経済学史学会ニュース
The Society for the History of Economic Thought Newsletter

(本吉 祥子作成)
第17号(2001年1月) ISSN 0919-0384




幹事会・総会報告
 
 去る2000年11月10日(金),一橋大学・佐野書院で経済学史学会の幹事会が,また11日(土)には同大学東校舎で次期幹事会と総会が行われました。両幹事会と総会の主な報告・審議事項は次の通りです。

 1. 事務局より会務報告が行われました。@本学会推薦の塩野谷祐一会員が第18期学術会議会員に決まり活動を開始されたこと,A6月幹事会以降の退会者・新入会員申し込み者・住所変更等の会員異動です。今回18名の新入会員が承認され,6月30日の会員数は839名(『経済学史学会ニュース』16号)で6月幹事会以降4名の退会者がありましたので,11月10日現在の会員数は853名となりました。(「会員異動」,参照)

 2. 2001年4月1日から2年間の幹事・監事の選挙結果の報告が遠藤和朗選挙管理委員会委員長よりありました。今回生じた被選挙人1名の名簿記載漏れとその処置についても報告があり,被選挙人の通知後1週間ないし10日間ほどの被選挙人名簿の確定期間をおいてから郵便投票を開始する方がよいとのコメントがありました。(「幹事・監事選挙結果」,参照)

 3. 年報編集委員会,大会組織委員会,英文論集委員会,企画交流委員会,学会50周年記念事業各種委員会,および日本学術会議,同経済理論研究連絡委員会,日本経済学会連合の報告がありました。(「各委員会報告」,参照)

 4. 代表幹事より,2000年度決算および2001年度予算から,学会の会計報告の方式を収支計算書方式からキャッシュフロー計算書方式に変えることについて提案があり,承認されました。これは,収支計算書方式では「前期繰越金」が収入に入るために,収入に支出を合わせる予算を組み,次期も同額の予算を組むと赤字になってしまうという陥りがちな危険を避けるためです。キャッシュフロー計算書方式では,「前期繰越金」は収入に入りませんので,その期の支出はその期の現金収入に合わせることが簡単明瞭に出来ます。その際,キャッシュフロー計算書方式では,どの位の繰越金をもつのが適切かという点が重要になりますが,経済学史学会としては,色々な事業のために取り崩す可能性,値上げしないですむための予備として,1年の会費分位を繰越金の目安にすることに致しました。(「新旧会計方式対照表」,参照)

 5. 第18期の日本学術会議経済理論研究連絡委員会委員を千賀重義会員とすること,日本経済学会連合の次期評議員を音無通宏・池尾愛子会員とすることを決定しました。

 6. 年報の年2号化を進める上で,編集体制や外国の経済学史家によるadvisory boardの構成等について決定しました。(「年報編集委員会報告」,参照)

 7. 11日の新幹事・監事による次期幹事会で,次期の代表幹事と常任幹事(各委員会委員長)の選出が行われました。次期の代表幹事と常任幹事は次の通りです。任期は2001年4月1日から2年間です。
 


次期幹事・監事選挙結果
 

                                       (馬渡 尚憲)

決算・予算
 

新旧会計方式対照表(例)

新キャッシュフロー計算書方式による会計報告
1999年度決算 2000年度予算
収入
収入
会費
6,730,000
会費
6,320,000
年報売上
103,800
年報売上
100,000
年報広告掲載料
240,000
年報広告掲載料
200,000
文部省助成
260,000
文部省助成
900,000
利子収入
693
利子収入
1,000
大会報告集売上
0
大会報告集売上
10,000
臨時収入
143,591
臨時収入
130,000
借入金
0
借入金
0
刊行物売上
4,800
刊行物売上
700,000
収入合計
7,482,884
収入合計
8,361,000
支出
支出
大会費
400,000
大会費
350,000
部会補助費
156,998
部会補助費
190,000
会議費
359,200
会議費
425,000
刊行物編集費
976,130
刊行物編集発行費
1,100,000
年報編集発行費
1,846,184
年報編集発行費
2,144,618
大会報告集印刷郵送費
388,330
大会報告集印刷郵送費
400,000
事務局費
741,712
事務局費
750,000
選管費
0
選管費
100,000
会員名簿印刷費
262,500
会員名簿印刷費
0
センター費
917,479
センター費
840,000
経済学会連合分担金
35,000
経済学会連合分担金
70,000
予備費(50周年準備等)
408,718
事業費
100,000
前年度未払い金支払
0
予備費
300,000
支出合計
6,492,251
支出合計
6,769,618
純収支
990,663
純収支
1,591,382
前期繰越金
602,435
前期繰越金
1,593,068
次期繰越金
1,593,068
次期繰越金
3,184,450

旧収支計算書方式による会計報告
 1999年度決算書
収入
支出
前期繰越金
602,435
大会費
400,000
会費
6,730,000
部会補助費
156,998
年報売上
103,800
会議費
359,200
年報広告掲載料
240,000
刊行物編集費
976,130
文部省助成
260,000
年報編集発行費
1,846,184
利子収入
693
大会報告集印刷郵送費
388,330
大会報告集売上
0
事務局費
741,712
臨時収入
143,591
会員名簿印刷費
262,500
借入金
0
センター費
917,479
刊行物売上
4,800
経済学会連合分担金
35,000
予備費(50周年準備等)
408,718
前年度未払金支払
0
次期繰越金
1,593,068
 ・預金
1,587,608
 ・現金
5,460
合計
8,085,319
合計
8,085,319

 
2000年度予算
収入
支出
前期繰越金
1,593,068
大会費
350,000
会費
6,320,000
部会補助費
190,000
年報売上
100,000
会議費
425,000
年報広告掲載料
200,000
刊行物編集費
1,100,000
文部省助成
900,000
年報編集発行費
2,144,618
利子収入
1,000
大会報告集印刷郵送費
400,000
大会報告集売上
10,000
事務局費
750,000
臨時収入
130,000
選管費
100,000
借入金
0
会員名簿印刷費
0
刊行物売上
700,000
センター費
840,000
  経済学会連合分担金
70,000
事業費
100,000
予備費
300,000
次期繰越金
3,184,450
合計
9,954,068
合計
9,954,068



各委員会報告

○年報編集委員会
 

I. 第38号(年1号システムの最終号)は2000年11月に予定通り刊行されました。

 1. 「特集:私の経済学史研究―20世紀の学史研究をふりかえって」は12本プラス代表幹事序文で構成されています。

 2. 「公募論文」は16本(英文は2本)の応募があり,そのうち5本(すべて日本語)が採用されました。

 3. 「書評」(書評チーフ・エディターは上宮正一郎委員)の対象になったのは和書18点,洋書14点です。 

II. 第39号(2001年5月刊行予定)は以下のような構成で鋭意,作業を進めています。

 1. 「特集」は「経済学史研究の現状と今後―21世紀の船出にあたって」(仮題)に決定し,10数名の方に執筆依頼を行っています。うち数本は英文になる予定です。

 2. 「公募論文」は8点(英文は1本)の応募があり,そのうち2本(すべて日本語),ならびに前号での「サスペンド論文」3点の計5点が,以下のように採用されました。

   石塚 幸太郎「1840年代のアメリカにおけるフーリエ主義の受容」
   齋藤 隆子 「ハロッドの「経験の原理」と帰納法」
   西  淳  「ワルラス的調整ルールと時間構造」
   本郷 亮  「初期ピグーの再評価」
   若森 みどり「カール・ポランニーの「二重運動」と自由」

