経済学史学会ニュース
The Society for the History of Economic Thought Newsletter

(本吉 祥子作成)
第16号(2000年8月) ISSN 0919-0384




幹事会報告
 
 去る6月3日(土),京都大学京大会館で,2000年度第1回の常任幹事会・幹事会が行われました。幹事会の主な報告・審議事項は次の通りです。

 1. 事務局より会務報告がありました。5月11日に第18期日本学術会議会員の推薦人会議が行われ,本学会の推薦人である根岸隆・和田重司・星野彰男会員が出席し,本学会が推薦している塩野谷祐一会員が日本学術会議会員候補者に決定されたこと(6月30日日本学術会議からも連絡がありました),また新規条件で事務局より申請しておりました科学研究費「研究成果公開促進費・学術定期刊行物」について,平成12年度90万円の交付内定通知があったことの報告です。

 2. 会員異動について,昨年11月時点で滞納退会を除く会員数は851名,そこから6月3日までの,退会者21名,入会申込者10名,復活会員1名と報告されました。また住所等変更が報告されました。入会申込者10名の入会が認められ,6月3日現在の会員数は841名となりました。その後2名の物故者があり6月30日現在839名です。なお,長期滞納者には警告と退会の措置がとられています。(「会員異動」参照[Web版では省略])

 3. 開催校から本年11月11日(土)−12日(日)に一橋大学で行われる第64回51周年大会の準備状況が説明されました。学会主催で50周年記念パーティも行われます。来年関西学院大学で行われる第65回大会は,11月10日(土)−12日(日)とし,準備委員は井上琢智,篠原久,竹本洋(委員長),松本有一会員となることの報告がありました。

 4. 年報編集委員会,大会組織委員会,英文論集委員会,企画交流委員会の各常置委員会より報告といくつか提案があり,了承されました。(「各委員会報告」参照)

 5. 辞典編集委員会,データベース委員会,50周年記念事業委員会から,報告がありました。(「各委員会報告」参照)

 6. 学術会議,同経済理論研連委,日本経済学会連合の報告がありました。(「各委員会報告」参照)

 7. 代表幹事より1999年度決算が報告され,また監事より帳簿照合の結果間違いない旨報告され,同決算が承認されました。代表幹事より,2000年度予算案が諮られ承認されました。(「決算・予算」参照)

 8. 大会組織委員会から第64回50周年大会のプログラムと司会者等がはかられ承認されました(「大会組織委員会報告」参照)。その際報告者に組織委員会に送る報告ペーパーを司会者にも送るようにお願いすることになりました。

 9. 2002年度の第66回年次大会は,新潟大学で行うことを決定しました。

 10. 今年行われる幹事選挙で3期目幹事の半数に被選挙権を与える移行措置をとることを決定していますが,このための抽選を行い,11名の3期目幹事(幹事開始時68歳未満)に被選挙権を与えることを決めました。抽選の結果,被選挙権をもつことになった幹事は,安藤隆穂,大森郁夫,坂本達哉,関源太郎,千賀重義,高哲男,竹本洋,新村聡,橋本昭一,服部正治,星野彰男会員です。現代表幹事も幹事3期目ですが,被選挙権をもちます。また,選挙管理委員会を発足させました。(「次期幹事・監事選挙」参照)

 11. 年報の年2号化について,常任幹事会の具体案を検討し,次のとおり承認しました。

 (1)39号から各1冊を現在より薄くし,年2回発行する。
  (1)各号140ページ程度とする。(2)印刷費は各号110万円,年2号で220万円程度とする。(3)構成は,各年の1号は,特集+投稿論文+書評,他の1号は,研究動向+投稿論文+書評,とする。(4)号数は加算方式とする。装丁を変更する。(5)各年5月と11月(大会時)に発行する。2001年5月発行の39号から年2号化を開始する。
 
 (2)定価をつけ,市販も行う。非会員の定期購読制も設ける。
     (1)印刷費実費は1冊1000円。学会員は無償配布,個人向2000円,機関向3000円,とする。(2)出版社(印刷所)またはセンターからの市販ルート等について研究する。(3)非会員特に図書館等機関からの定期購読を開拓確保する。

 (3)編集委員会の体制と編集方法等を改める。
    (1)編集委員会の構成を10名とする。(2)委員長1,特集・研究動向担当3,投稿論文担当3,書評担当3とする。また,会計・市販担当を設ける。(3)編集委員会に直属する外国人経済学史家によるinternational editorial adviser制を設ける(2名)。(4)研究動向は再編する。投稿論文は随時受付とする。(5)特集や研究動向に外国人学史家の招待論文を掲載する。(6)編集委員長・編集委員(半数ないし1/3交代)の任期は,4月1日から2年間とする。分野的に適任者がない場合を除き,幹事より選出する。ただし交代直後の5月に発行する号については,前年度までの編集委員会の担当とする。(7)移行措置として,20001年5月発行の39号の編集発行は,平井編集委員長と継続委員3名,および新委員7名(2001年4月からの委員長予定者1,委員6),の計11名で行うものとする。従って交代期の委員の任期を2年4ヶ月余などと変則的にして調整する。(8)メールによる会議等を活用し,編集費について工夫をする。(メーリングリストの会議には内規を設けることが望ましい。)(9)出版社をある程度固定する。(神戸の六甲出版または仙台の笹気出版)

 (4)非会員の論文投稿を認める。
   (1)掲載料を1論文当たり1万円徴収する。投稿論文のうち掲載可となったものについて掲載料を徴収する。非掲載者からも投稿料5000円を徴収しレフェリーのコメントをつけて返すことも検討する。(2)外国人研究者に対しても投稿を呼びかける。

 (5)2000年度(『年報』38号)から,科学研究費の新しい申請条件にそって,「研究成果公開促進費・学術定期刊行物」の補助の申請をする。但し,第38号は現行の年1回発行方式で申請する。
  (1)38号についても申請する。(平成12年度90万円の内定通知があった。) (2)3年間について申請するようになっており,39号以降についても年2号化を前提に,新条件の科学研究費「学術定期刊行物助成」を申請していく。(3)新条件では,欧文化率が重要である。編集方針としてこの点を加味する。(「年報編集委員会報告」参照)
 

                                       (馬渡 尚憲)

次期幹事・監事選挙

 2001年4月1日から2年間の幹事と監事を選出する次期幹事・監事選挙にかんして,選挙管理委員会や選挙日程が下記の通り決まりました。

 選挙管理委員会:遠藤和朗(委員長・東北学院大学),渡辺進(尚絅女学院短期大学),高橋真(東北文化学園大学),小沼宗一(東北学院大学),舛谷謙二(東北学院大学)

  日程:8月18日頃 「被選挙人名簿」「投票用紙」等の会員への送付
        9月20日    投票締め切り(必着)
        9月25日    選挙結果の事務局への報告
        9月30日    新幹事・監事等への通知

決算・予算
 
 1999年度収支決算書(1999.4.1〜2000.3.31)
収入
支出
前期繰越金
602,435
大会費
400,000
会費
6,730,000
部会補助費
156,998
年報売上
103,800
会議費
359,200
年報広告掲載料
240,000
刊行物編集費
976,130
文部省助成
260,000
年報編集発行費
1,846,184
利子収入
693
大会報告集印刷郵送費
388,330
大会報告集売上
0
事務局費
741,712
臨時収入
143,591
会員名簿印刷費
262,500
借入金
0
センター費
917,479
刊行物売上
4,800
経済学会連合分担金
35,000
予備費(50周年準備等)
408,718
前年度未払金支払
0
次期繰越金
1,593,068
 ・預金
1,587,608
 ・現金
5,460
合計
8,085,319
合計
8,085,319

 
2000年度予算
収入
支出
前期繰越金
1,593,068
大会費
350,000
会費
6,320,000
部会補助費
190,000
年報売上
100,000
会議費
425,000
年報広告掲載料
200,000
刊行物編集費
1,100,000
文部省助成
900,000
年報編集発行費
2,144,618
利子収入
1,000
大会報告集印刷郵送費
400,000
大会報告集売上
10,000
事務局費
750,000
臨時収入
130,000
選管費
100,000
借入金
0
会員名簿印刷費
0
刊行物売上
700,000
センター費
840,000
  経済学会連合分担金
70,000
事業費
100,000
予備費
300,000
次期繰越金
3,184,450
合計
9,954,068
合計
9,954,068


各委員会報告

○年報編集委員会
 

(I) 第38号について

 1. 年報第38号の「特集:私の経済学史研究−20世紀の学史研究をふりかえって」は,飯田鼎,小林昇,塩野谷祐一,杉原四郎,田中正司,田中敏弘,永井義雄,根岸隆,菱山泉,真実一男,水田洋,宮崎犀一(五十音順)の各会員からの寄稿論文に馬渡代表幹事による「序文」が付けられて構成されます。

 2. 書評は,和書18点(これにはリプライがつくものがあります),洋書15点で構成されます。

 3. 投稿論文は16本でした。採用論文は次の5点に決定しました。

   壽里 竜 「ヒュームにおける「奢侈」と文明社会」
   内藤 敦之「ケインズの金融的動機−ポスト・ケインジアンの解釈を巡って」
   福田 進治「リカードの労働価値理論の論理構成」
   藤井 賢治「F. ナイトにおける経済学の倫理性と科学性」
   古谷 豊 「ジェイムズ・ステュアートの利子概念」

