経済学史学会ニュース
The Society for the History of Economic Thought Newsletter

(藤井 賢治作成)
第10号(1997年8月10日) ISSN 0919-0384

幹事会報告

 さる5月31日(土)の関東部会の折,東京都立大学の国際交流会館において常任幹事会と幹事会が開かれました。主な報告,審議事項は次の通りです。

1)10名の新入会員が承認されました。これにより,現在の会員数は840名となります。(逝去,退会を含めて,「会員異動」をご覧ください)。

2)第61回大会(福井県立大学,11月8日[土],9日[日])のプログラム(別記)が承認されました。

3)『経済学史学会年報』第35号の構成(投稿論文の採用,書評等)が承認されました(別項の「編集委員会報告」をご覧ください)。

4)学会創立50周年記念事業の進行状況が別記のように報告され了承されました。

5)1996年度決算報告,同監査報告が承認されました(別項の「決算報告」をご参照ください)。

6)1997年度予算(案)が承認されました(別記)。決算と予算(案)は,第61回大会時の会員総会に提案されます。

7)第62回大会(1998年)は札幌学院大学で開催することが了承されました。

8)別記の会則内規の改正が承認されました(第61回大会時の会員総会に報告されます)。

9)学術会議研究連絡委員会,学会連合,国際学会については別項をご覧ください。


年報編集委員会より

 年報35号の構成が決定しました。編集委員会企画としては,「政策形成と経済学:1930−40年代」をテーマとして4本の論文で特集を組み,さらにジェイムズ・ステュアート研究,古典派とポリティカル・エコノミー,マルクス商品・貨幣論,ヴィクセル・コネクション,フェミニズムと経済学の計5トピックについての研究動向を準備しています。書評対象図書は33点。公募論文には7点の応募があり,うち以下の4点を採用しました。

(八木紀一郎)

公募論文投稿規定


企画交流委員会関係

@経済学史学会辞典編集委員会

 学会50周年記念辞典の編集方針について,下記の通り5月の幹事会で承認されました。7月26日,27日の2日間,編集会議を行い,約1200項目の選定の仕上げと執筆者の選定を行い,秋の学会の後で,執筆依頼を行います。会員の皆様にはご協力・ご尽力をお願いいたします。

 [学会50周年記念辞典編集方針]

1)辞典の名称は,経済学史学会編『経済思想史辞典』とする。

2)人物3/4,事項1/4程度とし,人物中心の辞典とする。

3)人物項目では,創造性・影響において世界性をもつ思想・学説および創造性・影響においてその国に重要性をもつ思想・学説を説いた人物をあげる。今まで辞典に入っていなかった人物も入れる。つながり,位置づけを重視する。

4)事項は,国毎の学説・思想,論争,学派,系譜思想・学説,大きな組織・団体など,人物では入りきれない項目にする。

5)日本も含むものとする。国毎の通史には,イギリス(A+),フランス(A),ドイツ(A),アメリカ(A),日本(A),イタリー(B),ロシア(B)を取り上げる。

6)辞典は,時期的には,ギリシャ・ローマ,中世を入れ,終わりは特に区切らないで,最近までとする。 7)ランクをA〜Fの6ランクに分ける。A:3,B:2,C:1,D:1/2,E:1/4,F:1/8ページ。

8)1ページの字数を1480字から1764字に増やす。21字×42行×2段組。

9)編集委員の分担は,以下の通りとする。日本については藤井隆至会員を加える。  

10)編集委員会は,辞典の項目,執筆者,執筆要項を定める。

11)編集助言者をおく。編集委員会が特に認めた場合には助言を求めることがある。

12)執筆者は,学会員とするが,学会員で適当な者がいない場合には,学会員以外を加えることがある。

13)スケジュールを次の通りとする。

A国際交流委員会(委員:馬渡尚憲,深貝保則,池田幸広)

 各国の経済学史学会や経済学史研究者との国際交流を広げるために,まずは,次の点を5月の幹事会に諮って,認められました。

1)学会会則,会員申込用紙等の英語版を作成する。

2)全国大会,部会の報告の英文タイトルをつけてもらう。

3)企画交流委員会の国際交流委員に赤間道夫会員に加わって頂く。

4)赤間委員を中心に進められてきたインターネットのSHETを学会の国際交流委員会のもとに置き,学会の公式の窓口にしていく。

  (馬渡 尚憲)

経済学史研究データ・ベース

  経済学史学会に参加した研究者は総計何人になり,また,総計で何点ぐらいの研究業績があるのでしょうか?経済学史学会の設立50周年記念事業の一つとして,過去を含めた全会員の研究業績をコアにして,日本での経済学史関連文献を網羅するようなデータ・ベースを構築することが企画されています。もちろん英語でも検索可能にすることが必要でしょう。今年1年は研究期間ですが,来年には全学会員にデータの提供を依頼し,データを集積したうえで,入力のための公的資金の助成を申請することになると思います。この企画を研究・準備するための小委員会のメンバーは,以下のとおりです:

 赤間 道夫,池尾 愛子,大村 泉,塘 茂樹,野口 旭,八木 紀一郎,若田部 昌澄。

(八木 紀一郎)

経済学史学会ホームページの紹介

 さる5月27日,経済学史学会のホームページを立ち上げました。内容を構成するファイル作成は多くをshetMLのメンバーに協力していただきました。海外学会のホームページとの相互リンクも進みはじめました。

URL (Uniform Resource Locator)は,英語ページが

  http://society.cpm.ehime-u.ac.jp/shet/shet.html

日本語ページが,

  http://society.cpm.ehime-u.ac.jp/shet/shetj.html

です。学術情報センターのAcademic Society Home Village (http://www.soc.nacsis.ac.jp) にもリンクされています。ファイル準備の都合から英語ページと日本語ページとでは内容上の違いがあります。以下に6月10日現在の項目を紹介します。これからも内容充実のために会員の皆さんのご協力をお願いいたします。

(英語ページ) Welcome to SHET, Forthcoming Conference, Annals (Contents), Activities, Our Conferences, Newsletter (Contents: in Japanese), Study Groups, Relevant Journal's Contens, Mailing List (Introduction: in Japanese), Personals, Links

(日本語ページ) 研究会・講演会のお知らせ,経済学史学会紹介,『経済学史学会年報』(目次),大会研究報告,経済学史学会ニュースレター(目次),講演会,その他,部会活動,研究会,関連雑誌の目次,SHETメーリング・リスト,会員個人のホームページ,リンクページ