 なお,今回の「サスペンド論文」は2本でした。

 3. 「書評」(書評チーフ・エディターは坂口正志委員)は,洋書9点,和書11点で構成される予定です。

III. 新システム構築についての報告

 第39号からは,以下の通り,システムが大幅に変わります。

 1. 毎年5月(特集+投稿論文+書評)と11月(大会時)(研究動向+投稿論文+書評)に発行。
   「研究動向」は,枚数をこれまでの400字で25枚から40枚に増やし,サーヴェイにとどまることなく,より研究的な色彩をもつものものにすることが,幹事会で決定しています。

 2. 表紙デザインの一新。

 3. 市販システムの導入。

 4. 編集委員会を10名にする。委員長1名,特集・研究動向担当3名,投稿論文担当3名,書評担当3名,会計・市販担当(兼任で2名)を設ける。
  ただし,これは第40号からの体制です。

 5. International Advisory Board制度の設置。
 数名の外国人学史家にたいし,就任を依頼することが,11月に開催の幹事会で決定しています。5年任期,有給といったことが決まっていますが,細部については,常任幹事会に一任されており,現在,原案を作成中です。

IV. 第40号(2001年11月刊行予定)について,すでに確定しているのは次の点です。

 1. 新委員長に高哲男会員(九州大学)が選ばれました。

 2. 「書評」チーフ・エディターは高草木光一委員です。

 3. 「公募論文」は,第38号に記載の通り,2001年3月11日締め切りです。「公募論文に関する規定」を以下に,再掲いたします。多数の応募をお待ちいたしております。

『経済学史学会年報』公募論文に関する規定

(平井 俊顕)

○大会組織委員会
 

 1. 2001年の第65回大会は,関西学院大学で11月10・11日に開催されます。

 2. 第65回大会における報告の申し込み・推薦については,昨年から大会組織委員長宛に送付することになっております。また,秋の総会でご報告したように,今回から推薦の締め切りは3月,申し込みの場合は4月と一ヶ月の違いが設けられましたので,ご注意ください。推薦され,報告を希望される方に,一ヶ月以内に報告要旨を提出していただくためです。申し込み用紙その他の詳細は,学会ニュースと同封してお手元に配布されております。

 3. 第65回のフォオーラムは,@日本経済思想史(組織者:小室正紀),Aイタリア経済思想史(組織者:堀田誠三),Bオーストリア経済思想史((組織者:尾近裕幸)です。

 4. 66回大会(2002年)での,共通論題またはフォーラムのテーマを募集しております。どしどしご意見をお寄せください。
 

(高 哲男)


○英文論集委員会
 
 英文論集第2号,Yuichi Shionoya (ed), The German Historical School: The Historical and Ethical Approach to Economics が Routledge 社から,叢書Routledge Studies in the History of Economics の第40巻として出版された。
 
(第2集編集委員長 塩野谷 祐一)


 スコットランド啓蒙と経済思想を主題とする英文論集の第3集について,英国Routledge社と出版交渉を続けてきましたが,この度,同社からの出版が正式に決定されました。論集のタイトルはとりあえず,The Scottish Enlightenment and the Rise of Political Economyとし,執筆者,各章のタイトルは,ほぼ『ニュース』第15号に掲載されている通りとなります。2002年秋の出版を目指して,現在,執筆および編集作業が鋭意進められています。

(第3集編集委員長 坂本 達哉)

○50周年記念事業関係
 

(1)辞典編集委員会

 すでにご存知の通り,学会50周年記念の経済学史学会編『経済思想史辞典』(丸善)は,6月末に刊行されました。初刷り2000部でしたが,お陰様で順調に捌けて行き,この11月20日には,800部の重刷を行いました。その際,学会ニュース前号で申し上げておきました誤植・誤りを,会員の皆様からのご指摘も入れて訂正しました。誤りをご指摘いただいた会員の方々にはお礼申し上げます。これで一段とミスの少ない信頼できる辞書になったと思います。本辞典が今後長く,経済思想史の研究や勉強に役立つことを願っております。この『経済思想史辞典』に関しまして,すでに『学灯』に加藤尚武氏(哲学),『経済論集』(関西大学)に杉原四郎先生の書評ないし書評論文が出ておりますので,ご参照下さい。なお,編集委員会は任務を終え解散しましたので,何か御連絡がありましたら,私か高哲男会員に行って下さい。
 

(馬渡 尚憲)


(2)記念講演委員会

 第64会大会(一橋大)において,水田洋名誉会員による記念講演「経済学史学会の50年を回顧して」と,記念シンポジウム「市場経済の理解と評価:経済学史研究の立場から」とを無事に終えることができました。講演およびシンポジウムの開催にご協力をいただいた会員各位にお礼を申しあげます。

(竹本 洋)


(3)データベース委員会

 大会初日の11月11日に特別教室で「経済学史・経済思想史文献データベース (JSHETDB)の試行版の公開(デモ)をおこないました。このデータベースの特徴は,日本国内で発生した本学会の研究領域の文献を日本語・英語双方で登録していることで,学史学会のサイトにあるデータベースのページにインターネット接続してご利用いただけます。

 まだデータ件数が少ないのが難ですが,今年度中に1万件のデータを入力して一般公開する予定です。残念なことに,データの提供,収集にご協力いただいた会員はまだ全会員数の2割に達していません。再度,ご理解とご協力をお願い申し上げます。また,すでにデータをご提供いただいた方にも,新しいデータが発生次第,御追加をお願いします。ご自分で英訳をご付加いただき,また電子ファイル化もしていただけるなら,委員は涙が出るくらいありがたく思います。形式については,学会ニュース第16号をご覧ください。(作成の仕方がわからない場合は,委員に御相談ください。)
 
 今後は,データベース委員会は企画交流委員会の下の常置の専門委員会となり,生まれたばかりのデータベースの育成にあたります。委員構成はとりあえずは,現在のまま(赤間道夫,池尾愛子,大村泉,塘茂樹,野口旭,若田部昌澄の5委員と委員長・八木)です。どうぞご支援ください。

 【郵送でデータを提出する場合の宛先】
〒606-8501京都市左京区吉田本町 京都大学経済学部八木研究室 yagi@econ.kyoto-u.ac.jp

 【電子ファイルでデータを提供する場合の宛先】
〒790-8577 松山市文京町3 愛媛大学法文学部赤間研究室 akamac@ll.ehime-u.ac.jp

 【学会ホームページでの登録・検索】
http://society.cpm.ehime-u.ac.jp/shet/jshetdb/jshetdb.htm
 

(八木 紀一郎)
(4)50年史委員会

 『経済学史学会50年史』正誤表(略)

 [お詫び] 経済学史学会の記録として万全を期すべき『50年史』に二,三の脱漏と多くの誤植が残り,担当者として会員諸兄姉に深くお詫びします。漢字旧・略字体の不統一が残っていますが,あしからずご容赦下さい。まだありうべき誤植等お気付きの場合は,お手数ながら事務局または小生にご一報下さるようお願い致します。なお,「正誤表」作製に松本有一会員と事務局のご助力を頂き,厚く感謝します。

(中村 廣治)


○日本学術会議
 
  第18期の第3部(経済学)会員として本学会から塩野谷祐一が選出された。平成12年7月26日に辞令交付があり,続いて7月27-28日に総会,部会,常置委員会などが開かれ,会長に吉川弘之,副会長に吉田民人および黒川清が選出された。

 9月28-29日には連合部会,部会,常置委員会などが開かれ,10月30日-11月2日には総会,連合部会,部会,常置委員会などが開かれ,第18期活動計画が決定された。この計画では,(1)学術の状況および学術と社会との関係に依拠する新しい学術体系の提案,および(2)人類的課題解決のための日本の計画(Japan Perspective)の提案が謳われている。