(II) 第39号以降について

 1. 年2号制度が正式にスタートいたします。それに伴い,公募論文規定も変わります。まだ正式の条文ではありませんが,確定している事項のみ,お知らせいたします。

『経済学史学会年報』公募論文に関する規定

(1)投稿資格の制限はない(ただし,非会員の場合,採用されたとき有料)。
(2)論文は随時募集とする。ただし,毎年2回区切りをもうける。1回目は2000年9月11日(第39号[2001年5月刊行予定]),2回目は2001年3月11日(第40号[2001年11月刊行予定])で,提出先は経済学史学会『年報』編集委員会とする。

 [第39号を担当する編集委員会のアドレスは,下記の通りである。
 〒102−8554 東京都千代田区紀尾井町7−1
   上智大学経済学部(平井研究室)    tel.03-3238-3210
                                        fax 03-3238-3086(学部事務室)
                      email: hirai-t@sophia.ac.jp

(3)原稿枚数は,タイトルを含め,和文の場合400字詰50枚以内,英文の場合ダブル・スペース(1行60−70字(letters),28行)20枚以内とする。

(4)投稿論文は,ワープロ原稿(A4縦置きに横書きで印字)であること。原稿は返却しない。

(5)投稿者は,氏名を明記した論文1部と,氏名を削除した論文コピー2部の計3部を提出する。

(6)別紙として,次のものを添付する。
(a)タイトル,執筆者名の英語表記を含め200語(words)程度の英文アブストラクト1部。
(b)論文1行の字数,1ページの行数,ページ数,400字換算枚数,連絡先住所・電話番号を記入した論文表紙1部。

(7)『年報』編集委員会は,各論文につき2名のレフェリーに審査を依頼し,その報告を受けて採否の最終判定を行う。

(8)なお,判定に新しく「サスペンド制」が設けられた。これは書き直しにより次号での採用を見据えたものである。


参考【従来の公募論文投稿規定

 2. 第39号「特集」を「経済学史研究の現状と今後―21世紀の船出にあたって」(仮題)に決定しました。

 第39号は新システムの冒頭を飾る記念的な号です。年2号制,投稿制度のオープン化,外国人エディターの導入等々,多くの抜本的改革が組み入れられようとしています。

 21世紀の(また年2回システムの)最初の号でもある本号では,その船出にふさわしい「特集」を組むことが求められています。第38号の「特集」(現在進行中です)はこれまでの学史学会の活動を回顧する内容でありました。本号ではその対概念としてこの「特集」を位置づけることにし,学史学会の今後を見据えていく内容のものにしたいと考え,上記のような特集に決定いたしました。

(平井 俊顕)

○大会組織委員会
 

 1. 第64回大会のプログラムが別記のように決定されました。今大会は報告希望が多く,初めての試みではありますが,自由論題報告はすべて4会場になりました。報告要旨をもとに多面的に検討した上で報告者の決定をさせていただきましたが,「他薦」については,今回は報告要旨を送っていただくところまで行きませんでした。事情推察の上,ご了解賜りますよう,紙面を借りてお願い申し上げます。なお,来年度からは,「他薦」の締め切りを「申し込み」の〆切よりも1ヶ月ほど早め,同じベースで統一的に「審査」出来るようにする予定です。

 2. 2001年の第65回大会は,関西学院大学で開催されます。

 3. 第65回大会ではフォーラムが予定されており,(1)日本経済思想史(組織者:小室正紀),(2)イタリア経済思想史(組織者:堀田誠三),(3)オーストリア経済思想史(組織者:尾近裕幸)から構成されます。

 4. 第66回大会(2002年)は,慣例から言えば,共通論題の年に当たりますが,「必ずしもフォーラムと共通論題とを交互に開催することにこだわる必要もない」という意見もありますので,両者の可能性を含めて,テーマなどについてご意見・希望などをお寄せください。

(高 哲男)


○50周年記念事業関係
 
(1)辞典編集委員会

 6月30日に『経済思想史辞典』(経済学史学会編,vi+497ページ,丸善株式会社,定価5,900円)が刊行されました。執筆者の方々が多数であったのと,当初の編集委員会の指示が完全でなかったために,用語,表記,形式,文体,行数,文献の有無や表記,また場合によっては内容の上で,統一のために非常に多くの作業が必要でした。そのために,刊行が予定より数ヶ月遅れましたし,ご執筆個所について原稿や初校段階と違う場合が生じざるを得ませんでした。執筆者ご本人からご覧になるとあるいは意にそわない点があるかもしれません。これも,正確で平明で,統一がとれていて使いやすいというような,出来るだけいい辞書にしたいという編集委員会の考えによるものですので,なにとぞご了解いただきますようにお願いいたします。なお,すでに「執筆者」の覧(ivページ)の美濃口武雄先生のお名前の誤植(校了後のコンピュータミスが原因です)のほか誤植・誤記がいくつか見つかっています。美濃口先生にはおわびしますとともに,これをふくめ,重版に際し誤植・誤記の訂正をおこないたいと思いますので,誤植や間違い等お気づきの点は早めにmawatari@econ.tohoku.ac.jpまでメールで,あるいは馬渡宛書面でご連絡下さい。

 販売等の扱いは次の通りです。1500冊について定価の8%の印税が3ヶ月以内に学会に対して支払われます。これを超える分は同率で1年に1回学会に対して支払われます(出版契約書)。印税は編集委員の合宿等のための私費支弁分の一部を(各人2万円分を辞書4冊で)リバースし,1999年名簿時非会員の執筆者に対しては行数に応じて学会から印税が支払われます。残りは学会の収入とすることになっています。また9月14日まで申し込まれれば,執筆者と5冊以上申し込みの会員は2割引きとなります。

 会員・執筆者の皆様方の長い間のご協力・ご尽力に感謝いたしますとともに,9名(安藤隆穂,出雲雅志,大村泉,高哲男,竹本洋,田村信一,橋本昭一,藤井隆至,渡会勝義)の編集委員の方々のご苦労に対しもお礼申し上げます。

(委員長:馬渡 尚憲)


(2)記念講演委員会

 第64回大会(一橋大学)で催される記念講演とシンポジウムのタイトルが以下のように最終的に決定しました。
 

1. 創立50周年記念講演会

 水田洋 経済学史学会の50年を回顧して

2. 創立50周年記念シンポジウム「市場経済の理解と評価:経済学史研究の立場から」

  司会
 
        八木紀一郎(京都大学)・竹本洋(関西学院大学)

           報告

             深貝保則(東京都立大学) 市場社会と不平等

              桂木健次(富山大学) 市場経済に関する学史的系譜と環境論の位相

             磯谷明徳(九州大学) 市場・制度・行動――「ミクロ・マクロ・ループ」の視点から――

             若森章孝(関西大学) 市場経済と国家

(竹本 洋)


(3)データベース委員会

 経済学史・経済思想史文献データベース(JSHETDB)は,文献学と結びついた経済学研究という本学会の精神を現代的に具体化する事業として企画されました。それは,1)日本において発生した経済学史・経済思想史関連文献の分野で網羅性をもつこと,2)タイトルの英訳,英文キーワードを付して国際的に利用可能にすること,3)学会ホームページで公開して公衆との連携をはかることを目標としています。幸いにして平成12年度の科学研究費の交付を受けられることになりましたので,急いでその基礎を固めたいと思っております。今秋の大会の第1日には,学会ホームページに接続してデモをする予定ですので,ぜひおいでください。

 会員のみなさまには,ご自分の業績データの提供による協力とともに,ご縁のある研究者や研究機関の業績データや,専門領域における文献データの調査・提供・ファイル化などについてのご協力をお願いします。また,すでにご協力いただいた方にも継続的なデータ補充をお願いします。

 基本のデータ項目は,著者;タイトル;雑誌名と巻号(書籍の場合は,編著者,出版者,出版地);刊行年;掲載ページで,これにその英訳と英語のキーワードを付します。英語部分はご自分で訳されたものを付していただければありがたいのですが,そうしていただけない場合には,こちらで適当に訳します。(データの翻訳提供についての最終責任はデータベース委員会がもちます。)文献に欧文アブストラクトが備わっている場合には,キーワードのかわりにそれを付してお送りください。(提供者ご自身によるアブストラクトの場合は,その利用許可をいただいたものと解釈します。)

 提供の仕方には,手書き,印刷物,ファイル,オンライン登録などがあります。手書き,印刷物の場合は,委員長宛(〒606-8501京都市左京区吉田本町 京都大学経済学部八木研究室:yagi@econ.kyoto-u.ac.jp)にご郵送を,ファイル(フロッピーディスクあるいはe-mail添付ファイル)の場合は赤間委員宛(〒790-8577松山市文京町3 愛媛大学法文学部赤間研究室:akamac@ll.ehime-u.ac.jp)にご送付を,そしてオンライン登録の場合は学会ホームページ(http://society.cpm.ehime-u.ac.jp/shetj.html)のご利用をお願いします。
 データ提供についてのガイドを昨年「ニュースレターNo.14」とともに配布しましたが,ファイルの作成の場合の要点を再度お伝えします。

電子ファイル作成のガイド(要点)

(参考【ファイル作成のガイド】)