(愛媛大学 赤間 道夫 akamac@ll.ehime-u.ac.jp

メイリングリストshet*のご案内

 経済学史研究のための専門メイリングリストshetをご存知でしょうか。

 メイリングリストとは,電子メイルを用いたグループでの情報交換システムです。決められた電子メールアドレス(ポスト)にメイルを送ると,そのメイリングリストに参加しているメンバー全員にメッセージが自動的に配信されます。現在のところ,shetは経済学史学会会員に参加資格を限定したクローズドリストになっていて,通信内容についてのチェックはおこなわれていません。現在の参加者は80人強で,活発な情報交流がおこなわれています。参加を希望される方は,下記アドレスの世話人に,登録を希望される電子メイルのアドレスをお伝えください。参考までに,メイリングリストshetでやりとりされている通信内容を紹介します。


会則内規改正(1997年5月一部改正)

(1) 現行の

における太字部分を削除する。

(2) 現行の

の末尾に を追加する。


会員異動(省略)


経済学史学会第61回大会プログラム


経済学史学会1996年度会計報告 収支決算書(1996.4.1〜1997.3.31)(省略)


経済学史学会1997年度予算(案)(省略)


経済理論研究連絡委員会報告

 すでに『学会ニュース』(No.9)でお知らせしたように,去る4月19日に関西大学において学術会議経済理論研究連絡委員会主催ならびに経済学史学会等5学会共催で「21世紀と資本主義」と題する公開講演会が約200名の来聴者を集めて行われた。

 講師ならびに演題は下記の通り。

 講演内容は近く『世界』誌上に発表される予定。 (Web編集者注:『世界』1997年10月号)
(山中 隆次)

経済学会連合報告

 1997年度第一回評議員会が5月6日早稲田大学で開催され,次の事項が了承ないし協議,決定された。

 『英文年報』第17号に関しては,本学会から有江大介会員が編集委員として,永井義雄会員が執筆者として参加される。また,外国人学者招聘滞日補助に関しては,本学会は選に漏れた。理由は,過去における本学会の被補助額が諸学会中で最高であり,分担金の2倍以上になっているためである。
(根岸 隆)

【部会活動】

東北部会

第18回例会:1997年6月21日(土) 東北学院大学土樋キャンパス67年館

シュンペーターの企業者像
本吉 祥子
 シュンペーターが経済を研究するにあたって最終的に目標としていたことは何だったのだろうか。それは資本主義過程の把握という点ではなかったのではなかろうか。

 彼の出発点は『理論経済学の本質と主要内容』『経済発展の理論』で議論されているように,ワルラスの一般均衡理論を踏襲し,それを超えようとした経済メカニズムの理論的分析であった。しかし彼の分析はこれにとどまらず,その後四十数年の研究人生にあたって『資本主義・社会主義・民主主義』に代表されるように,歴史的・社会学的な部分にまでおよんでいる。

 そのために,シュンペーターの体系は単なる折衷と思われがちであるが,それは間違っている。彼の経済学的領域の分析と非経済学的領域との分析は統一的な体系である。それを可能としたものは何か?その答えは彼が『経済発展の理論』に登場させた企業者に求めることができる。彼の企業者とは,単なる資本家や経営者とは区別された存在であり,新結合を遂行することによって位置づけられ,資本主義過程が崩壊する際の一因ともなる重要な人物である。それは従来の経済理論の中に登場する利潤追求型の機械的・合理的な経済人とは異なり,私的王国を建設しようとする夢想や意志,勝利者意識,創造の喜びなどを持って,経済を新機軸へと導く水先案内人だからである。生身の人間を経済理論に組み込むことによって,その理論は人間という生きた主体の背後にある非経済領域へのアプローチが可能となるのである。

マーシャル『原理』における連続性の認識と方法

舛谷 謙二
 マーシャル(A.Marshall,1842-1924)は,ヴィクトリア朝末期にあって,労働者の貧困解消を主要課題として取り上げ,古典派経済学,特にJ.S.ミルとの理論的連続性を意識しつつ,その発展を意図した。その際,彼は経済社会を連続性(continuity)をもって成長する有機体と認識し,経済現象が時間の経過とともに《量》のみならず《質》も変化するという点に着目し,経済力学の方法ではなく経済生物学の方法によって,その成長過程を分析することを志向した。この彼の立場は『経済学原理』初版(1890年)から第8版(1920年)に至るまで不変である。

 その分析によれば,社会の有機的成長を支えるものは経済的自由に立脚した経済主体の倫理的資質であり,生活態度に表われるその倫理的資質そのものが有機的成長の過程で変化を遂げるという構造が存在する。すなわち,経済発展と経済主体の倫理的資質向上の間には累積的な相関関係が見られる。より具体的には,卓越性への欲求(desire for excellence)に鼓舞されて,労働者においては「生活基準の上昇をもたらす生活態度」が,企業家においては「経済騎士道の発揮」が,そして政府においては「労働者への学校教育と経済騎士道称揚への世論形成」が求められる。これらが相俟って世代の経過とともに経済社会の有機的成長を促進する結果として,貧困解消が達成されるものとマーシャルは期待したのであった。

 経済と倫理とをともに重視するマーシャルの立場は,経済活動に倫理という枠組みを外在的に適用することによってではなく,連続性をもって推移する,世代を通じての有機的成長という経済と倫理との相互的累積過程のうちに統一されていた。それが経済学をヨリ広い概念として定義して「人間研究の学問」と位置づけたマーシャルの意図であった。

関東部会

1996年度(第3回)1997年3月15日(土) 成城大学3号館会議室

J. S. ミルの植民地論――インド・アイルランドとの関係で――
池田 和宏(成城大学・経済研)
 これまでのミル研究において,植民地アイルランド問題へのかなりの比重をかけた論説,東インド会社の社員として複雑なインド統治に携わった実践的役割等は,あまり論究されてこなかったように思われる。本報告では,植民地統治,特にインドとアイルランド統治に関するミルの見解を取り上げて検討した。

 ミルは,本国イギリスの国防の生命線としてアイルランドが欠くことのできない隣国であり,アイルランドにとってもイギリスの支配下にあることが,諸外国からの侵略を免れる途であると捉えていた。この意味で,ミルはアイルランドに対する善意の保護者として自らを見なしていた,と言えよう。また,アイルランドがイギリスの政治的・経済的に進んだ諸制度を享受することによって文明化し,繁栄し,イギリスの重要な一部に組み込まれているとミルは考えた。そしてアイルランドに何か緊急事態が生じると,自らの処方箋を提示し,アイルランドを宥めて分離という最悪の事態を避けようとしたのである。それはまたアイルランドにあまり関心を示さない議会人の目を,そこに向けさせようとする政治的意図を常に持っていた。