 日本学術会議はその社会的役割を再構築するという趣旨に基づき,12月18日,諸外国の科学アカデミーの代表者を招き,緊急シンポジューム「21世紀の科学アカデミーをデザインする」を開催した。

(塩野谷 祐一)

【参考:日本学術会議



○日本学術会議経済理論研究連絡委員会
 

 11月1日に開催された第18期経済理論研究連絡委員会の第1回の会合で審議された主な内容は次のとおりである。まず委員長に学術会議会員の鈴村興太郎氏を選んだ。次に平成13年度代表派遣国際会議の推薦については希望を募ったうえ人選を委員長一任とした。平成14年度科学研究費補助金審査委員候補者推薦については,定員6名を,日本経済学会2,経済理論学会1,経済学史学会1,社会思想史学会1,応用地域学会1に配分することで合意した。また第18期の経済理論研究連絡委員会の活動計画については,講演会ないしシンポジウムを開催することとし,さしあたり小委員会(神谷和也,千賀重義,増田寿男)で企画を検討することとなった。その他,学術審議会の科学研究費分科細目改正検討委員会およびその経済学ワーキング・グループの作業状況について報告があり,意見交換が行われた。
 
(千賀 重義)

【参考:日本学術会議



○日本経済学会連合報告
 
 2000年度第2回評議員会が10月16日早稲田大学で開かれ次の事項が了承ないし協議,決定された。

@ 本年度第2次国際会議派遣補助(日本商業学会,日本財政学会へ各30万円)

A 本年度第2次学会会合費補助(経営史学会へ5万円)

B 『英文年報』第20号は例年どおり12月に刊行予定。

C 平成12年度会計中間報告。

D 日本広告学会,日本経営倫理学会からの経済学会連合への加盟申請の審査手続きを進めることが了承された。

E 2000年5月25日に開催された学会連合創立50周年記念事業費は特別会計事業運営基金の取崩し(200万円)で引き当てることが了承された。

F なお,経済学史学会総会で次期の学会連合評議員として音無通宏会員,池尾愛子会員が就任されことが承認された。
 

 (和田 重司)




会員異動(詳細は省略)
 1. 退会者    4名(11月10日承認分ほか)

 2. 新入会員    18名(11月10日承認)

[会員数]839名(『経済学史学会ニュース』16号)- 4名(6月幹事会以降の本年度退会者数) + 18名(11月10日承認新入会員数)=853名(2000年11月10日現在会員数)


 3. 住所等変更    2000年7月20日〜2000年12月20日(以下略)




部会活動

北海道部会過去の部会活動
 



 
加地 直樹「ヴェブレンの制度進化論におけるエミュレーション概念」

                
  ヴェブレンの制度進化論において,“エミュレーション(emulation)”という概念は行為規範を形成する人間性の要素として解釈される。本報告は,彼の制度進化論におけるエミュレーションの役割,制度進化過程におけるその傾向の変化について検討したものである。

 ヴェブレンの制度進化論は累積的構造であると解釈されているが,これはまた行為規範の累積的進化ということができる。すなわち,制度進化の初期段階において,人間本性として根底で機能する製作本能――無駄や非効率を非難し,経済上・産業上の効率を追及する本能――によって最も初期の行為規範が形成され,それによって人間は社会的・物質的環境に適応してきたのだが,それら環境に対し積極的に働きかけるという行動を繰り返す上でエミュレーションという人間性の要素が生じ,新たな行為規範が累積されるという進化形態である。エミュレーションという概念は,一元的に解釈するならば「競争心」や「見栄」として解釈されるものだが,エミュレーションは制度進化の過程において,単一の傾向を示すのではなく,産業的効率,功績,私有財産・金銭的財貨の高低,生活水準といった様々なエミュレーション推進動機の変化によってその傾向を変化させている。このことを考えると,その概念は,制度進化の段階順に,次のように多元的に解釈することができるだろう。(1)製作本能の発現としての勤労的エミュレーション。(2)個人の功績を追求する競争としてのエミュレーション。(3)妬ませる比較としてのエミュレーション。(4)自己顕示としての金銭的エミュレーション。(5)見栄・模倣としてのエミュレーション。以上のようにエミュレーションは傾向を変化させるのだが,その変化によって行為規範の進化=制度進化をもたらすものとして,それはヴェブレンの制度進化論において重要な概念であるということができる。
 


田中 求「シュンペーターにおけるイノベーション再考」
 

 シュンペーターのイノベーション論は,彼の総合的社会科学の一部であるだけでなく,その核をなしていると理解される。そして一方では,周知のようにシュンペーターの全容解明が,国際的にもまた日本のシュンペーター研究においても,80年代の初頭から,とくに90年代の終わりに至る約20年間を通して進んできている。

 こうしてシュンペーターの経済社会学者としての側面が,より鮮明になってくる中で,改めて彼の経済学,とりわけ彼のイノベーション論を取り上げたいというのが,私の主張するところである。なぜなら第1に,それぞれの実学的領域においてイノベーションの問題を取り上げることが珍しいことではなくなっていること。第2に,イノベーション研究における研究体制にも目覚しい展開がみられるからである。もし現実的にイノベーションの問題に関する関心が高まっているとするなら,重層的な研究が期待されているといえるわけで,シュンペーターの学説史の中からも,こうした動向に対して何か資するものがあると考えられる。 そして第3に,シュンペーターが現代において,どんな意味があるかと考えるとき,それはもちろん天才的一経済社会学者の思想全般ともいい得るけれども,私は彼の最も有名かつ今日では常識的な知識のひとつであるイノベーション論が,現実のイノベーションに関わる問題の中で,何が現代でも有益で,またその限界とするところは何かということについて,ある程度時間をかけ,まじめに取り組んだ上で明確にすることではないかと考えるからである。すなわちシュンペーターは,最大の武器をもってして,現代において自らを証明すべきであるというのが,私をシュンペーターの経済学に向かわせる理由である。

 以上の点から、昨年の第63回全国大会自由論題での報告の問題意識を拡充する形で、企業者と銀行家機能からなる彼のイノベーション論における学際的展開の可能性について論じた。


関東部会過去の部会活動
 



 
星野 彰男「高島善哉における市民社会的スミス論の形成」

 
 『経済社会学の根本問題』(1941)のスミス論は,「第三の科学」としての「経済社会学」の一環として展開された。それは,単なる「学史」の対象としてではなく,現実的問題に応えるための「学」として提起されたところに,その独自性があった。卒業論文(1927)は,400字 220枚の力作だが,オーストリー学派やシュンペーター(および高田保馬)等の二分法を検討した上で,それに納得できない理由を詳細に論述し,その統合化を試みたものである。助手時代(1929)の高島は,マルクスがその疑問への解答を与えていたとみなしたが,スミスも事実上それに応えていたことには思い及ばなかった。高島がスミスを読むに至ったのは,「外書講読」を担当した際に,指定図書のうちから『国富論』を採り上げたことによる。リスト研究のかたわらスミスを毎年読み進むうちに,リスト等のスミス批判のあり方に根本的な疑問を抱くようになり,スミスを本格的な研究対象とするに至る。

 かくして,スミス論と市民社会論と経済社会学とが相互に絡み合い,融合されつつ,同時的に論究された訳だが,それらのうち「経済社会学」用語の成立過程に最も力が込められており,その意味で,そこに着目することが,高島スミス市民社会論の形成という視点から見ても,最も重要なキ−ポイントである。その方法視点によれば,「直観」と「合理」との諸々の無媒介的視点が批判の眼にさらされる。限界効用価値論は「心理主義」として,ヴェーバーの理解社会学は「断片主義」として,ゴットル等は歴史「超越」論として,シュンペーター等の「静態」理論は「道具主義」として,また,シュモラーは,道徳と経済を区別せずに一体化したという意味で,いずれも無媒介的であるとされた。高島は,それらを「経済社会学への生成過程」と述べ,それらの無媒介的視点を克服しうるものとして市民社会的スミス論を展開し,その基本原理として生産力と価値論を設定した。