 このデータベースでは,1つの文献(レコード)について,2つのメインフィールド(「文献」「Title」)と5ツの検索補助フィールド(「Author」「Year」「Classification」「Language」「Keywords」)の計7つのフィールドを設定します。ファイルの形式は,フィールド間の区切りはタブで,1件のレコードの終了は改行(リターン)で示すという「タブ区切り形式」を採用しています。

 データを注文どおりの形式で全フィールドにわたってファイル化してご提供いただけるにこしたことはありませんが,お手数を省きたい方は,最初の「文献」フィールドだけで改行して次のレコードに移られてもかまいません。もっとも重要なことは,最初のメインフィールドの書誌データが揃っていて再調査の必要がないことです。
 

【文献】これが書誌事項を揃えて記入するメインフィールドです。著者,編者が複数の場合,できるだけ全員の名前をお書きください。項目の区切りは半角セミコロンをお使いください。

 (雑誌論文の場合) 著者; 論文タイトル; 雑誌名; 巻号; 刊行年; pp.xx-xx
 (書籍収録論文) 著者; 論文タイトル; 編者; 書籍タイトル;出版者: 出版地; 刊行年; pp.xx-xx
 (単行本) 著者; 書籍タイトル; 出版者: 出版地; 刊行年; ページ数(共著の場合は分担ページ)

【Title】前フィールドの英訳。すべて半角文字を使用する。名前は,ファミリーネーム(半角空白)ファーストネームまたはそのイニシアルの順で表記,複数の場合はコンマで区切ってならべる。

【Author】対象の研究者一人だけで結構です。正確な読みをローマ字で姓・名の順に記入。
 
【Year】西暦4桁半角数字。
 
【分類】 A (書籍) B (論文) C (翻訳) D (書評) E (セミパブリケーション)F (電子出版) G (口頭報告) あるいは H その他 (要記入) から選択。
 
【Language】 J (日本語) E (英語)  M その他 (要記入)。 から選択
 
【Keywords】英語で入力。Titleに含まれているなら省略可。 欧文Abstract, Summary もここに入力。


委員:赤間道夫,池尾愛子,大村泉,塘茂樹,野口旭,若田部昌澄,八木紀一郎(委員長)

(八木 紀一郎)


○日本学術会議報告
 
 今期(第17期)最後の総会(6月7日,8日)で,学術会議の自己改革の締め括り(会則の一部改正等として)を中心として,次のことが可決・承認された。

    1. 常置委員会の名称変更と事項の見直し,その他関連事項4件。

    2. 運営審議会付置企画委員会の設置

    3. 「女性科学者の環境改善の具体的措置について(要望)」(重要な8項目からなる)

    4. 「日本学術会議における男女共同参画の推進について(声明)」(重要な4項目からなり,これには,女性会員比率を今後10年間で10%まで高めるという目標値の設定が含まれている)

    5. 『「人間としての自覚」に基づく「教育」と「環境」両問題の統合的解決を目指して――新しい価値観に支えられた明るい未来の基盤形成――』(声明)

    6. インターアカデミーカウンシル(Inter Academy Council:IAC)への加入

    7. 運営審議会付置アジア学術会議委員会の設置

    8. 「アジア科学・科学技術推進機構」の設立

 7月をもって田中の任期は満了し,次の18期の塩野谷会員と交代する。

(田中 敏弘)

【参考:日本学術会議



○日本学術会議経済理論研究連絡委員会
 

 1. 科学研究費補助金制度の変更に伴い,昨年の本委員会において,同補助金の審査委員候補者の推薦方法についての原則を決めていたが,その原則に基づいて,本委員会関係学会から同候補者が推薦されてきたので,審議の結果,本委員会として同候補者を全員推薦することを承認した。

 2. 第17期は,今秋で終わるので,第18期に向けて,上記の科研費審査委員候補者の推薦方法等についての申し送り事項を承認した。
 

(星野 彰男)

【参考:日本学術会議



○日本経済学会連合報告
 
 2000年度第1回評議員会が5月8日早稲田大学で開かれ次の事項が了承ないし協議,決定された。

 1. 本年度第1次国際会議派遣補助(国際公共経済学会,日本地域学会へ各30万円)

 2. 本年度第1次外国人学者招聘補助(日本貿易学会,日本労務学会へ各15万円)

 3. 本年度第1次学会会合費補助(経営行動研究学会,日本経済学会へ各5万円)

 4. 『英文年報』第19号刊行報告,同第20号編集経過報告。

 5. 平成11年度会計決算報告,平成12年度予算案決定。

 6. 経営学史学会,アジア経営学会,国際ビジネス研究学会の新規加盟が承認され学会連合は55学会になる。

 7. 学会連合創立50周年記念事業として講演会が朝日新聞社後援,早大商学部協力により早大国際会議場で2000年5月25日に開催される。講師は岩井克人,松田修一,伊丹敬之の3教授。

 8. IEA第12回世界会議(ブエノスアイレス)報告。次回は2002年ブラッセルで開催される。

 (和田 重司)



経済学史学会第64回大会プログラム



会員異動(詳細は省略)
 1. 退会者    23名(6月3日承認分ほか)

 2. 新入会員    10名(6月3日承認)

[会員数]851名(1999年11月の会員数)+10名(2000年6月の新入会員数)−23名(6月の本年退会者数)+1名(復活会員)=839名(2000年6月30日会員数)


 3. 住所等変更    1999年12月21日〜2000年6月30日(以下略)




部会活動

北海道部会過去の部会活動
 



 
岡部 洋實「初期左右田哲学における貨幣概念」

                
 本報告は,左右田喜一郎の滞独中の著作『貨幣と価値』(Geld und Wert,1909)における貨幣概念の特徴について検討したものである。

 左右田によれば,経済学の認識目的は人類の歴史生活を貨幣概念に関連させて解釈することにある(『経済哲学の諸問題』1922)。この経済学観を基礎づけ,貨幣の唯一の職分Funktionが人類の外界に対する評価の一面である経済価値の「客観的表彰」であること,その本質は経済価値の純粋形式であり,貨幣概念なくして経済概念は意味をなさないことを論証しようとしたのが『貨幣と価値』であり,その中心は「評価社会」論であった。

 段階(1)個別的対象への愛着価値は人間の無限の欲望に対応して実体から分離し,特定職分に対する「評価社会」が成立する。段階(2)対象の有用性に基づく実体価値と,手段としての媒介価値とが分化する。段階(3)人間欲望の増進は対象の現存数を超えるから,媒介価値は対象から分離し,その作用は独立の意味を得る(金属貨幣から補助貨幣・銀行の信用証券等へ)。貨幣の登場する段階(2)では,相異なる評価社会に属する三者x(Aの所有者)・g(Gの所有者)・y(Bの所有者)の関係(「xのBに対する評価強度はAに対するよりも強い」・「gのAに対する評価強度はGに対するよりも強い」・「yのGに対する評価強度はBに対するよりも強い」)から,実体Aと実体Bの交換にはGの媒介が不可欠であり,このことを以て貨幣が経済学上のアプリオリであることが説かれる。「価値の客観的表彰」と「交換手段」が同義とされたのも,この関係によっていた。

 左右田が自らの仕事をカントの模倣にすぎないとするのには問題がないわけではない。しかし,上のようにして,貨幣の形式を経済認識のアプリオリ,その sollenとすることで,彼は,経済学の枠組みを認識論的に基礎づけうるものとみていたのである。
 


山田 正範「戦前のフランスのマックス・ウェーバー研究――マルセル・ヴァインライヒ「マックス・ウェーバー,人と科学者,その主導的理念の研究」(1938年)をめぐって――」
 

 今日のフランスのヴェーバー研究で本格的に論じられることの少ない,マルセル・ヴァインライヒが1938年に出版したマックス・ヴェーバー論は,数少ない戦前のフランスのヴェーバー論の中で最初の長編である。それは,よく読み手に配慮した構成と平明な叙述とで,フランスの知的社会に未だ知られることの少なかったマックス・ヴェーバーの全体――彼の人生とその学問的業績――に関する基本的情報を過不足なく与えることに成功している。その意味でこれは,今日とりあげるに値する歴史的文献である。その細部の指摘のおもしろさは度外視して,次の点だけを指摘しておく。1)当論文の知的背景をなすのは,当時のフランスで支配的だった,自然科学を基準とした社会科学観,すなわち実証主義および法則指向主義である。ヴァインライヒは,そうしたものと一線を画すヴェーバーの「文化科学」,特に「理解」社会学の基本理念と内容を詳しく説明し,それに「科学」としての位置を認めることを主張する。レイモン・アロンのヴェーバー論(「現代ドイツ社会学」(1935年))も類似の意図――デュルケーム社会学批判――に発していたことを考えると,戦前のフランスでヴェーバーがもちえた第一義的意義は明らかである。2)この論文ではさらに,当時のドイツにおけるナチズムの台頭という現実がはっきり意識されている。それへの批判という意図から,ヴェーバーの有機体説への批判や人種学に対する懐疑が提示され,「カリスマ概念」の現実性にも触れられている。また科学論の次元では,「反科学的」世界観が有力となってヴェーバーの「価値自由」原理が蹂躪されており,その意味でヴェーバーが「忘却にさらされている」ので,それを「防ぐ」のが論文の目的である,と述べられている。このようにヴァインライヒの論文では,当時の「現実」との関連が同時期のアロンのヴェーバー論より読み取りやすく表現されている。