 インドに対してミルは,文明の野蛮な状態にある故に,文明国(イギリス)が統治することは当然だと見なしていた。そして原住民を統治するために善良な専制統治を推奨し,東インド会社によるかなり成功した統治に満足していたのである。

 ミルによると,インド・アイルランド両国をより良く統治するためには,土地問題を解決することが最大の課題であった。アイルランドにおいてのコティヤーと不在地主との関係は,インドにおけるザミンダールとライアットとの関係に等しく,ミルにとっては不在地主とザミンダールは非難されるべき存在であった。そしてコティヤーとライアットこそは直接耕作の自作農としてミルが推奨する存在だったのである。つまり自作農制度こそが民衆に勤労意欲と徳性と知性とを身に付けさせる最善の制度であり,その制度の創設が資本主義的農業制度導入の前提であった。そうした見解に基づき,ミルは良き植民地統治を妨げる大土地所有制度を批判したのである。

啓蒙思想とフランス革命――サン=ジュストの場合を参考にして――

山崎 耕一(武蔵大学)
 啓蒙思想とフランス革命の関連について,ここ10年ほど新しく興味深い説がうまれている。アメリカのベイカーは「世論」の成立に目を向ける。彼によれば,18世紀初頭のジャンセニズムをめぐる論争はカトリックの正当性に対する疑念を庶民に抱かせた。また国王がジャンセニストの聖職者に宗教儀式の執行を禁止したので,ジャンセニスト司祭の教区民はミサなどにあずかれず,死後地獄に落ちる危険が生じたので,人々は国王の措置の正当性を疑うようになった。その結果,宗教(カトリック教会)・政治(国王)の権威を無条件では受け入れず,批判的に検討しようとする精神が芽生える(世論の成立)。人々がただちに権威に反抗的になったわけではないが,「納得できなければ服従しない」ことが可能性としてうまれた点が重要なのであり,無条件で受け入れられる権威ではなくなった宗教の押しつけは反発を生むのである。また同じアメリカのダーントンは「ボヘミアン文士」の存在に目を向ける。彼によれば,ルソーやヴォルテールなど啓蒙の第一世代は,文筆以外のところに収入源を求めながら,既成秩序を批判する作品を書いていたのだが,その後に続く第二世代(モルレ,シュアールなど)の時代には啓蒙思想がひとつの権威となり,文筆によって富と栄光を手に入れられるようになった。彼らの例に倣おうとする文学青年(=第三世代)は数多いのだが,文壇はすでに第二世代で占められており,やむなく第三世代は,売れそうなものならポルノでも中傷文書でも書きまくる「ボヘミアン文士」になる。彼らは,自分たちの才能を認めない既成の権威(=第二世代)を恨んでおり,革命の到来とともに,アカデミーなど第二世代の牙城を打ち壊す作業に,嬉々として乗り出すのである。さらにフランスのシャルチエは,啓蒙思想が革命家たちに与えた影響に関連して,そもそも読者は作者の意図をそのまま受け取るのではなく,自分の思索や世界観に応じて自分の読みたいものを読み取ってくるのだから,思想的影響を論じるには,単に語句や文の類似ではなく,読書の状況全体を見ねばならないと主張している。本報告では,サン=ジュストを例にとって,これらの新説を検証してみた。

関西部会

第131回例会:1996年12月7日(土) 大阪府立大学学術交流会館

第132回例会:1997年6月7日(土) 名古屋市立大学 初期バークの文明社会論――『カトリック教徒刑罰法論』の自然権論を基軸に――
中澤 信彦
 本報告では,『フランス革命の省察』(1790)によって近代保守主義の祖として一般に知られるエドマンド・バークの初期の文明社会認識を,草稿『カトリック教徒刑罰法論』(1761-65)に看取されるアイルランド文明化のヴィジョンを通じて検討した。スミス,ヒュームとの交流,タッカーとの論争でも知られるバークの多面性を掘り起こす試みは,経済学の形成時代の多種多様な思想の水脈を掘り起こす試みでもある。

 先行研究の多くが『刑罰法論』の自然権を「ロック的」と理解しているが,いかなる意味で「ロック的」なのかが曖昧である。ロックの同意理論には,民主主義につながる急進的側面ばかりでなく,政治秩序の安定を目指す保守的側面(ウォーリン,ダン)もある。バークの理想はイギリス商業帝国の農業部門を担うことによって繁栄するアイルランドであり,『刑罰法論』を「ロック的」と理解する場合,後者の意味に限定すべきである。

 『刑罰法論』の文明社会にあっては,自然権としての土地所有権の安定的確保により,勤勉が促進される。バークは富裕への情念一般ではなく「一時的快楽」たる奢侈への欲求こそ腐敗(=公共精神の喪失)の源と考える。したがって,「長期的見通しを持つ情念」によって呼び起こされた勤勉の成果としての富裕は腐敗を生まず,「富と徳のアンチノミー」問題は発生しない,とされる。

 大英帝国の枠組みを前提としながらも,イギリス本国に対する全面的な政治的および経済的従属を拒否し,公共精神の称揚を求め,「富と徳のアンチノミー」の克服を目指す初期のバークの立場は,そのままスコットランドの啓蒙知識人たちの立場に重なるものと言えよう。

19世紀前半の経済学の大衆化――ホェートリーとエリスの経済学教育の試みを中心として――

上宮 正一郎
 すでにスミスやマルサスによって民衆教育の重要性が説かれてはいたが,1816年のマーセット夫人の著作を嚆矢として,経済学の知識の普及と学校教育への導入の動きが急速に高まっていく19世紀前半の過程を概観する。この時期,婦人や労働者階級,その子弟を対象として,容易に理解できるように読み物や教科書の形での経済学書が相次いで出版された。B婦人とキャロラインの対話によるマーセットの『経済学対話』,実生活に密接した物語からなるマルティノーの『経済学例証』シリーズ(1832-34),キリスト教の立場から児童用にかかれたホェートリーの『貨幣問題のやさしいレッスン』(1833)などがその代表である。そしてホェートリーは彼の宗教的・政治的力を背景に,自らの内容を主とした経済学をアイルランド・イングランドの学校教科書に導入し,かなりな影響を与えた。また(功利主義者)エリスは,「世俗教育」のパイオニアの一人として,経済学を主要科目の一つとするバーベック・スクールとよばれる学校の設立と運営,『社会経済学』(1846)(わが国での最初の翻訳経済学書)をはじめとする数多くのテキストやその教育指導上の手引き書の出版,教員の要請,また理念を同じくする同志の活動への物心両面からの援助などに生涯をささげ,運動を全国的に広めようとした。こうした人々が普及させようとした「経済学」は,立場の違いはあるとはいえ,いずれも私有財産の安全を前提として,不変的・絶対的な「自然法則」から導き出される「単純な」基本的原理からなる「通俗化された古典派経済学」と言うべき性格をもち,とりわけ階級調和を説くことおよび勤労や節制などの「徳育」・訓練に重点が置かれた,いわば修身教育的な色彩の強いものであった。