野沢 敏治「内田義彦と市民社会の再定義」
 

 これまでの日本の経済学史研究を支えてきた方法の1つに市民社会論がある。それは歴史を封建的で共同体的な人間関係から権利意識をもって合理的に経営を行なう自立的諸個人が形成する市民社会へ向かうと認識していた。その近代市民社会論をもってヨーロッパ経済学史研究をおこなった1代表が内田義彦である。彼に代表される市民社会論は今日の情報社会化や世界資本主義の段階にあっても,日本経済を認識する上でも実践的に変革していく上でもなお有効である。

 だが,それだけでは済まない課題がある。環境問題や民族的対立,科学技術と倫理の問題等である。多少遅めの感はあるとしても,市民社会論はそれらの問題に自ら応えていかねばならない。つまり,市民社会の再定義が必要である。

 この再定義は実は内田自身が既に試みていた。後学の我々はその試みに倣い,もっと展開していくべきであろう。

 内田は戦中に技術論争に参加したり,梯哲学や久保「火山灰地」から影響を受けたり,現代資本主義下におけるミクロ的マクロ的な構造変化に関心を持ったりして,また戦後には経済再建と民主革命のありかたに発言したりして,生産力の理論を鍛えていく。その成果が『経済学の生誕』(1953年)となって現れる。

 けれども彼は60年代後半から70年代前半にかけて,生産力論では十分に解明できない諸問題にぶつかり,それらを自分の課題として引き受けていく。その最初の仕事が「発端」(1970年)論文においてなされる。本報告では幾つかあるその仕事の1つとして政治の再検討部分のみを取り上げる。

 この論文で彼はスミスの市民社会概念の中に私的諸個人だけでない集団があることを,そして国民があることを再発見する。その上で彼はスミスの課題を,集団的利益の追求を通じて私的利益が国富の実現に向かう制度の発見に,また国民的利益の追及を通じて世界平和をもたらす制度の発見に置いたと解釈する。

 これでわかるように,内田では政治行為への関心が薄い。実際にはスミスは『国富論』の重要な編別構成のところで,歴史的に成立してきつつある市民社会を本来的重商主義の国家統制と功利主義思想から解放する産婆役としての政治家論を展開しており,この公共性の議論を抜きにしてはスミス市民社会論は画竜点睛を得ないと言ってよいのである。
 以上の内田市民社会論の再検討を彼の他の仕事にまで及ぼしていくべき時である。




 
山之内 靖「戦中日本の市民社会論の問題像」

 一九三〇年代初頭のヨーロッパ社会哲学をみると,そこに深刻な危機意識が広がっていたことが判る。そうした危機意識の出発点となったのはルカーチ『歴史と階級意識』(一九二三年)であった。『歴史と階級意識』により,「マルクス・ヴェーバー」問題は,近代社会の登場いらい社会科学にその基準をしめしてきた社会哲学の危機を鋭く表現する焦点となって立ち現われた。カール・レーヴィット『ヴェーバーとマルクス』(一九三二年)は,ルカーチによって発端が与えられたこの動向を代表する著作であった。レーヴィットは,マックス・ヴェーバーの諸著作を貫く理論的志向を仔細に検証し,それが啓蒙主義的近代に特徴的な科学論への決定的な批判であったことを確認している。ヴェーバーは近代の彼方に明るい進行の方向を予定するいかなる展望にたいしても,これを特定の価値観念に基づく一面的認識とし,それへの安易な同調を拒絶した。この一連の作業に当たってレーヴィットが主たる参照枠組みとしたのは,ヨーロッパ近代とその自己評価をなす啓蒙主義にたいして破壊的な揺さぶりをかけたニーチェの諸作品であった。

 このレーヴィットの著作は,日本においても広く受容された。にもかかわらず,日本のヴェーバー研究のなかでレーヴィットのこの著作をその本来のテーマに即して受け止める兆候は,これまでほとんど存在しなかった。それは,日本におけるヴェーバー研究の主流を担った市民社会派において理論的基調をなしたのが,啓蒙主義的近代の社会哲学だったからである。何故にレーヴィット本人の強調点がこうも頑なに無視され続けたのか。この問いはそれ自体として日本の社会科学の質を問う基礎作業となるであろう。
 


12月例会
 

  • 日 時:2000年12月9日(土) 13:00-18:00
  • 会 場:専修大学神田校舎

  •  
  • 司会:野口 眞(専修大学)
  • 「シンポジウム 市場・社会・国家の再定位――新たな政治経済学の統合をめざして――」
  • 報告1
  • マルクス,ハイエク,ポランニーの視点から見た市場・社会・国家
  •  杉浦 克己(帝京大学)
  • 報告2
  • ポストケインズ派経済学の成果とその将来展望
  • 黒木 龍三(立教大学経済学部)
  • 報告3
  • 経済学(史)における世界システム論
  • 清水 和巳(早稲田大学政治経済学部)
  • 予定討論:石塚 良次(専修大学)・植村 博恭(名古屋大学)・田中 秀臣(上武大学)

  • 関西部会過去の部会活動
     

    第139回例会
     
  • 日 時:2000年12月9日(土)
  • 会 場:大阪経済大学

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  • 報告1
  • 報告2
  • 報告3
  • H.J.ダヴェンポートの貨幣的マクロ経済理論
  • 小島 専孝(京都大学)

  • 本郷 亮「ピグー経済学と景気変動――ケインズ革命以前について――」
     
     本報告は文献考証的アプローチをとり,@ピグーがいつ,どのような経緯で景気変動論・失業論の研究へと進んだか,A彼の議論はどのような特徴を有していたか,という2点を明らかにせんとしたものである。

     ピグーは1907年に王立救貧法委員会からの要請を受け,「救貧法による救済の経済的側面および効果に関するメモランダム」を委員会に提出した。委員会への関与を通じて,彼はウエッブらの公共事業論の存在を知り,これがピグーに景気変動論研究の大きな動機を与えたと考えられる(ウエッブは1909年に『救貧法委員会少数派報告』を公刊し,彼の公共事業論を強く主張することになる)。ケンブリッジの本格的な景気変動論・失業論の研究は第一次大戦前のこの時期に始まったのであり,そこにはウエッブらの影響があったと考えてよい。また1907年の「メモランダム」は,ピグー厚生経済学の第1・第2命題が初めて登場する点(第3命題は1912年の『富と厚生』に初めて現れる),また厚生と経済的厚生の区別が初めて登場する点で,ピグー経済学の形成過程を考察する上でも非常に注目される。

     ピグーの景気変動論は,伝統的な「賃金基金説」の批判およびその再構築によって特徴付けられる。彼は賃金基金を固定的なものと見なさず,可変的であるとした。労働需要は賃金基金の量に依存し,さらに賃金基金は彼の指摘する3つの要因,すなわち(a) 実物的要因,(b) 心理的要因,(c) 貨幣的要因によって増減せしめられる。

     第一次大戦時の特需景気とそれに続いた戦後不況,この2つの時期のコントラストから,『厚生経済学』(初版, 1920)においてピグーは過少消費(過大な貯蓄)の弊害を明確に認識するに至った。この認識は1920年から1935年までの彼の著作の中に繰り返し現れている。
     