東北部会過去の部会活動
 
第21回例会
 
  • 日 時:2000年6月10日(土) 13:00〜17:00
  • 会 場:秋田経済法科大学
  • 出席者:20名

  •  
  • 報告1
  • 報告2
  • 報告3
  • J. A. ホブスンの『帝国主義論』
  • 大水 善寛(青森中央学院大学)
  • 報告4
  • デニス・ロバートソンの景気循環理論――その歴史的意義を考える――
  • 下平 祐之(山形大学)

  • 左近 真愛「マルサスとシスモンディの有効需要論」

     ケインズが自身の先駆者としてマルサスを評価していることは周知のとおりである。この先駆者は誰かという問題設定に対して,ケインズとマルサスとの比較を中心とした先行研究が多数あるが,われわれはいまだに議論の一致を見ていない。マルサスが評価の対象として取り上げられるとするならば,シスモンディもその一つに加わることになる。なぜなら,シスモンディの所得決定論がマクロ均衡論を原理としていること,マルサスと同じく当時の正統派経済学者らを批判した経緯や両者の経済学著作がほぼ同時期に出版されているという点は,有効需要論(両者とも有効需要という用語を使っている)がいかなる体系から導かれ,またその相違の検討により各々の意義を明確にさせるからである。

     以上の点から,本報告ではシスモンディの『経済学新原理』(1819)とマルサスの『経済学原理』(1820)における各用語の検討と所得決定の論理を比較した。明らかな違いは,生産過剰に対応した消費をどの階級に求めるかという点である。シスモンディの場合は,「バランス論」を基礎としたマクロ均衡論から労働者所得の増加つまり労働者擁護を主張する。一方,マルサスは地主の擁護に有効需要回復を見出そうとする。

     投資について見るならば,両者ともに過剰投資が有効需要の不足をもたらすという点は,投資の乗数効果に支えられたケインズの「有効需要の原理」とは明らかに異なるものである。マルサスの貯蓄について言及するケインズに惑わされることなく,ケインズによる『一般理論』の意義の中心をどこに据えるかをわれわれ自身が再認識することによって,ようやく一つの解釈が与えられることとなる。両者の比較は,19世紀前半の一般供給過剰論争における同じ陣営のそれぞれの論理が実際には如何に異なるかという点や,英仏の経済学者らの交流とその影響をも示唆するものとなる。


    船木 恵子「J. S. ミル『自然論』の思想」

     J. S. ミルの『宗教三論』(1874)は,シリーズを形成する意図も,思想を体系づけることもないとヘレン・テイラーによって序文覚書で述べられている。これら3論文の中で,その完成度が一番高いとされる第1論文の「自然論」は,第3論文の「有神論」が,神学的な内容の意外性と難解さから論評されることが多いため,他の2論文の導入として,また3論文一括で取り上げられるという側面があった。しかし「自然論」は,ミルの倫理観をたどる重要な論文であるだけでなく,ミルの思想全体の方向性を考察するうえでも価値があると考える。ここでは3論文のうちの一部としての取り扱い方ではなく,ミル主要著作とのつながりを明確にし,「自然論」の思想を明らかにするためにも,後の2論文と切り離して考える立場で,『論理学体系』との関係を考慮しつつ,ミルの初期投稿文The word "Nature"と「自然論」との比較検証に努めた。『宗教三論』全体としてのミルの宗教観は,1823年の『モーニング・クロニクル』紙への投稿文などに重きがおかれており,リチャード・カーライルが編集する『リパブリカン』紙への唯一の投稿文The word "Nature"についての検証はほとんどなされていない。しかし「自然論」と,The word "Nature"との一貫性はミル思想のコアの部分の一貫性を示し,「自然論」における,制度や習慣の中に含まれている18世紀的な自然観の否定と人間の理性の強調は,出版当初のイギリス社会では批判の対象とはなったが,ここでの"Nature"という概念を善悪から切り離す論理学的論証は,18世紀的な自然観への決別を示すものとして注目に値すると考えられる。こうしたことから「自然論」はミルの功利主義の成長や成熟を如実に示すものであり考察に値すると思われる。


    大水 善寛「J. A. ホブスンの『帝国主義論』」

      J. A. ホブスンは『帝国主義論』を1902年に著した。そこでは,帝国主義とは国内での販売,使用できない商品や資本を海外へふりむけることと定義している。ホブスンが対象とする新帝国主義は,先進工業諸国がこの拡大政策を採用しており,その原動力となっているのは投資からの利益という二点に特徴がある。しかし,本質的的な点では,旧来の帝国主義とは変わらない。

      帝国主義発生の原因は資本主義国の国内での分配の不公正にある。この不公正は過剰生産と過剰貯蓄(過剰投資)を発生させる。これらの現象は,ホブスンがマムマリーとの共著『産業生理学』(1889)で述べた過剰貯蓄説により,経済理論的に解明することが可能である。しかしホブスンは,帝国主義の解明の手段として,この過剰貯蓄説以外に,例えば,政治学,社会学,倫理学,歴史学等の学問体系も考察している。すなわち,帝国主義を各種の学問より分析している。

      さらに,ホブスンは,帝国主義は国内での分配の不公正を是正することにより,解消する現象とみなしている。したがって,帝国主義は資本主義の内部での不公正を是正すれば解消する現象であって,資本主義の本質より発生する現象としては考えていない。これはレーニンとは異なる考え方である。

      L. マグナッソンは,こうしたホブスンの分析手法やホブスンとヴェブレンとの関連を考慮に入れた上で,ホブスンの『帝国主義論』は,通常述べられているようなレーニンの先駆者とみなすよりは,制度学派の一形態とみなすことが適切であると主張する。この立場に立つならば,ホブスンの『帝国主義論』の位置づけは変化する。すなわち,ホブスン自身の経済思想上では,ヒューマニズムの経済学への転換点とみなすことができる。また帝国主義研究では,レーニンの先駆者としてではなく,制度学派からの分析の一形態とみなすことができる。


    下平 裕之「デニス・ロバートソンの景気循環理論――その歴史的意義を考える――」

     本報告は,デニス・ロバートソン(1890-1963)の景気循環理論の独自性を,イギリスの信用循環理論の発展の歴史と照らし合わせることによって明らかにしようとするものである。今回は以下の2つの論点について報告を行った。

     信用循環理論は,景気循環の説明において,経済主体の期待における「信頼」,「過失」といった心理的要素が果たす役割を重要視した。これは景気の拡大と縮小の説明において彼らが商品に対する投機あるいは在庫投資の役割を強調していることに現われている。これに対しロバートソンの理論の独自性は,発明や技術革新などによる設備投資の拡大が産出量の循環的変動をひき起こすという議論と,投資の不可分性などの資本設備の持つ技術的諸特性に起因する過剰投資による過剰生産の可能性を論じたことにある。

     一方信用循環理論の諸論者は,銀行の弾力的な信用創造能力が景気の過度の変動と恐慌を引き起こすと考えたが,それは金本位制を通じた統制により除去されうるとして,金融政策の目標を金準備の確保と物価の安定に置いていた。これに対しロバートソンは,その独自の「経過分析」により,純粋信用経済においては経済成長と物価水準の安定という2つの目標は,資本に関する技術的係数と公衆の保蔵(貯蓄)性向という外生的要因が一致しない限り両立し得ないことを明らかにした。そして上記の分析は,物価安定と経済成長の促進という相反する目的を調和させるための裁量的政策を政策当局に要請することになる。


    関東部会過去の部会活動
     

     
    石塚 幸太郎「1840年代のアメリカにおけるフーリエ主義――同時代の株式会社を巡る諸言説との対比――」

     
     シャルル・フーリエの思想は,アルバート・ブリスベインによって1840年代のアメリカにもたらされた。彼は拡大しつつある社会的な利害の対立や貧困,あるいは労働の地位の低下を批判し,「アソシエーション (Association) 」の設立による社会の再組織を唱えた。それは約1800人が生産と消費を共にする共同体であり,フーリエの情念引力論にもとづく「魅力的産業」の実現によって,富の増大と成員間の調和を可能にするはずのものであった。またブリスベインは共同体の財産は株式で所有されるとした。つまり富の分配の仕組みや意志決定機関などは異なるものの,「アソシエーション」は株式会社に類似した経済的共同体として提起されたのである。

     ところで19世紀前半のアメリカでは,株式会社を巡って様々な議論が展開された。元来株式会社に対しては,その法人格や株主の有限責任のために,個人の経済活動を侵害するという批判が根強く存在していた。しかしジャクソン期には,州議会の特許によって設立された株式会社は特権的であるとして批判され,一般株式会社法の制定が要求されるようになった。さらに,少ない財産を集めて設立できる株式会社を,貧しい者に富裕な者と競争する機会を与える社会改良の方策であるとして,積極的に擁護する議論も現れたのである。

     ブリスベインは,当時のアメリカにおける株式会社に「アソシエーション」の「資本の共同と集中」の原理を見てとり,「アソシエーション」をそれらの発展形態として位置付けた。またその株式所有はその成員間に利害の一致や調和をもたらすとし,それが社会改良の方策であることを強調した。さらに,共同体内には株式所有者による成員への専制を抑止する仕組みが存在すると述べていることからも,ブリスベインが現実の株式会社を意識していたことが伺える。