アダム・スミスの『道徳感情論』と『諸国民の富』の比定――自然神学の観点から――

村越 好男
 本報告は,再構成された自然神学(スミス道徳哲学の第一部門)を基盤に置き,倫理学(第二部門)と経済学(第四部門)を神学的枠組みにおいて解読することによって,スミス道徳哲学大系全体のもつ意味にアプローチすることを試みている。

 再構成された自然神学によれば,第一部門は道徳哲学全体の基本的枠組みの役割を担い,神学的〈神の慈愛的統治〉図式によって,他の部門を統合し,全善の帰結を分配する。

 その〈神の慈愛的統治〉図式の第二部において,倫理学は,人間行為が全善の結果(神の目的達成)に意図せぬうちに協力しているメカニズムが,行為の相互間連システムとして,〈経験的〉に〈同感の原理〉を用いて解明されている。その全善の結果の実現へと導くため神学的に派遣されたagentの役割を担っているのが〈impartial spectator〉であることが,神学的体系全体の構成配分からなす位置の比定によって解明される。

 また〈神の慈愛的統治〉図式での第四部経済学は,人間が自分でできる限りの幸福の基礎条件の達成がまかされた領域を扱い,その幸福の基礎となる〈必需品〉の生産と分配に関する考察が経験的分析用具を用いてなされている。そこでの全善の帰結は,「行為の帰結に関しては正義の諸規則を,動機にかかわる行為においてはimpartial spectatorの同感が得られる程度に自己規制(self command)する」ことによって産出すべく規範的指針の役を担うのが〈自然真実価格〉である。市場価格を吸引し,規範的価値の実現へと導くために,神学的に派遣されたagentの役割を経済の領域で果たしている。かくて倫理神学でのトマスの「適正価格」命題が経験的レベルにおいて実現していることを論証している。

J.A.ホブスンにおける分配論と自由論

尾崎 邦博
 本報告は,イギリス新自由主義の代表的思想家として,また十九世紀末イギリスの社会問題への対峙という問題意識に裏打ちされた「人間的(human)」な経済学の構築を試みた「異端の経済学者」として知られているJ.A.ホブスンの経済学の体系と,彼の新自由主義思想家としての自由概念との間の連関構造の解明をめざしたものである。

 ホブスンは,失業や貧困等の根本原因が,未曾有の発展をとげた生産力と,不平等な分配に由来する脆弱な消費力との間の不均衡にあるとみる。この生産力の発展を可能にした機械は,人間と自然の動力を効率的経済的に利用して,必要な物質的財貨を大量に供給することを可能ならしめてきた。しかし機械はその一方で,人間の労働を機械化,畸形化して,労働の本来の芸術性,自発性や喜びを奪ってきている。

 こうしてホブスンは,近代産業システムの社会問題を,労働における機械的性格の強化と,分配における不平等の問題として捉え直す。彼は,そうした問題を把握し得ていないスミス以来の経済学の「費用」と「効用」の概念を批判し,独自の「人間的な」「費用」「効用」概念を軸に,労働における費用の最小化と消費における効用の最大化をめざす理想の「仕事と富」の分配原理を,「能力に応じて各人から,必要に応じて各人へ」として定式化する。この原理が実現したとき,余剰の富は,個性的な消費を実現するための財源となる。また労働過程で節約されたエネルギーを,余暇など経済活動以外の領域へ振り向けることが可能になる。このように,ホブスンの分配原理の構想は,個人の人格や能力の発展の機会としての自由の実現条件の探求という意味を含んだものであったのである。

労働時間の経済学 ――個人史と社会史における生活時間の配分仮説――

安藤 金男
 本報告の主旨は,カール・マルクスとレオン・ワルラスという二人の経済学者の経済学説において,労働時間と余暇時間がそれぞれどのように理論化されていったかを比較検討するに先立って,報告者自身は人間の生活に占めるそれらの時間についてどのように考えているかを述べるものである。

 報告者は,次の2つの仮説を提唱する。

(仮説1)「生活時間の配分において,個人史は社会史を繰り返す。」

(仮説2)「現在の階級社会段階は,社会史の折り返し点である。」

 敗戦後50年を経て,現代日本人は人生80年の時代を生きるようになった。この80年にもおよぶ人生は3つの時期に区分することができる。約20年間の学習活動の時期。約40年間の職業生活に従事する第2期。生殖と生産から解放された退職後の第3期。

 他方,社会史は労働日の構成部分のあり方によって,大きく3期に区分できる。

 労働生産性が極めて低く剰余労働を行ない得ず労働日が必要労働時間のみから構成されていたゼロ成長の第 I 期。労働生産性が上昇し労働日が必要労働時間と剰余労働時間から構成され,経済成長が行なわれる第 II 期。階級社会は,この時期の中間段階に成立する。最後に,労働生産性がさらに飛躍的に上昇し,諸個人が自由意志的に剰余労働をやめてゼロ成長に戻る物質的に繁栄する第 III 期。

 個人史の第1,2,3期は社会史の第 I,II,III期にそれぞれ照応していると考えれば,仮説1が成立する。また,社会史の第U期のはじまりとおわりの各段階に無階級社会が成立するので,仮説2が主張できる。

 以上のような仮説1,2を立てるねらいは,個々人が「豊かな人生」を送れる経済社会を探究することである。

西南部会

第82回例会:1996年12月7日(九州大学)

萩原鐐太郎における自律的発展の思想 ――田口卯吉の自由貿易主義との対比で――
木嶋 久美
 明治20年代には,政治上の改革が一段落し,殖産興業政策からの脱皮がはかられるようになった。新技術・新制度の導入ではなく,在来のものを再編・育成し,地に根を張った産業を築こうという関心が顕在化しはじめたが,とりわけ地方の生産者たちが,田口卯吉と犬養毅による理念にもとづく論争の成果を生産現場で検証し,具体化しようと試みていたことを見逃してはならない。