    西岡 幹雄「横井小楠の「富国論」の形成と「開通」政策思想」
     報告では,「幕末の代表的思想家」でありながらこれまで取り上げられることの少なかった横井小楠[1809-1869]の経済政策思想について,1幕藩システム下で閉鎖体系から開放体系に「国是」として移行する場合,「専売制」の政策思想が「実学」レベルでいかなる思考変化をたどるのか,2東アジア文明圏での「外国交易」論と,「富国論」を通じて形成される「世界万国の公共の道」である「交易の理」とは,どのような政治経済システム上に構築されのかを明らかにしようとした.その結果,交換経済(市場経済)は,東アジア領域での伝統的「交易」観−形式的に自分の威信を高めるため経済的利得を贈与したり場合によっては浪費しても「徳の感化」(政治・社会・文化的統合を含めた)統合基準からの例外的派生(周辺の論理)−から,どのように「人生交易の理」として人間性向に対する価値観の原則的転換を可能にするのかということ .そしてこの転換は,小楠が育った熊本藩の「櫨方」を中核にした(財政や金融の措置を含めた包括的な)産業政策や「開国以前の福井藩の専売制仕法」に対する批判的分析に呼応して,「富国論」が念頭におく経済循環や「大問屋」制の構想,あるいは実際福井藩で実施された「物産総会所」方式と密接に連関する.こうした「公共の道」は,「あえて洋風を尚ぶ」のではない,本来東アジアに備わっていたもの,否「万国」すべてに備わっているはずのものであり,個人・家族(ミクロ)から藩政・日本国・世界(マクロ)への活動基準をダイナミックに連動させていく思想的基盤であった .小楠にとって経世論の領域での「公議」による富国論を,政策的にいかに「実践躬行」するかという本質的な目的と手順が,明治維新後,残されたというべきであろう。

    小島 専孝「H.J.ダヴェンポートの貨幣的マクロ経済理論」

     ダヴェンポートの主たる貢献は価値と分配の理論の批判的検討にあり,マクロ経済に関する議論は中心的なものではない。実際,ダヴェンポートの名は信用創造理論など断片的に言及されるだけであり,たとえばパルグレーブ事典の記述を見ただけではダヴェンポートにマクロ経済に関する議論があることさえわからない。他方,ケインズの先行者というフランク・ナイトの評価もある。そしてウォーバートンは「20世紀初頭の貨幣的不均衡理論」の代表者の一人としてダヴェンポートを評価している。しかし,ウォーバートンは累積過程をヴィクセル流に2つの利子率で述べるなど問題を残している。

     本報告は,平井版ヴィクセル・コネクションが古典的伝統に対峙するものとして提示されていることに対して,均衡理論の系または随伴物として提示されているウォーバートンの貨幣的不均衡理論を取り上げることでヴィクセル・コネクション批判に代えるともに,ヴィクセル・コネクションに解消されないようなダヴェンポートの独自性に注目した。

     ダヴェンポートの累積過程の議論では貨幣利子率についてほとんど議論がないだけでなく,そもそも貸付がなぜ貨幣でなされ実物でなされないのかを論じていること,貯蓄は必ずしも投資にならないと主張していること,貨幣の価値貯蔵機能(「遅延選択権」としての貨幣)に基づいてセー法則に疑念を表明していることなどを明らかにした。




    西南部会過去の部会活動




     
    米田 昇平「ムロンとフォルボネの商業論――18世紀フランス経済学の現実接近のあり方をめぐって――」
     ボワギルベール→(カンティロン→)ケネーのラインは,農業生産に基礎づけられた自然的秩序の観念に基づいて,農業における過小生産の解消によってフランス経済の再建(発展)を果たそうとしたが,グルネやフォルボネは先進イギリスの経済的側圧に抗して,フランスにおける生産力体系の確立をめざした。ボワギルベールとフォルボネの中間の時点にあって,ボワギルベールと一面では交錯しつつ,しかしインダストリー論,奢侈論,貨幣・信用論などの新たな諸論点を提示することで,フォルボネの先蹤をなしたのがムロンであった。ヴォルテールやモンテスキューなどと時代精神を共有し,当時の英仏経済学の成果の上に,「商業」の新たな展開に対応しうる新たな「統治システム」を探究しようとして,フランスにおいて初めて経済諸問題を体系的に論じたムロンの試みは,フランス済学の展開の一結節点としての重要な意義を担うものであった。

     ムロンは文明の進歩の上で技芸とインダストリーの担いうる固有の積極的機能に着目し,技芸の進歩とインダストリーの増大をもたらす主体的,客体的動因を人々の奢侈的欲求に求める一方で,インダストリーの増大の1条件として信用創造や貨幣の改鋳による流通通貨の増大を唱えた。前者の奢侈容認論にはヴォルテールがただちにこれに応じるなど,これを契機に奢侈論争が惹起され,後者の貨幣・信用論にはデュトが反論するなどして,貨幣論争が生じた。ムロンはこのような18世紀を通じて問われ続ける重要な問題軸を提示する一方で,体系的論述の帰結として,「自由と規制」の両面政策を具体的内容とする新たな「統治システム」の構築を唱えて,ボワギルベールとは異なる現実接近の新たな方向性を切り開いた。これを生産力視点から独自の「自由と保護の経済学」の構築によって引き継いだのがフォルボネであった。



     
    岩下 伸朗「マーシャルの進化論的展開の再検討」                  

     新古典派の源流とされる一方で,進化論的ともされるマーシャル経済学の特徴について再検討した。『原理』第4編第8章「産業組織」および『産業と交易』第1編第9章「産業と交易の現在の諸問題への移行」に示されるマーシャルの進化論にたいする認識の特徴を確認し,それが,彼の歴史認識や理論展開の型を支えていることを整理してみた。マーシャルは,ダーウィン進化論における「最適者生存」とは,基本的には,環境を利用するのに適した有機体が(結果として)生存を確保する,ということにすぎず,生存する有機体自体は環境に対し有害なこともありうるとの認識をまず確認する。しかし,蟻や蜂などの集団的特性をもつ生物界にも見られるように,社会有機体においては,その各成員の「利他的犠牲的」活動が,その有機的組織全体を支え,それによって,有機体(たとえば種族)の存続がもたらされている事実を確認する。つまり,個々の主体の環境への適応過程が,同時に環境にたいして有益であることが,社会有機体存続の重要な条件になるのである。こうして,マーシャルは生物集団組織にその原型を認めつつ,しかし,生物界とは異なり「意識的な調整」=「企業家的精神」に基づく社会有機体での適応と環境との相互依存性を強調し,そこに経済社会の進化論的展開の特徴を求めている。

    こうした進化論的認識・思考は,時代の生産力を担う産業組織にたいする把握から引き出されて,「代表的企業」概念やそれに含まれる「内部・外部経済」の相関性の論理,企業のライフサイクル論,「代替の原理」などの把握を基底で支えている。その思考スタンスは,単に経済社会の現状分析だけでなく,自ら展望する「経済的進歩」を「他者への配慮と自尊心」の展開である「人間的進歩」と絡めてとらえて,いわゆる「有機的成長」として提示していこうするアプローチを規定しているのである。



     
    中村 廣治「マルサス『人口論』初版における経済学的考察――マルサス経済学の起点を探る――」

     本報告は,S.ホランダ―の大著:The economics of Thomas Robert Malthus,1997に啓発されて,主として『人口論』初版における「人口原理」と「人口波動論」の関連を考察し,そこにマルサス経済学の起点を探る試みである。