     以上のように,ブリスベインはフーリエ主義の実践に向けて「アソシエーション」を具体化する中で,同時代の株式会社を擁護する言説に寄り添ったのである。


    中野 聡子「マンデヴィルの分業メカニズム――『悪徳』概念の認識論的側面――」
     

     本報告では,ルイ14世時代を代表する著述家のひとりであるフェヌロンを取り上げて,彼の経済思想の輪郭を描いてみたい。対象とする作品は,もっとも多くの読者を獲得し,結果的には彼の代表作となった『テレマックの冒険』と,死後に初めて公刊された『統治改革論』である。いずれの作品もフェヌロンが師傅を務めた王孫ブルゴーニュ公と深い関わりがある。前者は十代前半の幼い公にあるべき国王のあり方を示すため,後者は王太子の死を受けて,ブルゴーニュ公が王位継承者となり,即位が近い将来の現実となった際に,実際に行うべき統治改革プランをまとめたものである。

     真の豊かさとは農業がもたらす食料をはじめとする生活必需品であるとの立場から,フェヌロンが理想としていたのは基本的には農業国家であったが,『テレマックの冒険』において主人公は王が身につけておくべき統治の心得として,農業政策ばかりでなく,商業的繁栄の方法も学ぶことになる。どちらの部門においても,質素・勤勉という美徳が豊かさの基礎であることに変わりはないが,商業においては商業の自由という原則と,奢侈の排除という要求の間でフェヌロンの態度は揺れ動いているように見える。同様の「揺れ」は『統治改革論』においてはより鮮明に現れる。ここでは,道徳的観点から商業への規制が求められる一方で,『テレマックの冒険』では禁じられていた奢侈品の製造,貿易が経済的発展への要求から容認されている。

     こうした一見矛盾に見える態度は,キリスト教道徳に基づく国家の再建というフェヌロンの基本姿勢と,経済の重要性に関する彼の現実認識の葛藤として理解すべきものであろう。『テレマックの冒険』においてユートピアとして描かれる国ベティックには商業は存在しないが,近い将来、王位に就き,フランス王国を統治すべきブルゴーニュ公に,現実の経済への配慮をいっさい欠いた教えを説くことはフェヌロンにはできなかったのである。



    関西部会過去の部会活動
     

    第137回例会
     
  • 日 時:1999年12月18日(土)    13:30〜16:00
  • 会 場:南山大学(J棟特別合同研究室)
  • 出席者:20名

  •  
  • 報告1
  • 報告2

  • 竹本 将規「アマルティア・センにおける公理論的アプローチ――1970年代の貧困に関する指標の議論を素材として――」

     アマルティア・センの全体的な作業を解読するために,彼が利用する論述の基本的枠組みを,1970年代の貧困に関する指標化の試みを素材として,検討した。

     従来,アマルティア・センを紹介・検討する際,主に3つのフィールド(社会的選択論,功利主義批判,開発経済学)からアプローチする手法が取られてきた。その際問題になるのは,各フィールドで語られているセンの研究内容がかならずしも統一的に理解できないという点にある。それぞれの議論を位置づけつつ,同時にそれらを統一的に理解するにあたり,今回の報告ではセンが1970年代に検討した貧困の指標化という議論にのみ課題を設定した。その理由は,貧困の指標化をめぐる諸論考が社会的選択論から別の議論へ論旨を展開する一契機になったと考えるからだが,今回の報告の主要目的はむしろ,この限定された課題から,センの研究内容を統一的に理解しうる「公理論的アプローチ」を明示的に示すことにある。

     本報告の主要なポイントは二点に集約される。第一は,論理学の問題である「ビュリダンのロバ」に即した形の,命題・公理・定理などといった論述枠組みの整理。設定した命題がもたらす不自然な推論を公理を設定することによって回避する方策を,簡単な例に則して整理した。第二は,センの主張に即して貧困を測定する指標についての議論を整理した。従来利用されてきた二つの測定手法である,Head-Count RatioとPoverty-Gapの特性と問題点を整理し,問題点を回避するような新たな指標をセンが形成するまでの論理的な経緯を整理した。

     本報告の特徴は,公理論的アプローチの方法的な特徴を明示的に確認したことにある。扱った検討対象は限定的なものであるが,最後に同様の手法に基づいて,センが1970年代までに検討した諸命題が検討されうる旨,簡単に言及した。
     


    保住 敏彦「市場経済と経済の組織化――ヒルファディングとポロックの見解をめぐって――」
     ソ連・東欧諸国の計画経済の放棄と市場経済への移行,中国の社会主義市場経済の提唱,およびWTOの成立という状況をみると,現代の動向が既存の経済組織・経済システムを解体し,自由競争・自由貿易を拡大するという方向にあることはうかがえる。しかし,他面で,そうした国際的な自由競争に対応するために,銀行業や自動車産業に見られるように,国際的な企業合同もまた,並行して進んでいる。こういう状況にあって,1920年代および1930年代に経済の組織化について考察した,R. ヒルファディングとF. ポロックの理論を再検討し,さらに,ドイツの比較社会史学派の組織資本主義論解釈をめぐる論争と,S. ラッシュとJ. ウリーによる組織資本主義の終焉と脱組織資本主義の開始という議論について検討し,市場経済と経済の組織化をめぐる現代の問題状況について考察する。ヒルファディングは,ヴァイマル共和国期に,政権の一端を担ったドイツ社会民主党の路線として,経済の自己組織化による組織資本主義(敵対的階層制的資本主義)の成立と経済民主主義の活動によるそれの社会主義化を提唱した。また,フランクフルト学派の経済理論家ポロックは,ドイツ第三帝国期にアメリカで,ナチス経済とニューディール経済を観察することにより,市場経済を国家の一般的計画によって置き換える国家資本主義という理念型を構築し,全体主義的国家資本主義の民主主義的国家資本主義への転換をベターだと見た。比較社会史学派の歴史家たちは,組織資本主義論を先進国の歴史の比較研究のための基準概念として利用しようとしたが,また国家による組織化が捉えられていないという批判をも行った。ラッシュ,ウリーたちは,自由主義社会が一旦は組織資本主義に転化するものの,経済の国際化,ソフト化,情報化の進展の中で,脱組織資本主義への傾向が開始されていると見る。一国経済を前提にした組織資本主義論や国家資本主義論は,現代的にみて時代遅れに見える。世界経済における市場経済と経済の組織化が考察される必要があるだろう。


    西 淳「ワルラス『生産方程式』の模索について」

     ワルラスは彼の主著『純粋経済学要論』の第四編において,生産方程式の模索理論を展開し,そこで周知の「均衡において企業の超過利潤はゼロになる」という命題を述べて,企業者が均衡においては利益も損失も出さないことを強調した。その際のワルラスのロジックは,つぎのようなものであった。企業者は超過利潤が生じたときには生産量を増加させ,損失が生じたときには生産量を減少させることによってその差益をできるかぎり大きくしようとする(生産費の法則)が,超過利潤が発生した部門では供給量が増加する結果,価格が下がるために超過利潤は減少し,超過利潤がマイナスの部門では供給量が減少する結果,価格が上昇して超過利潤は増加する(需要・供給の法則)ので,競争の果てにおいては企業者は均衡においてはまったく報酬を受けることがない。しかしワルラスはこの命題を厳密に証明してみせたわけではなかった。つまりワルラスは,生産方程式の模索が彼が導き出した結論を妥当させるのはどのようなケースであるかについてはこれを厳密には吟味しなかったのである。したがってこのワルラスの命題がワルラスが前提した調整ルールのもとで正当化されるのはどのような場合であるのかを,理論的に検証するということが題題として浮かんでくる。

      本報告の目的は,このような問題意識のもとにワルラスの命題の妥当性を,模索の時間構造の問題を中心として検討することであった。議論の順序としてはまず連続時間の仮定のもとでのワルラスの生産方程式の模索についての簡単なモデルを作り,つぎにそれを離散化することによってこの問題を検討した。その際,モデルを解析的に扱うのではなく,運動方程式の軌道をコンピューターによるシュミレーションによって示した。なお,本報告のモデルについては松尾匡氏のモデル(松尾匡『セイ法則体系』第1章補章)に多くを負っていることを付け加えておきたい。


    篠崎 敏雄「ヒックス文庫と厚生経済学に関する未刊の書物の原稿について」

     「ヒックス文庫」は,神戸商科大学附属図書館所蔵の,ヒックスの蔵書と,手紙や原稿などの文書類から成っている。これらは,カタログにあるものだけで2,402点あり,ヒックス家にあった資料の主力であると考えられる。

      その中に,The Real Product: A revision of "Welfare Economics" という表題の,未完であり未刊でもある書物の原稿がある。それはB4版で,タイプで打たれ,100頁ある。目次によると全体は第15章まであるが,完成しているのは第7章までである。その概要は以下のとおりである。現代の厚生経済学の源流はイギリス古典学派の政治経済学であり,その優れた特徴は,経済問題を全体的に考え,社会的生産物を中心に分析を行うということである。しかしそれは,限界革命によって新しい経済学に代わられたが,ヒックスはそれを catallactics (交換の理論)として,政治経済学の流れに対置する。一方政治経済学は,マーシャルを経てピグーにおいて,満足の主観的社会生産物,すなわち 'Welfare' を中心に置く厚生経済学に変わった。しかし厚生経済学には多くの問題点があるとしてこれを否定し,社会的生産物を中心とする(とくにその評価の方法に重点を置いた)新しい政治経済学を展開するという構想であった。