 田口の理念を捉え返そうとする動きの一例として,下野経済講話会や群馬経済学協会など両毛地方の生糸業者たちの活動が挙げられるが,なかでも萩原鐐太郎(1843・天保14〜1916・大正5,改良座繰結社・碓氷社社長)は,当時としては独特の田口主義をとり,保護政策を批判し,地域の自立的発展を実現しようと格闘した。

 萩原は,「適者生存」の文明社会においては,競争に耐え抜くべく技能を向上させ,日々の業務において「我利」と「公共の道義」の両立をはかる精神態度を自ら身につけようとする限りで,座繰製糸に携わる者も「社会の適者」となりうると提言した。それは,座繰製糸を「農家の副業」と位置づけて農家の生活を安定させると同時に,技能向上を通じて地域における人間の自立を達成しようとする自立的発展の展望が,萩原の主張の根底にあったからにほかならない。

 萩原の思想には,思考習慣の改革にともなう葛藤が込められており,人間が新制度や新技術の体得によって自立を遂げていくダイナミックな精神態度形成の問題が据えられていた。萩原の格闘は,田口の自由貿易主義を自らのものとして咀嚼し直す営為でもあったといえよう。

ラムゼイをめぐる問題群――確率・時間・合理性――

山崎 好裕
 ラムゼイの業績のうち,1926年の「真理と確率」でのケインズ確率論批判と,1928年の「貯蓄の数学理論」での最適成長モデルとを統一的に理解することを試みた。

 ラムゼイは後者の論文で至福という不自然な仮定をおいてまで割引率をゼロとするモデルを立てた。この論文に対する批評でケインズは,予測不可能な不確実性が蓄積に与える影響にまず言及している。これは両者が将来の割引率を考えるとき,そこには不確実性の存在が前提されていることを示唆しているのではないだろうか。

 ケインズは,確率を,ある命題の成立を合理的に確信できる度合と解釈するが,確率そのものとは区別される確率関係は客観的に存在すると考える。ラムゼイは,ケインズを批判して確率関係の存在を否定するが,その結果残るのは,人々の主観的な信念の度合だけである。ケインズは,ラムゼイの批判を通じて,確率計算に基づく合理的行動を経済行動の一般的な形として想定できないことに関して,むしろ自覚を深めたのではないだろうか。ケインズは,確率的判断について,経済を外から客観的に眺める経済学者の次元と,経済の内部で不確実な状況を前に判断し行動する経済主体の次元とを区別して考えるようになったと思われる。

 不確実性の存在を,各期の経済変数が確率的トレンドに従うことと解釈すれば,期が進むにつれて分散は比例的に大きくなっていく。ラムゼイはそのような経済モデルを暗黙に想定し,リスクの拡大を将来の割引の原因と考えていたのではないか。

マーシャル経済学における政府論 ――『産業と交易』を中心に――

岩下 伸朗
 近年,マーシャル研究はグレーネベーゲンやホイティカーらの堅実な資料発掘・整理によって,本格的に学説史的な俎上に登ってきた。しかし他方で,なお現代経済理論の到達水準からその経済学を単純に「部分均衡論」の体系とのみ整理する思考も根強い。そこではあまり注目されなかったのが,マーシャルの「政府論」である。

 マーシャルは「政府」に関する諸問題を自己の経済学体系に組み込む意図をその研究初期段階から保持していた。しかし,19世紀末以降の歴史変化に真摯に対応しつつ自らの体系構築を進めていったこともあり,十分に整理された「政府論」を残してはいない。だが,『産業と交易』では,体系におけるその論理次元とも相関して,「政府」をめぐる多くの叙述が見られる。

 彼は歴史的視座から,政府の役割や機能は,「自由な独立者精神」の発展段階に相応して展開してきたし,またそうであるべきだと思考している。そのうえで,政府に求められている具体的機能に関し,スミス流の「社会資本」整備論を敷衍しながら,20世紀の独占化の展開における諸問題解決に対して,社会有機体のもつ「自然治癒力」の働きを改めて強調している。この視点から,米・独に比較しても,とりわけイギリスでは,「市場」機能自体を保全すべきことが高調され,破壊的独占の抑制,官僚制弊害の除去,情報公開の促進等が,政府活動をめぐって期待されている。マーシャルは,こうして20世紀に入っての歴史的変容をきちんと認識した上で,政府によるいわば「ソフト・インフラ」の整備といった現代的問題の先取りもなして,イギリスの将来を構想していたのである。


国際学会情報

1)経済学史学会HES 1997 History of Economics Society Meeting will be held at the College of Charleston, Charleston, South Carolina, June 1997, Send paper proposals, including an abstract of 250 words, by FEBRUARY 1, 1997. Robert W. Clower, University of South Carolina, Department of Economics, College of Business Administration, Columbia, SC 29208, U.S.A., Fax (803)777-6876,E-mail: RCLOWER@DARLA.BADM.SC.EDU

2)ハイルブロン・シンポジウムNinth and Tenth Heilbronn Symposium 1997 The Ninth Heilbronn Symposium in Economics and the Social Scinces will be devoted to the topic Freedom, Trade and the Nation State which runs through the German language literature in political economy like a red thread. The conference will be held in Heilbronn from June 25-28,1997. The Tenth Symposium in Economics and the Social Scinces will be devoted to the work of Karl Bucher(1847-1930) and will be held in Heilbronn on Sunday June 29, 1997. Please send your abstract and correspondence to: Professor Dr.Jugen G Backhaus, University of Limburg, AE PO Box616, 6200 MD Maastricht, The Netherlands;tel: +31-43-388352/3636, fax: +31-43-3258440, e-mail: f.schijlen@algec.rulimburg.nl

3)社会経済学会SASE 1997 SASE 9th International Conference at University of Montreal, Montreal, Canada on July 5-7, 1997. Abstracts of papers or summaries of proposed should be no longer than 150 words and addressed to: SAGE, P.O. Box 39008, Baltimore, MD 21212 USA. Materials may also be sent by fax(+1-410-377-7965) or by e-mail (SASEORG@aol.com) The deadline for recipt of paper abstracts and session proposals is February 15,1997.