     ホランダ―によると,初版『人口論』の「人口原理」は,農業単一部門に基づく無限成長モデルである。周知の幾何級数対算術級数の対比は,人口の現実的増加の食料増加の限度への抑制を強調するレトリックであって,人口過剰必然論を意味しない。

     他方「人口波動論」は,食料を超える人口増加が穀物賃金の低下を(貨幣賃金の安定,食料価格の上昇による)を契機に農業生産と農業における富の増加をもたらす,と説く。ここでは,絶対的食糧先行論の否定と食糧生産増加の経済的動機の提示が注目に値する。

     このように「波動論」は,食糧・人口成長の基本モデルに抵触する論旨を含むが,これは,人口の絶対的規模の上昇に関連すると解すべきであり,この二つから,事実上,食糧・人口の循環的成長論が説かれている,と解されている。

     しかし,彼の基本モデルが,元来,趨勢としての人口増加の食糧増加の限度への抑止を意味するとすれば,それが現実の人口過剰化を認めないというのは,戦争・貧困・悪徳等のpositive checkを重視する初版の文脈に必ずしも整合しない。したがってそのモデルは当初から「波動論」を内包し,「波動論」でその含蓄が顕化した,と解される。こう理解しうるとすれば,彼の経済学的考察は「人口原理」に付随する経済学への関心の端緒にとどまるが,「人口原理」を媒介する実現機構という関連において,いっそうの展開を要請するポテンシャルを潜ませている,といえよう。
     


    小柳 公洋「『スコットランド啓蒙研究』について」

     本書は,戦前のレーマン,パスカル,ブライソンなどの研究から現在の研究までの研究史と,その間に見られる研究類型とを紹介して,スコットランド啓蒙を市民社会についての認識イメージの変遷のなかに捕らえようとするものである。人間と社会の関係について啓蒙の哲学者達がどのようなイメージを描いていたか,これを経済学的観点から考察・解釈しようとした。

     A.フレッチャーからA.スミスに至る人々の学説には二つの市民社会イメージの存在が見られる。一つは,シヴィックな市民社会イメージであり,他は,ナショナルなそれである。簡単に言って,前者はポリス,キウィタスのように都市共同体と市民の間に運命と利害の熱き一致した社会空間を想起させるイメージ,後者は国民的富−国民経済−国民国家の形成の形をとった市民社会イメージである。近代になると,前者は,ラジカルな体制批判に際して動員されたが,結局後者のナショナルな市民社会として実現せざるをえなかった。その論理と意味は何であったか。F.ハチスンD.ヒューム,ケイムズ卿,A.ファーガスン,W.ロバートソン,J.ミラーの諸説の検討をつうじ,A.スミスの経済学のスコットランド啓蒙における意味と意義を次の点に見た。スミス経済学の特質は資本蓄積論(特殊に『国富論』第二編)にあり,その視点からのスコットランド啓蒙の主題(=富と徳の両立した社会形成)への応答は,第1に,慎慮と正義の国民的徳と経済活動が「中下層の人々」の資本蓄積活動において両立していることを指摘することによって啓蒙の主題への最終的回答であったこと,第2に,資本蓄積をテコにしたナショナルな市民社会を開かれた社会と論証することによって,大方の啓蒙の人々が将来の社会に持っていた悲観論を突破したことである。



    山崎 好裕「ジェイコブ・N・カルドーゾの経済学」

    ジ ェイコブN.カルドーゾはアメリカ・サウスカロライナ州チャールストンの人である。1786年に生まれたのも1873年に没したのもジョージア州サバンナであったが,その新聞編集者,文筆家としての生涯のほとんどを,当時のアメリカを代表する港湾都市にして南部プランターの避暑地であったチャールストンで送った。本報告では,報告者がチャールストンで発見した資料の紹介も交えて,まずはこのアメリカの古典派経済学者の人となりについても触れた。

     カルドーゾは理論的能力に秀でた人であった。1826年という極めて速い段階でリカードの「新理論」に体系的な批判を加えている。カルドーゾによれば自分とリカードとの間に「実際上の結論」で大きな違いはない。違いは古典派経済学という「科学の形而上学」にあると言う。つまりモデルが違うのである。リカードが資本蓄積は利潤率の低下傾向があるにもかかわらず不可避的に進むと考えたのに対して,カルドーゾは,資本家は「科学」と「機械」の導入による生産性向上が限界地での利潤を従来通りに維持しない限り蓄積を停止すると考える。これによって土地の収穫逓増をリカード的体系の中に整合的に導入することが可能となった。本報告では,小麦経済のモデルに,唯一の独立変数として労働人口の逓増的増加関数である「労働の生産性」を導入し,カルドーゾ体系の諸帰結を導いた。すなわち,経済成長とともに利潤,賃金は絶対的にも相対的にも増加するが,地代はそのシェアを徐々に縮小させていく。

     カルドーゾは論争の人でもある。本報告では,彼の労働価値説批判,保護関税廃止の主張も,生産性上昇を伴うダイナミックな経済という彼の経済像からの論理的な帰結であることを示唆した。



    黒木 亮「F.ナイトにおける不確実性と競争的経済秩序――『リスク・不確実性および利潤』をめぐって――」

     フランク・ナイトは,20世紀第2四半期におけるアメリカ新古典派経済学の代表者とされてきたが,彼自身は制度学派であると公言していたのも事実である。本報告では,この不可解な彼の立場に統一性を探り,多元主義的思想の根底を貫いていた理論的根拠を明示するため,第一作『リスク・不確実性および利潤』(以下『リスク』)を検討した。

     「完全競争」社会において「完全知識」を有する「経済人」は,名目的には,自由で独立した意思決定主体であると想定されるが,実質的には,最終的な理想状態への因果連関を描きだすための媒介者にすぎず,自由も競争も秩序も意識するはずがない存在である。だが,現実の経済主体は不完全な知識しかもたないから,予想をし,判断を下すといった「推定」活動が重要な意義をもつ。社会に「競争的経済秩序」をもたらす「企業者」の推定通りに事態が推移することは稀である=「不確実性」の存在ゆえに,利潤が生じるからである。このように彼の利潤理論を再構成すると,『リスク』に,新古典派理論を精緻化しつつ,同時に限界をも見定めるという方法論的な意図があったことが明らかになる。

     ナイトは,科学化の徹底による普遍性の獲得という新古典派がもつ意義と,その代償である人間理解・社会認識の希薄化という限界,さらにこの問題の超克という制度学派の役割を的確に把握していた。価格や分配の公正度に関する「価値規準」や「思考習慣=制度」の長期的な「変化過程」を説明する制度学派と,短期の価格決定・資源配分メカニズムを解明し,「均衡」状態を描写する新古典派とのあるべき補完関係を模索するというねらいが,『リスク』には含まれていたのである。


    久間 清俊「『近代市民社会と高度資本主義』について」

     マルクス・ヴェーバー問題という通時的視点とカウツキー・レーニン問題という共時的視点において拙著の視座を設定した。第1章「市民社会と資本主義の発展」,第2章「市民社会と社会主義」,第3章「市民社会と高度資本主義」,第7章「マルクス,ヴェーバーと現代」が前者であり,第4章「高度資本主義と福祉国家」,第5章「カウツキーの高度資本主義観」,第6章「カウツキーと社会民主主義」が後者である。

     焦点は第6章にある。ソヴィエト・ロシアの形成に決定的役割を果たしたレーニンとスターリンに対立するカウツキーの社会民主主義思想・理論の特徴を考察した。とりわけ,彼の主著である『歴史的唯物論』において,世界市民(労働者)国家,地球市民社会への展望が述べられているところが注目されるべきである。