      この原稿には日付がないが,内容から言って1960年代初めのものと考えられる。未完に終わった原因や,後のヒックスの著作との関係についても考察した。


    原田 哲史「『農業書簡』におけるアダム・ミュラーの見地」

      アダム・H・ミュラー(1779〜1829年)は「農業書簡」(1812年)において,2つの農業経営形態を理念型的に区別している。ひとつは「孤立的農業」と称される,世界貿易から独立した農業である。もうひとつのタイプは「商業的農業」であり,外国の市場に依存するものである。ミュラーによれば,イギリスでは「商業的農業」が優位に立っており,それに対して大陸ヨーロッパでは「孤立的農業」が幾分優勢であるが,大陸ヨーロッパにおいてさえ,とりわけドイツにおいては,「孤立的農業」が浸蝕されつつある。この浸蝕をミュラーは由々しき事態と考えるのである。その論拠は3つにまとめられる。第一に,大陸封鎖とその帰結から学ぶべきこと,すなわち「大きな世界的な出来事」に左右されやすい「商業的農業」の不安定性を認識すべきことであり,第二に,伝統的な議会制度が存続し救貧制度が整っているイギリスの経済的・制度的な諸条件が,ドイツのそれとは異なっていることである。第三には,「商業的農業」それ自体の問題性である。ミュラーは,すべてを貨幣関係に還元し「高貴で人格的な相互転換的義務」を解消させる商業化の蔓延に対して根本的な疑問を抱いているのであり,ただし,イギリスにおいては諸条件がそれに適合的であるからまだ許される,と考えている。

      伝統的な生産諸関係の維持を提唱する――その意味でまさに「ロマン主義的な」――ミュラーは,資本主義的な商工業とそれに対応する商業的農業との育成を説くF. リストよりも,領土拡張主義からは程遠いのである。またロッシャーが『ドイツ経済学史』(1874年)のなかでミュラーを「中途半端に歴史的」であるとしているのは,ミュラーが発展段階の相違を――とりわけイギリスとドイツのそれを――見過ごして国民経済の相違を並置的な違いとして見る傾向にあったからである,と言える。



    西南部会過去の部会活動




     
    木嶋 久実「戦時中の石橋湛山――広域経済批判を中心に――」
     石橋湛山(1884・明治17〜1973・昭和48)の思想活動は,大正期の植民地放棄論において頂点に達し,戦時期に言論圧迫の下で「後退」したとみなされてきた。だが,石橋の「小日本」論=貿易立国論の基底には,膨張主義批判だけでなく,境遇適応の進化論にもとづいて個人の秩序形成力を信頼する視点や,社会的措置を講じて個人の能力増進をはかり,生産力向上を導く「新自由主義」のヴィジョンがあったことを見逃してはならない。この点を考慮に入れると,世界的なブロック化にかかわらず,安定的な世界秩序形成を模索しつづけた戦時中の石橋の言論を,単に「後退」と捉えることはできなくなるのである。 日本国内でのブロック形成論は,「東亜新秩序」声明以後,広域経済論に発展した。広域経済論は,資本主義にもとづく経済ブロックから脱却し,国防体制の下で経済圏を形成して圏内の自給自足をはかろうとする主張である。広域経済論者たちの態度は,政策への積極的関与に努めるかどうかという点で相違はあったが,日本を核心国とする有機体としてアジアの再編成を試み,「大東亜共栄圏」を肯定・推進する点では一致していた。

     とはいえ,中心工業国が歴史的経緯の異なる地域・民族を統合し,資源や原料を独占的に利用する広域経済の成立が,世界秩序に安定をもたらすはずがない。その点をいち早く見抜いていた者こそ石橋であった。石橋は,経済圏内の自給自足の追求が民衆の生活を窮乏させるばかりか,他の経済圏の存続を阻害する点を,経済的観点から指摘したのである。 戦時中の石橋は,小国・日本は広域経済論という「安易の理論」に陶酔せず,国際協調の大原則を貫くべきだと期待し,すでに戦後世界を見据えて国際分業にもとづく全世界的な経済組織を構想していた。その意味で,石橋の広域経済批判論が「世界開放主義」の下での国際秩序形成論として,次代の小国の理想を切り開いていたことは間違いあるまい。



     
    高 哲男「J. R.コモンズとニュー・デイール改革思想――社会保障を中心に――」                  

     労働経済学におけるウィスコンシン学派の創設者であり,ヴェブレン・ミッチェルと並ぶ制度経済学の創設者J. R. コモンズは,初期のキリスト教社会主義者,中期の労働運動の広範な実態調査の遂行者,後期における制度経済学の提唱者という3つの顔をもつ。

     多面的な活動を結び合わせる糸を発見する手掛かりは,革新主義の時代の最後であり,改革の時代の先駆けでもある1920年代になされた「法と経済」の関係への着目に求めうる。経済=産業の発展と「法」の発展=変化の関連性を解き明かす観点から,「制度経済学」が構想されて行くからである。ビッグビジネス体制下における労働者保護=社会保障立法の根拠は,慣習法のもとにおける裁判所の判決の変化を通じる「法」の変化,という社会発展の歴史的なプロセスのなかに求めるべきだという理解である。

     州レベルにおける労働保護・失業保険などの社会立法を,連邦憲法第14条の「適法な手続きなしには,国民の生命,自由,財産を奪えない」という規定と両立させるためにコモンズが提起した原理は,産業効率を上昇させようとする主体的な努力と社会保障の推進とを両立させるという「内部化原理」,つまり社会保障に要する費用そのものを少なくするための「失業予防」と費用の内部化にあった。ここには,アメリカの伝統的な「自由」思想を維持しつつ,生産性をあげつつ,さらに不況予防的な連銀政策遂行などによって,さらに大きな自由を資本家も労働者も確保できるようにしよう,というヴィジョンが包み込まれている。ニュー・ディール社会保障法は,「失業救済」という単一の理想にもとづいて立法化されたわけではない。自由の拡大というもう一つの理想に支えられていたのである。



     
    佐藤 滋正「『「土地」と「地代」の経済学的研究』について」
     

     小著『「土地」と「地代」の経済学的研究』について, 問題意識と方法,理論内容, 周辺の諸問題,という構成で報告した。ここでは理論内容を中心に記す。

     『資本論』第三部第六篇は,緒論→差額地代→絶対地代→土地価格→資本家的地代の発生論の順序で展開されているが,マルクスに独自の地代形態と言われる「絶対地代」は,実はそれほど確定的な範疇ではない。「絶対地代」は,「1861-63年草稿」においては「差額地代」と絡み合った形で析出されていたし,『資本論』においても夥しい留保的文言を付した上でその存在が確認されているにすぎない。むしろ「絶対地代」は,マルクス自身も言うように「仮説」的な範疇として,あるいは「差額地代」と「独占地代」を媒介する中間領域的本質においてとらえるべきではないか。

     このことは「絶対地代」を,「価値」と「価格」の接合領域においてとらえることを意味している。リカードウは「資本家的地代」を土地豊度差にもとづく「差額地代」としてのみとらえ,土地所有を根拠とする「独占地代」を排除した。マルクスの「絶対地代」は,価値と生産価格の差に「市場関係」をクロスさせる所で析出されてくるが,それは一方で「労働」(自然)からの,他方で「所有」(独占)からの作用を不断に受ける「価値」と「価格」の接合空間の設定であった。マルクスが,「絶対地代がもっとも重要な役割を演じるのは抽出産業である」と言ってノルウェイの森林地代に着目するのは前者との,差額地代。と「の区別と関連を通してリカードウ地代論における「土地所有」の存在を強調するのは後者との関連を表している。労働と所有の両極緊張的関係の中で展開される「絶対地代」は,社会諸階級間の体制選択を問題設定するマルクスの基軸概念と言えるだろう。
     



    国際学会
    参加報告

     
    ○History of Economics Society(アメリカ経済学史学会)第27回大会

     2000年6月30日から7月3日までバンクーバーで開催され,欧米,南米その他の諸国から約180名が集った。経済学史学会からは,塘茂樹会員,松浦保会員,山崎好裕会員,若田部昌澄会員,筆者が参加した。

     前会長コールドウェルの Presidential Address はハイエク論で,その思想的推移を辿り,21世紀はハイエクの世紀との示唆で締めた。全体的に二十世紀の諸経済学に関するセッションが多くもたれ,他方でスミスを中心とする古典派研究も健在であった。そういえば Race and Economics のセッションでも,ハイエクの思想と優生学,人種主義との関わりが議論され,白熱した。

     興味深いのは,博士論文執筆中か博士号取得五年以内の基準で報告を集めた二つのセッションが組まれたことである。Iでは塘会員と筆者がゲーム理論以前のモルゲンシュテルンに関する共同報告を,IIでは若田部会員がヒューム的知識論の系譜に関する報告を行った。基準の性質上,セッション全体の統一性に欠けがちで,各テーマに関心のある聴講者が集まりにくいなど問題はあるが,地道な若手育成の試みは学会内でも評価されていた。来年の大会にも引き継がれるようである。また,「Harry G. Johnsonの回想と評価(I,II)」として,デューゼンベリー等の語りによるセッションがあった。筆者はこれを聴けなかったが,興味深いアプローチである。またアロー・ドブリューによる一般均衡の存在証明論文を公刊した際のレフェリー記録,ナイトとカルドアの書簡やスラッファの未公刊論文など,資料に語らせる方向の報告もいくつかみられた。