4)オーストラリア経済思想史学会HETSA 1997 The 10th Conference of the History of Economic Thought Society of Australia is to be held at the University of Notre Dame, Australia on 17-19 July 1997. Contact Ian Kerr, Department of Economics, Curtin University, GPO Box U1987,PERTH 6845,Western Australia, Email:kerr@cvs.curtin.edu.au, Fax:(61-9) 351-2872; Ray Petridis, Murdoch University, Email: petridis@central.murdoch.edu.au, Fax: (61-9)310-7725; John Wood, University of Notre Dame, Australia, Email: jwood@nd.edu.au

5)経済思想史学会HET 1997 The Autumn 1997 History of Economic Thought Conference will be held in Bristol (not Bath as previously announced). Sessions start at 2 pm on Wednesday 3rd September, registration 12- 2 pm (lunch available if ordered in advance). The conference ends at lunchtime on Friday 5th September. The 1998 conference is now confirmed for Bath, 7-9 September 1998. Tony Brewer, Department of Economics, University of Bristol, 8 Woodland Road, Bristol BS8 1TN, England, Telephone: Outside Britain +44 117 928 8428, E-mail: A.Brewer@bris.ac.uk.

6)経済思想研究シャルル・ジイド協会1997 Association Charles Gide Pour L'Etude De La Pansee Economique, Colloquium on the French Economic Tradition on 2 and 3 October 1997 in Lyon, organised by: le Centre Auguste et Leon WALRAS et la Maison Rhone-Alpes des Science de l'Homme, 14 Avenue Berthelot 69363-LYON cedex 07; Telephone:(33)72-72-64-64 or(33)72-72-64-07; Fax(33)72-80-00-08; e-mail: mjoubert@mrash.fr

7)デューリング会議EUGEN DUEHRING CONFERENCE Duehring conference will be held at Maastricht University on Thursday, 16 October 1997 Contact Prof. Dr. Juergen G. Backhaus, Maastricht University, AE, P.O. Box 616, 6200 MD Maastricht, The Netherlands, tel: +31-43-3883652/3636, fax: +31-43-3258440, email: f.schijlen@algec.unimaas.nl

8)ヨーロッパ進化経済学会議EAEPE 1997 EAEPE CONFERENCE will be held at the Panteion University of Social Sciences, Athen, Greece on 6-9 November 1997. The Conference Program Organizer is John Groenewegen and the 1997 Conference Local Organizer is Stavros Ioannides, Panteion University of Social and Political Sciences, 136 Syngrou Av., 176 71 Athens, Greece. Telephone 30 1 92 98 086. Fax 30 1 92 23 690. Email stion@mhs-gw.panteio.ariadne-t.gr. Participants wishing to submit papers are invited to send a title with a 400-600 word abstract to John Groenewegen(Department of Economics, Erasmus University, PO Box 1738, 3000 DR Rotterdam, The Netherlands. Telephone: 31 10 408 1383. Fax: 31 10 452 5790. Email: groenewegen@evo.few.eur.nl). Priority will be given to abstracts submitted before 1 March 1997.

9)HOPE 1998 Conference on "Economists and Art, Historically Considered" will beheld at the Thomas Center, Fuqua School of Business, Duke University on April 3, 4 and 5, 1998. A selection of papers from the conference will be published in the 1999 special issue of History of Political Economy. Proposals should be a one-page outline, and should be sent to both Craufurd Goodwin (goodwin@econ.duke.edu) and Neil De Marchi(demarchi@econ.duke.edu). Craufurd D. Goodwin, Department of Economics, Duke University, P.O. Box 90097, Durham NC 27708-0097, Telephone:919-684-3936, Fax:919-681-7869

10)経済学史学会合同社会科学会議HES Allied Social Sciences meeting 1998 The HES plans to organise four sessions at the Allied Social Sciences meeting at Chicago, IL, January 3-5, 1998. Allied Social Sciences meeting. Papers and sessions can be on any area or aspect of the history of economic thought. Contact Roger E. Backhouse, Department of Economics, University of Birmingham, Edgbaston, Birmingham,B30 2TT, United Kingdom, Fax: +44 121 414 7377, E-mail: R.E.Backhouse@bham.ac.uk ; For information, send the message "info HES" to lists@cs.muohio.edu.

11)ヨーロッパ経済思想史学会ESHET 1998 The second annual Conference of the European Society for the History of Economic Thought will be hosted by the University of Bologna, 27th February-1st March 1998. The thematic part of the Conference will be on 'Institutions, Markets and the Division of Labour'. It is expected that it will take place at San Giovanni in Monte. The parallel open sessions will be hosted by the Faculty of Economics. One or two sessions specially devoted to economic methodology will be hosted by the Bologna Academy of Sciences. Submission proposals are invited and should be sent to Professor Roberto Scazzieri, Department of Economics, University of Bologna, Piazza Scaravilli,2, 40126 Bologna, Italy, Fax +39 51 258040; Telephone +39 51 258132, E-Mail: bordoni@economia.unibo.it

12)ヨーロッパ経済学史学会ECHE 1998 EUROPEAN CONFERENCE ON THE HISTORY OF ECONOMICS, University of Antwerp, Belgium, 23-25 April 1998 For this conference, we invite papers which will shed historical light on the to-ing and fro-ing at the boundaries between economics and other disciplines. Preference will be given to original accounts, based on detailed archival or other research, aimed at yielding rich, sophisticated, understandings. To participate, please submit a proposal, containing roughly 1000 words and indicating clearly:(1) the original contribution of the paper;(2) in what sense the paper contributes to the theme of the conference. The deadline for the submission of paper proposals is August 15, 1997. Notice of acceptance/rejection will be sent on September 15, 1997. Completed papers will be due on February 15, 1998. All proposals and requests for information should be sent to the following address: Guido Erreygers, SESO-UFSIA, Universiteit Antwerpen, Prinsstraat 13, 2000 Antwerpen 1, Belgium, Tel. +32-3-220 40 52, Fax +32-3-220 40 26, e-mail: dse.erreygers.g@alpha.ufsia.ac.be

13)国際経済史学会IEHC 1998 The 12th International Ecoomic History Congress to be held in later August/early September 1998 in Serville, Spain will include a C session on 'Economic thought and economic policy in 19th century less developed Europe'. For further information, please contact conference organizers: Maria Eugenia Mata, Faculdade de Economia, Universidade Nova de Lisboa, Travessa Estevao, Campolide P1000 LISBOA, PORTGAL, Fax:351-1-387-11-05, E-mail:MEM@FE.UNL.PT; Michalis Psalidopoulos, Panteion University, Leoforos Singrou 136 176 71 ATHENS, GERECE, Fax:0030-1-922-36-90