      マルクスとヴェーバーという近代資本主義の本質についての対立的把握において,カウツキーはマルクス,エンゲルスの立場に立つ。しかし,ヴェーバーの官僚制化に対する社会民主主義的回答を,世界市民(労働者)国家,地球市民社会という展望において展開した独自性が注目されるべきである。


    国際学会
    参加報告

     
    ○History of Economic Thought Conference(2000年度イギリス経済思想史学会)

     本年のイギリス経済思想史学会年次大会は,2000年9月7日から9日にかけての3日間,オランダの北部に位置するフローニンゲン大学(University of Groningen)において開催された。大会の規模は,八つの報告で参加者は30人程度というものであった。各内容は,ケインズ理論のアメリカへの移入に関する報告,重金主義に関する報告,J.ベンサムに関する報告,A.マーシャルに関する報告,『一般理論』に対するケンブリッジの反応に関する報告,経済学と歴史研究に関する報告,経済思想と欧州経済共同体の形成との関係性に関する報告,スラッファとヴィトゲンシュタインに関する報告と多様なものであり,報告者も地元オランダをはじめ,カナダ,イギリス,フランス,ブラジル,アメリカ,そして,ベルギーと世界各国から集まり国際的なものであった。また,初日の晩餐後には,本大会の組織者であるE.Schoorl氏(フローニンゲン大学)によって,J.ラスキン及びW.モリスに関する講演が行なわれた。

     本年度の年次大会は,開催地がイギリス国内ではなくオランダであり,しかもアムステルダムから鉄道で約2時間を要する都市フローニンゲンであったためであろうか,例年に比べて参加者が(日本からの参加者をも含めて)全体として少なかったようである。しかし,それだけに参加者相互間の親密感は深まり,D.Laidler氏やM.Blaug氏らを中心に自由で活発な討議がなされ,非常に刺激的であった。また,イギリスのグラスゴーで開催された昨年の年次大会に参加された方の国際学会参加報告によれば,報告の際に論文ないしはレジュメが配布されないものが一部あったようであるが,今年はその点が改善されて,初日に宿舎へ到着した折に全ての報告論文が配布された。これは,非英語圏からの参加者にとって大いに有益であった。各報告のうち,個人的にはG.T.Pot氏(エラスムス大学)によるマーシャルに関する報告及びG.Mongiovi氏(セント・ジョーンズ大学)によるスラッファとヴィトゲンシュタインの言語と方法に関する報告に興味をもった。

     最後に,今後の国際的学術交流の活発化のために,このイギリス経済思想史学会年次大会へ更に多くの日本人研究者が参加することを期待する次第である。     

    (八田 幸二)


    ○Colloque international Jean-Baptiste SAY(ジャン-バティスト・セー国際シンポジム)

     2000年10月26日から28日まで,J.-B.セー生誕の地であるフランス,リヨンにあるCentre Auguste et Leon Walrasで開催された。このセンターが中心になって準備中の『ジャン-バティスト・セー全集』刊行を間じかにひかえた今回のシンポジウムには,フランスだけでなく合衆国,カナダ,イギリス,ポルトガル,イタリア,オーストリア,スペイン,オランダ等,世界中から約50人の研究者が集まった。日本からは,橋本比登志,栗田啓子,喜多見 洋さらに現在ワルラス・センターに留学中の中久保邦夫,御崎加代子の5名が参加し,このうち橋本と喜多見が報告を行なった。

     シンポジウムは,「方法論,個人および社会1」,「富,価値,功利主義」,「貨幣と銀行」,「方法論,個人および社会2」,「セー,リカード,マルサス論争」,「経営,企業,企業者」,「セーと彼の同時代人たち」という七つのセッションから構成され,それぞれ活発な議論が繰り広げられた。ここに示したセッションの題からわかるようにシンポジウムにおける報告の内容は多岐にわたっており,セーの経済学を理論的に分析した報告から,方法論,彼の社会思想,さらにはセーと同時代の人々との関わりを取り上げた報告まで様々であった。但し,これらの報告に共通していることは,多くの報告が,程度の差こそあれ,新しい『セー全集』を意識していたということである。シンポジウムを開催したセンターのメンバーの多くがこの『セー全集』の編集に加わっていることを考えれば,これも当然であろう。いずれにせよ世界各国からセー関係の研究者が集まり,セーに関連した研究上の最新情報を色々交換できたことは貴重であり,『セー全集』刊行を契機とした新しい水準での今後のセー研究の国際的広がりを予感させる有益なシンポジウムであった。なおこのシンポジウムの報告を収録した本が,今年フランスで出版される予定である。

    (喜多見 洋)

    開催予定
     

    ○ヨーロッパ経済思想史学会 ESHET

    European Society for the History of Economic Thought Conference 2001, 'The influence of political developments on the evolution of economic thought', will be held on 22-25 February 2001, at Darmstadt, Germany. Conference website: <http://www.tu-darmstadt.de/eshet2001/index.htm>

    ○価値論と世界経済

    MINI-CONFERENCE ON VALUE THEORY AND THE WORLD ECONOMY, at Crowne Plaza Hotel, Manhattan, February 23-25th 2001. The final deadline for abstracts is December 1st. The final deadline for completed papers is February 1, 2001. For further information e-mail to <a.freeman@greenwich.ac.uk>. Website: <http://www.greenwich.ac.uk/~fa03/iwgvt>.

    ○ヨーロッパ経済学史会議 ECHE

    7th European Conference on the History of Economics: "Economic Science and Visual Representation", at University of Quebec at Montreal, April 23 - 24, 2001. The closing deadline for receipt of proposals is October 31, and the completed pre-conference drafts of the papers selected will be due in March 2001. Contact to Robert Leonard, Dept. of Economics, University of Quebec at Montreal (UQAM), 315 St. Catherine St. East, Montreal H2X 3X2, Canada. E-mail <leonard.robert@uqam.ca>, Web, <http://www.unites.uqam.ca/ECHE>. Fax +1 (514) 987-8494.

    ○イタリア経済学史学会大会 A.I.S.P.E.

    Associazione Italiana per la Storia del Pensiero Economico (Italian Association for the History of Economic Thought): The unsustainable development: Underdevelopment in the History of Economic Thought, at University of Lecce, May  24th - 26th, 2001. The registration deadline is January 31th, 2001. Submit any papers by sending an abstract of no more than 3 pages; order, if interested, their copy of the CD-rom containing the papers of the official theme of the Conference. Preferably the paper should be e-mailed at the address of the Conference and to the Presidency of AISPE <faucci@dse.unipi.it> or sent to the Conference address, and to the President of AISPE: Riccardo Faucci, Universit di Pisa, 15 56126 Pisa, Italy (in this case send two copies + floppy disk for each ordinary mail address). Notice of acceptance of the papers will be sent by 28th February 2001.

    ○経済学と18世紀スコットランド文化

    The 18th-Century Scottish Studies Society and The International Adam Smith Society Joint Conference: POLITICAL ECONOMY AND 18TH-CENTURY SCOTTISH CULTURE, 10 - 12 June 2001, Hosted by The James M. Buchanan Center for Political Economy, George Mason University, Arlington, Virginia Send or fax a one-page abstract (with title) and a brief c.v. by 15 November 2000 to: Richard B. Sher, Executive Secretary, 18th-Century Scottish Studies Society, New Jersey Institute of Technology, University Heights, Newark, NJ 07102-1982 USA. e-mail: <sher@njit.edu>. tel.: 973-596-3377; fax: 973-762-3039.