     セッション外での議論も活発で,総じて非常に活気のある大会であった。概要がJHETの論文集(Conference Volume)として出版されるのを待ちたい。

    (中山 智香子)


    ○オーストラリア経済思想史学会(History of Economic Thought Society of Australia ,HETSA) 第13回大会

     7月5−7日にシドニー大学ウェズリー・カレッジで開催された。スラッフィアンとして知られるハインリヒ・クルツが招待され,Understanding "Classical" Economics: A Reply to Mark Blaug というタイトルの基調講演を行なった。ブラウグ,ホランダーに続く世代のなかでクルツが,古典派を包括的に語り得る人物になりつつあることを感じさせるものであった。また,「歴史的研究と商業出版」というシンポジウムではシドニー大学のライブラリアンをも報告者に迎え,学術雑誌の機能やメディアの形態変容のなかでの学史研究をめぐる出版のあり方が議論された。8セッションで19本のペーパーが読まれ,総参加者は30名強。HETSAへは初参加ながらHETやHESで何度か報告した者として印象を述べると,第1に参加者の大半が顔見知りのためか,相互に関心を尊重しつつ親密な雰囲気のなかで議論が繰り広げられている。第2に,教育上の役目としてはミクロ・マクロなどを担いながらそれとは大胆に異質なテーマをも暖めていく雰囲気があり,好感が持てた。初めて外国学会での報告を試みようという方にとって,HETSAはHESより居心地がいいかも知れない。

     グロネヴェーゲンはラスキン没後100年にちなむ報告をした。オスリングトンはA.M.C.ウォーターマンによる神学的経済学の議論をオックスフォード運動で知られるJ.H.ニューマンにまで広げて考察しており,興味深かった。経済学でモラルをも語るシーニアや神学的知識と科学的知識とを方法的に切り離したホェイトリーらとは対照的に,道徳に関する領域はもっぱら神学に属するとして経済学を神学から切り離したのがニューマンだという趣旨。この報告に対しては,ホェイトリーらが経済学の担う社会的機能(普及の意義)を認めたのに対してニューマンは異なる筈だ,とコメントしておいた。なお,日本からは他の学会参加のためにシドニーに居合わせた伊藤誠,池尾愛子両会員が初日に姿を見せ,有江大介会員がベンサムの経済政策論における方法論的含意について,深貝がベンサムの富裕と人口に関して,それぞれ報告した。

    (深貝 保則)
    ○International Society for Utilitarian Studies (国際功利主義学会)第6回大会

     3月24−26日アメリカ合衆国ノース・カロライナ州Wake Forest大学Graylyn国際会議センターで開催された。本大会が開催されたウィンストン・セイレムはタバコで有名な町であるが,会議は広大な敷地と見事な景観のなかに点在する建物を会場として行われた。大会は規約にしたがい総会を兼ねて3年以内に一度の割合で開催されることになっており,その間,本学会はベンサム・プロジェクト,UtilitasのEditorial Board,Bentham Committeeによって実質的に支えられているが,大会ごとに開催地の担当者が議長となって運営される形式を取っている。筆者の知るかぎりでは,本大会は1994年8月東京で開催された第4回大会以後,とくに広範な分野の研究者――反功利主義の立場に立つ研究者も含めて――が参加するようになり活発となっている。今回は100にのぼる報告があり,テーマ別に6つ分科会に分かれて進められた。招聘者による報告としてはJ. Griffin 'A Right to Life, A Right to Death', S. Scheffler 'Raws and Utilitarianism', T.Hurka 'Common Structure of Virtue and Desert', B. Barry 'The Limits of Universalism'などがあり,それぞれ今日的課題に答えようとするきわめて意欲的なものであった。日本からも9名が参加し,8名が報告した(山下重一,永井義雄,土方直史,有江大介,深貝保則,森村進,坂井弘明,音無通宏)。筆者が報告したのは法学と経済学におけるスミスとベンサムの関連を問うというセッションであったが,日本からの参加者のうち4名がベンサムの経済学に関連して報告を行い,功利主義研究に対して経済学史研究の立場から発言をする途を開いたということができる。報告時間が短い点に難点が残るが,他にもベンサム間接立法的論や言語論など注目すべき報告が見られ,全体として盛況であった。『新ベンサム著作集』の刊行とともに功利主義研究がいっそう発展することが予想されるが,次回大会は2003年リスボンで開催されることが決定され,準備が開始されている。

    (音無 通宏)
    ○国際経済学協会(International Economic Association,IEA)第12回世界大会

     1999年8月23−27日にブエノスアイレスで開催された。南米初の大会は当初リマで予定された。経済状態の悪化を理由にチリが辞退したため,当初予定より1年遅れてアルゼンチンでの開催となった。それでも,参加登録した経済学者の数は54ヶ国から1300人を超えた。

     経済思想史のセッションは2つで,E.シュトライスラーとB.ロッシャーの報告はスペイン語に通訳された。私の論文は,戦間期の日本の金融論と金融政策についてであったが,現代のヨーロッパや南米の金融政策が報告されたセッションに入れられた。投稿論文の扱いは試行錯誤を重ねながら,毎回変化してきている。

     IEA自体が歴史的に興味深い。IEAは1950年に設立され,2000年には50周年を迎えるとともに,転機にも立たされている。IEA関係者が世界銀行と深い人的つながりを持つなど,経済成長と経済学の「英語化」にも貢献してきたといえる。中南米の経済成長に心を寄せるアメリカの経済学者たちは今も多い。

     今回は,ヨーロッパの若い経済学者たちに元気があふれていたのが印象的であった。通貨統合を間近にひかえ,通貨政策・金融政策を建設的に考察するために,ゲーム論が役立っていた。投稿論文を受け入れる世界大会は今後も続けられることになり,次回は2002年にベルギーで開催される予定である。
    世界大会の報告論文や円卓会議の論文は,ホームページに公開されることになりそうである。学術雑誌ではレフェリー制度により論文の質が保たれている。情報発信が容易になった現在,学術機関の公式サイトの重要性が今後は増すように思われる。

     IEAのサイト http://www.iea-world.org から,IEAに関する基本情報を入手することができる(7月9日現在)。             

    (池尾 愛子)

    開催予定
     

    ○進化経済学ヨーロッパ連合

     European Association for Evolutionary Political Economy (EAEPE) 2000 Conference
    2-5 November
    Berlin, Germany
    EAEPE's Institutional History of Economics Research Area invites paper proposals that contribute to one of its following seven theoretical perspectives:
    (1) The approach to analysis is based on an evaluation of relevant tendencies and linkages in actual economics - instead of a methodology that sanctifies fictions and diverts attention from the difficult task of analyzing the practice and culture of economics.
    (2) The analysis is open-ended and interdisciplinary in that it draws upon relevant material in psychology, anthropology, politics, and history - instead of a definition of history of economics in terms of a rigid method that is applied indiscriminately to a wide variety of economic approaches.
    (3) The conception of economics is of a cumulative and evolutionary process unfolding in historical time in which economists are faced with chronic information problems and radical uncertainty about the future - instead of approaches to theorizing that focus exclusively on the product of this process.
    (4) The concern is to address and encompass the interactive, social process through which economics is formed and changed - instead of a theoretical framework that takes economists and their interests as given.
    (5) It is appropriate to regard economics itself as a social institution, necessarily supported by a network of other social institutions - instead of an orientation that takes economics itself as an ideal or natural order and as a mere aggregation of individual economists.
    (6) It is evaluated how the socio-economic system is embedded in a complex ecological and environmental system - instead of a widespread tendency to ignore ecological and environmental considerations or consequences in the history of economics.
    (7) The inquiry seeks to contribute not only to history of economics but also to economics - instead of an orthodox outlook that ignores the possibility of such cross-fertilization.
    Contact: Esther-Mirjam Sent
    Department of Economics
    University of Notre Dame
    Notre Dame, IN 46556
    USA
    Tel: +1-219-631-6979
    Fax: +1-219-631-8809
    E-mail: sent.2@nd.edu
    Web-site: http://www.nd.edu/~esent
    Further information on the EAEPE 2000 conference can be found at:
    http://eaepe.tuwien.ac.at/conference.html

    ○経済学方法論国際ネットワーク

    REVISED SCHEDULE FOR THE MEETINGS OF THE
    INTERNATIONAL NETWORK FOR ECONOMIC METHOD.
    Call for Papers
    The International Network for Economic Method will sponsor two sessions at the meetings of the Allied Social Sciences Association (ASSA) January 5-7, 2001(Friday, Saturday, Sunday) in New Orleans, Louisiana.  Please submit abstracts for papers (about 200 words) and especially suggestions for organizing sessions no later than 1 May 2000.  Contact Kevin D. Hoover, Chair, INEM,
    Department of Economics, University of California, Davis, CA 95616-8578 or, by e-mail, to kdhoover@ucdavis.edu or, fax, (530) 752-9382.  Papers presented at the ASSA may also be submitted to the Journal of Economic Methodology.  The editors of JEM also encourage session organizers to submit whole sessions as mini-symposia or as the core of enlarged symposia.