国際学会参加報告

 1996年の18世紀スコットランド学会(The Eighteenth-Century Scottish Studies Society; 略称ECSSS)は,第10回記念大会をフランス・グルノーブルのスタンダール大学で開催した(7月6日−9日)。今年の統一テーマは「啓蒙におけるフランスとスコットランド」であった。記念大会をフランスで行うこと自体に,スコットランド啓蒙の評価についてのある種のメッセージが含まれているといってよかろう。実際,50本ほどの報告のなかで,モンテスキュー,ヴォルテールをはじめとした18世紀スコットランドへのフランスの影響だけでなく,ファーガスン,スミス,ヒュームなどのフランスでの受容のされ方についてのセッションも設けられていた。つまり,双方向での影響関係を考えるというのが本年の一つの特色であった。また,幅広い領域の研究者を集めているのがECSSSであるとすれば,単に思想や政治,文学の面だけでなく,消費生活,教育,離婚といった社会史的視点からの両国の比較の報告が見られたのも(例えば,エディンバラ大学のN.Nenadicによる"The French Influence on Scottish Consumer Behavior in the Eighteenth Century"),この学会の特色がよく現れていたと言ってよかろう。

 我が国での研究傾向との関連で言えば,思ったより「ポリティカル・エコノミー」という言葉を目にした。「歴史とポリティカル・エコノミー」というセッションがあったり(B.B.Cochran, "Robert Wallace and Rousseau in the Classical Republican Tradition," J.B.Swenson, "Two, Three, Four or Ten Stages: On the Periodization of Enlightenment," N.Waszek, "History and Economy in Hume and Kant,"),ワツェックとともにこれまでの日本人の研究関心に比較的近いJ.ロバートソンの"Political Economy as the Matrix of the Enlightenment: Jean Francois Melon between David Hume and Antonio Genovesi"などがその例である。もっとも,いわゆるシヴィック派と,ミークやフォーブス以来の仮に言えば政治経済派との内在的な対話があるとはいえず,この辺りにこれまでの蓄積を生かした日本の研究の介入の余地がまだありそうな雰囲気ではあった。

 ところで,日本からは偶然にも,本学会会員の私(有江大介)と長尾伸一氏(広島大学)の2名が「科学と社会科学」というセッションで報告した。私はケイムズの『道徳と自然宗教の原理についての論集』(1751)の社会科学的含意について,長尾氏はニュートン主義の受容を中心とした18世紀スコットランド知識人における機械論的宇宙観についてであった。両報告とも,分野の違いはあっても18世紀スコットランド知識人の社会観,自然観の近代性に着目したものであったが,歴史的というより方法論的な報告であってECSSSに多い歴史家の参加者の関心を引いたとは言えなかった。いずれにしても,日本のスコットランド啓蒙研究の国際化の視点からすれば,今年の報告や昨年のアバディーン大会での村松茂美会員(熊本学園大)のフレッチャーについての報告をはじめとして,本学会会員の誰かが毎年継続的に報告することが研究交流の質を高める契機となると思われる。いつまでも,小林と水田の後は誰かいるのか,と言われる状況に満足しているわけにはいくまい。

 なお,学会期間中の7月8日夜,グルノーブル市街の中心にあるHotel Ibisで行われたConference Banquetは,10周年を記念して午後8時から明け方近くまで数え切れないほどのワイン,ブランデーを空けた盛大なものであった。そこで,Secretary Executive として一貫して学会の運営を切り盛りしてきた R.シャーに,記念のプレートとお酒が手渡された。学会出席者全員の拠出によるこれら記念品を手にして,感激,絶句していたシャーの姿は実に微笑ましく,美しいものであった。

(有江 大介)

経済学史学会保存資料一覧(1997年4月末現在)

 吉澤研究室,井上(琢)研究室および西沢研究室から中村のもとに送付された歴代事務局保存資料(杉山忠平〜田中真晴代表幹事・事務局:段ボール8箱,吉澤芳樹〜田中敏弘代表幹事・事務局:同2箱,津田内匠代表幹事・事務局:同2箱,学会事務センター:同16箱)を概略調査した結果,その主なものは,下記の通り。

 これからも増え続ける一方なので,種類により,永久保存・5年保存等,保存(処分)のめどを早急につけてほしい。永久保存分のみ学協会サポートセンターに保管してもらい,他は期限後は何らかの処分(販売また廃棄)を考える必要があろう(保存する場所・保管料を考慮して)。 現在,手許に集まった資料の「一覧」を幹事会のご判断の一助として示す。

(1)『経済学史学会年報』〔号(残部)〕  創刊号(7),2号(2),3号(24),4号(12),5号(58),6号(89),7号(35),8号(0), 9号(59),10号(36),11号(35),12号(89),13号(3),14号(9),15号(2), 16号(2),17号(29),18号(96),19号(76),20号(15),21号(55),22号 (26),23号(65),24号(26),25号(56),26号(91),27号(33),28号(0),  29号(51),30号(33),31号(50),32号(45),33号(124),34号(95) *製本済み(創刊号〜30号);1部(5巻),31〜35号を纏めて製本の時期。

(2)「会員名簿」(1977〜92年);製本済み1部(2巻)  残部:79,81,83,85,87,88,90,92,95年の「名簿」残部1〜71冊

(3)「大会報告集」  第59回大会(西南学院大学,1995年)残部31冊,第60回大会(中央大学,1996年)残部61冊

(4)「経済学史学会ニューズレター」  No.1(18),No.6(49),No.7(12),No.8(32),No.9(0)  ただし,Nos.1〜9は学協会サポートセンターに1セット預けている。適当な時期に製本する必要がある。

(5)「経済学史学会10年の歩み」残部8冊,「30年史」残部153冊

(6)日本学術会議「日本の学術動向」(1988年)

(7)「学会連合ニュース」  学会連合Information Bulletin:Nos.1〜8,11〜12,15〜16。各1冊  Japan Science Review:Nos.6,8〜10。各1冊  『経済学の動向』第2集:3冊

(8)寄贈本  田村光三『ニューイングランド社会経済史研究』:2冊  『学問文芸共和国 追悼 平田清明』:1冊

(9)その他  歴代代表幹事・事務局の会計帳簿等〔杉山忠平(1978年11月〜81年3月),真美一男(81年4月〜83年3月),浜林正夫(83年4月〜85年3月),羽鳥卓也(85年4月〜87年3月),田中真晴(87年4月〜89年3月),吉澤芳樹(89年4月〜91年3月),田中敏広(91年4月〜93年3月),津田内匠(93年4月〜95年3月),中村廣治(95年4月〜97年3月)〕