    ○ハイルブロン・シンポジウム

    14th Heilbronn Symposion in Economics and The Social Sciences: Johann Heinrich Gottlob von Justi(1717-1771), will be held in Heilbronn on 22-24 June 2001. Please address your enquiries to Prof. Dr. Jurgen G. Backhaus, Maastricht University, AE PO Box 616,6200 Maastricht, The Netherland. Tel: +31-43-3883636

    ○北米経済学史学会大会 HES

    the 28th Annual Meeting of the History of Economics Society, Wake Forest University, Winston-Salem, NC, June 29-July 2, 2001. Paper proposal with an abstract of 200 words or less for a paper or 400 words or less for a session should be submitted by February 15, 2001. Conference website (http://www.eh.net/HE/HisEcSoc/carchive/HES2001/); by e-mail <hes2001@wfu.edu>; fax +1 (336) 758-6028; or mail to Dan Hammond, Department of Economics, Box 7505, Wake Forest University, Winston-Salem, NC 27109-7505, USA.

    ○異端派の経済学連合大会

    3rd ANNUAL CONFERENCE OF THE ASSOCIATION OF HETERODOX ECONOMICS, 7-8 JULY 2001, London, United Kingdom. Please send copies of a 250 word abstract for each proposed paper to: Avis Lexton, Faculty of Social Sciences, The Open University, Walton Hall, Milton Keynes, U.K. MK7 6AA. E-mail: <A.Lexton@open.ac.uk> . Deadline for submission: December 22, 2000.

    ○オーストラリア経済思想史学会 HESTA

    The 14th History of Economic Thought Society of Australia Conference will be held at the ARTS-HUMANITIES Building in Humanities, University of Tasmania, Hobart Campus, Sandy Bay, AUSTRALIA on 11-14 July 2001. Submit an abstract of about 250 words no later than 2 April 2001. (Submission of proposals for presentation in a session of work-in-progress is also welcome). Authors will be notified of acceptance by 30 April 2001. Submit the final paper by 18 June 2001. The address for submission is: Dr Jerry Courvisanos, HETSA 2001, School of Economics, University of Tasmania, Locked Bag 1-315, Launceston Tasmania 7250, AUSTRALIA. E-mail to <Jerry.Courvisanos@utas.edu.au>. Fax:+61 3 6324 3369

    ○論争の知性史

    Quarrels, Polemics and Controversies An international conference organised by THE INTERNATIONAL SOCIETY FOR INTELLECTUAL HISTORY, Trinity College, Cambridge, UK, 21-24 July 2001. Papers may be in English, French, German, Italian or Spanish. Proposals for a panel should include the names of 3-4 speakers and of the moderator; and a summary of each paper. Proposals for an individual contribution should be an outline (1-2 pages) for a 20-minute talk. Organisers: FRANCOISE WAQUET, 36 rue de la Glacie, 75013, Paris, France. E-mail <fwaquet@easynet.fr> (no attachments) & EDOARDO TORTAROLO, <edo@cisi.unito.it> (attachments accepted as RTF or TXT files). Deadline for Proposals: 31 December 2000

    ○経済思想史学会 HET

    History of Economic Thought Annual Conference, Manchester Metropolitan University, 5-7 September 2001. Please submit a title and a 300 words Abstract to the conference organiser by end February 2001. Conference Organiser: Professor John Vint, Department of Economics, Manchester Metropolitan University, Mabel Tylecote Building, Cavendish Street, Manchester, M15 6BG, UK.. Tel: +44 161 247 3891. Fax: +44 161 247 6302. e-mail: <j.vint@mmu.ac.uk>.

    ○パティンキン記念会議

    Patinkin Conference, at Centre Walras-Pareto, University of Lausanne, 20-22 September 2001. Proposals of communication (five hundred words) should be sent before December 1, 2000 to: Pascal Bridel, Centre Walras-Pareto, BFSH 1, Universit Lausanne-Dorigny (Switzerland). Fax : + 41 21 692 28 45. E-mail: <Pascal.Bridel@cwp.unil.ch>. Letters of acceptation will be sent in January, 2001. Final manuscripts should reach us before July 1, 2001. For any further information, contact either Pascal Bridel <Pascal.Bridel@cwp.unil.ch> or Michel De Vroey <devroey@ires.ucl.ac.be>.

    ○マルクス国際会議

    THIRD INTERNATIONAL MARX CONGRESS: Capital and Humanity, at Universite de Paris-X, Sorbonne; 26-29 September 2001. For all further information, please contact to Congre Marx International III, 19, bd du Midi, F-92000 Nanterre, Email: <ActuelMarx@u-paris10.fr>. Web, <http://www.u-paris10.fr/ActuelMarx/>.  Fax : 33(0)146950351.

    ○カール・ポランニー会議

    The 8th International  Karl Polanyi Conference: "Economy and Democracy", in Mexico City, November 14-16,2001. Abstracts of proposed papers and panels should be submitted by February 15,2001 to The Karl Polanyi Institute of Political Economy, Concordia University,1455 de Maisonneuve West, Montreal, Quebec, Canada H3G 1M8. e-mail: <polanyi@vax2.concordia.ca>  fax: +1-514-848-4514 telephone: +1-514-848-8707.

    (深貝 保則)

    小川浩八郎会員の逝去を悼む
     

     昨年10月26日,小川浩八郎会員(中央大学名誉教授)が逝去された。前触れもない突然の訃報に接したものたちはただ驚きと悲しみにつつまれた。冷静・淡白で,こよなくマーラーの音楽を愛された教授にふさわしい最期であったのかもしれない。

     小川会員の研究は,マルクス経済学の体系,とりわけ土地所有論と地代論の解明にもとづく二著『農業経済の基礎理論』(青木書店,1961),『経済学と地代理論』(青木書店,1979)と,その後の差額地代論を中心にした数々の業績によって学会に貢献した。とくに,差額地代論争の決着に大きく寄与されたことは特筆されよう。また,マルクス所有理論を基礎に,新世紀へのメッセージをこめて社会主義の変革理論の再検討を試みられた。

     大学における研究と教育の民主化に尽力され,貴重な研究時間をその管理・運営のために誠意をもって捧げられたことも記憶にとどめたい。享年72才であった。 

    (土方 直史)

    編集後記
     

     学会50周年の企画である,辞典刊行,記念講演・シンポジューム,50年史発行,データ・ベース作成も,ほぼ予定通り実現しましたし,50周年記念の大会と記念パーティも盛会のうちに終了いたしました。開催校・一橋大学の方で,お金の面を含めお骨折りいただき,まことにありがとうございました。年報の年2号化も行うことになりました。こういう大事な節目の時の代表幹事を預かり,諸事に一応の責任を果たすことができ,ひとえに会員各位のおかげと感謝しております。竹本洋新代表幹事および4人の常任幹事も選出されましたので,後は引き継ぎと会計報告を遺漏なく済ませねばと思っております。

     経済学史学会が経済学史・経済思想史研究のメッカとして今後ますます充実し活発になっていきますように,祈っております。

    (馬渡 尚憲)


      今回で事務局最後の学会ニュースとなりました。仕事をはじめたころは何もわからず右往左往の毎日で,ため息の連続でしたが,この二年間幹事・監事の先生方をはじめ会員の方々のおかげで,なんとか無事に次の事務局に引き継ぐ事ができそうです。私自身も本当に良い経験をさせていただきました。この場を借りてお礼申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。

    (本吉 祥子)

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    『経済学史学会ニュース』第17号
    2001年1月31日発行
    経済学史学会 代表幹事 馬渡 尚憲
    事務局 〒980-8576 仙台市青葉区川内
    東北大学経済学部(馬渡研究室)
    Tel: 022-217-6275
    E-mail: mawatari@econ.tohoku.ac.jp
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