    ○第2回国際ワルラス学会

    AIW: Association Internationale de Walras
         Dijon, LATEC: la Faculte de Science Economique de Dijon
         September 22, 2000
    Contact: Jan VAN  DAAL <jvandaal@ish-lyon.cnrs.fr>
    Jerume LALLEMENT <jeromel@univ-paris1.fr>
    Jerume LALLEMENT, GRESE, Maison des Sciences Economiques
                            106, bd de l'Hupital,
                            75647 Paris Cedex 13  (France)
    Fax: Jerume LALLEMENT  : 01 44 07 82 38
    Comite scientifique / programme committee:
    Pascal BRIDEL (Lausanne), Pierre DOCKES (Lyon), Jerume LALLEMENT (Dijon),
    Jean-Pierre POTIER (Lyon), Jan VAN DAAL (Lyon/Rotterdam),
    Donald A. WALKER (Indiana, Pa).
    Comite d'organisation /
    Arnaud DIEMER (CERAS Universite de Reims)
    Jerume LALLEMENT (LATEC Universite de Bourgogne)

    ○マルクス主義再考。国際ガラ会議

    RETHINKING MARXISM announces its fourth
    International Gala Conference
    MARXISM 2000
    21-24 September (Thursday-Sunday) 2000
    University of Massachusetts at Amherst
    PURPOSE: The editors of RETHINKING MARXISM announce the fourth in itsseries of international Gala conferences that aim to celebrate the richnessof contemporary Marxism in all its varieties. The prior three conferences,each attended by well over one thousand persons from across the globe,brought together a variety of Marxian and other liberation communities to discuss, debate, and strategize about diverse theoretical and political concerns.
    LOGISTICS:  The Conference will be held on the campus of the University of Massachusetts at Amherst. Detailed information on lodging, travel directions, and childcare will be provided to all conference registrants and can also be found on our web site, http://www.nd.edu/~remarx/Marxism2000/. For additional information on childcare, please contact Cecilia Rio at mailto: rio@econs.umass.edu
    REGISTRATION: Please use the registration form below, or download a form from our website, http://www.nd.edu/~remarx/Marxism2000/. Note that the address to which to send the completed form depends on whether you are also submitting a proposal.

    ○経済思想史会議

    HISTORY OF ECONOMIC THOUGHT CONFERENCE
    GRONINGEN, NETHERLANDS
    September 7-9 2000
    (This is what is often called the UK Autumn conference, but is outside the UK this year)
    The Conference organizer is Evert Schoorl.
    Just a few suggestions for paper presentations can still be considered.
    There is a direct train connection between Schiphol Airport and Groningen (less than 2hrs. 30 mins). An early registration (or intention to without full commitment at this stage) will be appreciated in view of the number of rooms available at the University guesthouse.
    Evert Schoorl
    Research School SOM
    PO Box 800
    9700 AV Groningen NL
    PHONE: +31.50.3634527
    FAX: +31.50.3633720
    E.MAIL e.schoorl@eco.rug.nl

    ○ニュートンの時代の経済学

    Economies in the Age of Newton
    Neil De Marchi and Margaret Schabas, eds.
    Call for Proposals
    We invite proposals of articles that link political economy to natural philosophy and medicine in the period c.1650-1750. We positively encourage topics that range across disciplines and/or over several figures. The resulting set will be presented at a conference to be held at Duke University in April 2002. The jounal History of Political Economy will cover accommodation expenses at the conference, and is able to offer up to $500 for travel costs.
    Contact:
    Professor Neil De Marchi, Economics Department
    Duke University
    Durham  NC  27706  USA
    demarchi@econ.duke.edu
    Professor Margaret Schabas, Philosophy Department
    York University
    4700 Keele St.
    Toronto  Canada  M3J 1P3
    Schabas@yorku.ca


    松岡保会員を悼む
     

     関西大学教授松岡保会員は本年3月3日逝去された。1932年生まれで享年67歳。1955年京都大学経済学部を卒業され,ただちに同大学大学院に進まれたが,1958年に同大学人文科学研究所の助手となり,関西大学には1965年に来学,後同大学で社会思想史を担当された。

     ロシア社会思想史を専攻され,ナロードニキ主義全般,ゲルツェン,ヴォロンツォフ,ベルビ・フレロフスキーに関する研究など,あまたの論文を残されたが,とりわけヴォロンツォフのロシア資本主義没落論の克明な分析は,ロシア社会経済思想史研究者のみならず,再生産=蓄積論史や日本資本主義論学史にかかわりのあるものにも多大の感銘を与えた。他方,専門に埋没することのない視野の広い研究者であって,小伝「ローザ・ルクセンブルク」はこぶりながら,フレーリヒの古典的なローザ伝にも欠けた情報を含んでいて識者に注目されたし,水平社創立趣意書『よき日の浮めに』におけるロマン・ロランとゴーリキの文章の借用のあとを微細にわたって追求し,その思想史的意義を論じた正續二編の論文は,社会思想史兼考証家としての同会員の真面目さを示して余すところがなかった。

    (重田 晃一)


    藤井定義会員を悼む
      

     藤井さんは本庄榮治郎先生が大阪府立大学に居られた時に教えをうけ,先生の著作集の編集刊行や日本経済学文献続刊などに関係してこられたが,そのころお互いに経済思想史の著作を私達は相互に交換し会うことになった。

     甲南大学ではやはり本庄門下の大山敦太郎教授は日本経済史の外に日本経済思想史も開講していたが,定年後日本経済思想史の方の講義を私に託された。数年後お引き受けした私も定年になった時,藤井さんに非常勤できていただくようお願いしたら快諾して下さった。大阪府大から定年後松阪大学に移られたが,吹田市の御宅からほぼ隔年ごとにずっと出講していただいて,甲南の学生は日本経済思想史を熱心に聞いてくれるのでたのしみに通っていると年賀状を書いておられた。

     本庄先生の学風を継承して,近世の経済史や経済思想史との両方をマスターしておられた方がまた一人なくなって,各大学におかれている経済思想史の講座が存続しにくくなるだけに,藤井さんの逝去が惜しまれてならない。

    (杉原 四郎)
    田中真晴会員を悼む
     
       広義の経済学史研究の分野で,内田,小林,水田という偉大なトリオの次の世代を担われた一人,田中真晴先生は,去る6月21日に,入院先の京都府立医大病院で,亡くなられました。享年75歳。一昨年来,実に2年半に及ぶ長い闘病生活でした。先生は経済学史学会の会員,幹事,代表幹事として,また京都大学,甲南大学,龍谷大学の,講師,助教授,教授として半世紀もの間,活躍されました。とくに京大時代には名著『ロシア経済思想史研究』(ミネルヴァ書房,1967年)を出版され,この分野に不滅の貢献をされました。また甲南大学に移られてからは,代表幹事を努められ,学会の改革に寄与されました。先生は経済原論の分野で書物を残されませんでしたが,40歳代から50歳代にかけての先生の勉強ぶりは凄まじいものでした。先生は啓蒙の経済思想研究から出発し,ウェーバー,ロシア経済思想,マルクス,そしてハイエクの紹介(翻訳『市場・知識・自由』,1986年,ミネルヴァ書房)を介して,ヒューム,スミス,マーシャルへと回帰され,最後はスコラの経済思想に取り組んでおられました。後期の仕事は『自由主義経済思想の比較研究』(名古屋大学出版会)に一部結実しました。永く温めて来られた論集の構想は,『ウェーバー研究の諸論点』(未来社)としてやがて出版される予定です。慎んでご冥福を祈ります。
    (田中 秀夫)

    編集後記
     

     学会50周年の記念大会も間近になりました。辞典(6月刊),50年史(8月刊),記念講演・シンポジューム(大会時開催),データベース(科研費交付決定)と,企画されたすべての50周年事業がほぼ順調に進んでいるように思われます。財政もほぼ立ち直りましたし,年報の年2号化も準備が進められています。この50周年大会を機に学会の一層の発展が図られればいいと思います。本ニュースの編集については,原稿提出者のメール入稿(締め切りに遅れられる場合がありましたが)と本吉さんのon-the-job training,印刷所の慣れで比較的スムースです。
    (馬渡 尚憲)


      事務局も2年目に入り学会ニュースも3号目です。今回も各委員・会員の方々のご協力により無事に編集を終えることが出来ました。このニュースとともに幹事選挙の投票用紙が配布されているかと思いますが,選挙管理委員会で被選挙人の確定をされます上で,生年月日不明の方が当初270名もおられまして,その調査に事務局も協力いたしました。これにはかなり時間がかかりました。最後には直接不明者に電話をかけることになってしまったのですが,どの方も突然の失礼にもかかわらず快くお答え下さり大変感謝しております。

    (本吉 祥子)

    ──────────────────────
    『経済学史学会ニュース』第16号
    2000年8月4日発行
    経済学史学会 代表幹事 馬渡 尚憲
    事務局 〒980-8576 仙台市青葉区川内
    東北大学経済学部(馬渡研究室)
    Tel: 022-217-6275
    E-mail: mawatari@econ.tohoku.ac.jp
    ──────────────────────

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