 *杉原史郎代表幹事以前の事務局の記録は,「30年史」に利用されたものと思われるが,吉澤研究室,井上(琢)研究室および西沢研究室より送られてきたのは,上記のちょうど「30年史」以降の分だけ。どこかに保存されているか,廃棄されたか不明。


宇佐美誠次郎会員を悼む

 宇佐美誠次郎会員(法政大学名誉教授)は,1997年4月25日,急性心筋梗塞のため,ご自宅で逝去された。享年82歳であった。「偲ぶ会」が5月24日神田の学士会館で催され,激しい雨にもかかわらず,多数の方が参会し,先生の足跡を偲んだ。

 私の手許にある本学会の会員名簿で最も古いものは1962年2月発行のものであるが,先生のお名前はすでにそれに載っているので,想像するに,先生は本学会草創期からの会員であった,と思われる。先生がマルクス主義経済学界を代表する理論家のお一人で,数々の業績をあげられたことは今更ここに記すまでもない。しかしすぐれた理論家であった先生が同時に長く本学会会員であり,また昭和期の財政金融史に関する仕事もされていた,ということは意味深いことである。理論と歴史の過不足のない有機的統合が今日改めて求められているからである。

 先生のご冥福を心から祈ります。

(中村 恒矩)
玉井竜象会員を悼む

 福井県立大学経済学部長,金沢大学名誉教授玉井竜象会員は、1997年4月5日逝去,68歳でした。氏は,1953年一橋大学を卒業し,桃山学院大学,神奈川大学,金沢大学各教授を歴任されました。研究の中心は現代資本主義から次第に政策者としてのケインズ研究に移りました。志の研究の特徴は,ケインズ全集だけでなく,ケンブリッヂにある未発表の「ケインズ・ペーパーズ」によって初期ケインズに光を当て,同時に極秘資料であった英国大蔵省公文書に直接あたり,政策者としてのケインズの実像を第一次資料から明らかにしようとするものでした。大蔵省公文書にもとずく研究は,海外の研究はケインズ反革命の風潮に乗っているのに対し,理論研究を基礎とする氏の研究は,ケインズの経済政策の真の意図と意義を高く評価するものでした。

 氏は2月以後,病床にあって今まで発表した論文を整理し,800枚を超える原稿を残しました。その努力に驚くとともに,その急逝がおしまれます。

(伊東 光晴)
大野信三会員を悼む

 大野信三先生は,1997年3月30日、97歳の生涯を終えられた。1921年立教大学を卒業,同大学講師となられ,その後1924年にベルリン大学国家学部でゾムバルト教授のもとで,理論経済学と経済学史を研究され,帰国後中央大学,明治大学,神奈川大学,創価大学などにおいて70年余にわたり経済学の研究と教育に専念され,常に「一字一句をおろそかにしない」学問の厳しさを教えてこられた。20代にヘーネー『経済思想史』,ヴェブレン『有閑階級論』,カッセル『社会経済学原論』などの名著を翻訳された。留学時の経済学史研究の成果は大冊『全訂経済学史』(上)として上梓された。先生は,ドイツ滞在中に仏教社会学説の系統的な研究を志され,わけても禅宗の倫理と東洋の資本主義の発達との内部的な関連など,探索の旅をかさねられ,大著『仏教社会・経済学説の研究』を著した。また『経済学原理』(上・下)においては,総合的な見地と実用的な進歩主義と中正・不偏の立場を標榜しておられる。94歳のとき,つとに構想を練っておられた本格的な経済学の体系書『社会経済学』を完成され,さらに『経済学史』(下)の執筆を進めるなか,「イギリスとイスラムの経済思想と経済の理論化の企て」に精力的に取り組んでおられた。病室を訪れると,よく高田保馬先生や学会のことを当時を懐かしく想い出されながらはなされていた。ここに謹んで先生のご冥福をお祈り致します。

(増澤 俊彦)

編 集 後 記

 残暑お見舞い申し上げます。

 多少遅れましたが,学会ニュース第10号をお届けします。今回は,郵送費節約のため,会員名簿,大会案内,同出欠アンケート葉書も同封されておりますのでご確認下さい。以上のうち欠けているものがありましたら,速やかに事務局にお申し出下さい。

 尚,今回は新たに会員名簿を作成しましたので,『学会ニュース』の住所・所属等変更・訂正欄については省略しました。その後の変更・訂正については御面倒でも事務局にご連絡下さい。

 本10号から青山学院大学の担当となりましたが,何分にも慣れぬことで色々と多数の会員の方々にご迷惑をおかけしました。部会報告のうち,関東部会の分が2回分欠けておりますが,次号にまとめて載せる予定でおります。又,今回間に合わなかった弔辞も次回に載せますのでご執筆の方には宜しくお願い申しあげます。

 最後に,今回のニュース作成においてパソコンを駆使し見事にレイアウトして下さいました青山学院大学経済学部の藤井賢治会員に厚く御礼申し上げます。                   

(根岸 隆・石井 信之)
 事務局最初の仕事は名簿整理でしたが,ここで威力を発揮したのが,SHETのメイリング・リストでした。20名弱の宛先不明者の照会をしたところ,数日のうちに大半が判明しました。また,国際学会情報もSHETにリンクされているHESなどから入手したものが含まれています。スペースの関係上掲載できませんが,実際に入手可能な情報は遙かに多く,またアップ・トゥ・デイトなものです。(SHETについては,本号に詳細が紹介されています。)また,パソコン利用という点ではインターネット以前の問題ですが,ニュースレターの原稿も可能な限りフロッピーでの入稿をお願いできないでしょうか。ワープロ打ちされた原稿を再度入力し直すのはどう考えても無駄と言うしかありません。また正直に申し上げて,そうしていただけるとニュースレターの作成を省力化でき,負担が大幅に軽減されます。
      (藤井 賢治)
 なお,会員数を増加させるための方策として,入会申込書を同封いたしました。入会希望者の方がおりましたら,是非御勧誘下さい。
(事務局)
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『経済学史学会ニュース』第10号
1997年8月10日発行
経済学史学会 代表幹事 根岸 隆
事務局 〒228渋谷区渋谷2-2-25
青山学院大学国際政治経済学部(根岸研究室)
Tel. 03-3409-8111(代)
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