より選挙によって選出される。名は体を現わすといわれているが,このように厳めしい響きのある「理事」の名を避けて「幹事」の名を採用したことは,本学会の運営を出来るだけ民主主義的に行おうとする精神の一つの現われといえる。この尊い精神は現在でも生きている。  この会則と現行のそれとを比べてみると,全体として殆ど変更が見られない。ただつぎの諸点について附加・変更があるだけである。  なお,附記すべきことは,会則の第三条で,毎年一回の全国大会を開催し,必要に応じて臨時の大会を開くことがあると規定しているが,実際は毎年春秋二回開いている。これは第一回の会員総会において,その秋に京都で臨時大会を開くことを決定したことが,それ以後の慣例となって現在まで続いているわけである。このように年二回全国大会を持っているということは,多くの学会でも稀な例外に属するといえよう。これは本学会の会員の総意が本学会を支持し,協力していることの一つの現われといえる。  

 以上が本学会創立までの事情の概略であるが,ここで本学会と日本経済学会連合との関係について一言しておこう。本学会が正式に成立する以前の昭和二五年一月二二日に東京で日本経済学会連合が創立されたが,その機会に久保田発企人の骨折によって,この連合にオリジナル・メンバーとして本学会の加入が認められた。しかしまだ第一回会員総会を開いて本学会の成立を見ていないので,発企人において協議の結果,同連合規定による参加学会より出すべき評議員を,暫定的に一橋大学の大塚発企人,関西学院大学の堀発企人と決め,両発企人は同連合の創立総会に出席した。(本学会第一回会員総会において,同連合に参加の件,同連合への評議員の件は承認された。)このように本学会が正式に成立する以前においてすでに日本の経済学界に市民権を獲得することが出来たことは,本学会のその後の歩みに明るい光を投げかけるとともに,実質的な面でも大きなプラスとなったことを見逃してはならない。本学会成立以前にこのような配慮をされた発企人の処置は,本学会の名において高く評価すべきであろう。


 
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