経済学史学会ニュース
The Society for the History of Economic Thought Newsletter

(本吉 祥子作成)
第14号(1999年8月) ISSN 0919-0384

幹事会報告

 去る6月5日(土),東京都立大学経済学部会議室等で,1999年度第1回の常任幹事会・幹事会が行われました。幹事会の主な報告・審議事項は次の通りです。

 1. 新事務局について報告されました。また役員が確認されました。(「学会役員」参照

 2. 会員異動について,本年1月の時点で滞納退会を除く会員実数は831名,そこから6月5日までの,退会者9名,入会申込者24名と報告されました。また住所等変更が報告されました。入会申込者24名の入会が認められ,6月5日現在の会員数は646名となりました。(「会員異動」参照[Web版では省略])

 3. 本年度は名簿作成の年なので,作成方法・日程などが報告されました。

 4. 本年11月6日(土)-7日(日)に熊本学園大学で行われる第63回年次大会の準備状況が説明されました。懇親会も行われます。来秋一橋大学で行われる第64回大会の日程等はこの秋に決めることにいたしました。

 5. 年報編集委員会大会組織委員会英文論集委員会企画交流委員会の各常置委員会より報告といくつか提案があり,了承されました。年報投稿論文のレフェリー結果の本人への開示方法を編集委員会で検討し,また年報を年2回発行することについて常任幹事会で検討し,両方の検討結果を得て幹事会で協議することになりました。(「各委員会報告」参照)

 6. 辞典編集委員会データベース委員会等の学会50周年記念事業委員会から,報告がありました。記念講演会については,竹本洋記念講演会委員長より,2000年の第64回年次大会時に,講演とシンポジュームを行うことが提案され,了承されました。(「各委員会報告」参照)

 7. 学術会議同経済理論研連委日本経済学会連合の報告がありました。(「各委員会報告」参照)

 8. 前事務局より1998年度決算が報告され,また監事より帳簿照合の結果間違いない旨報告され,同決算が承認されました。代表幹事より,1999年度予算案が諮られ承認されました。(「決算・予算」参照

 9. 2001年度の第65回年次大会は,関西学院大学で行うことを決定しました。

 10. 来年度に行われる次期幹事選挙で,第3期の現幹事24−25名(定員30名程度)が被選挙権を失い学会の円滑な運営に懸念があるということから,代表幹事より移行措置が提案され,種々協議し継続審議としました。

 11. 2名を名誉会員に推薦することを決め,ご本人の承諾が得られたら,秋の幹事会と総会で名誉会員に決定することにいたしました。



学会役員
 
会則内規4.によって,前号の『経済学史学会ニュース』に記載すべきであった「幹事・監事選挙結果報告」の掲載が漏れておりましたので,この報告を兼ねて今期の役員名簿を掲載します。

代表幹事     馬渡 尚憲
      
幹  事(五十音順,○印は常任幹事=各常置委員会委員長)
 

有江 大介  安藤 隆穂  飯田 裕康  池尾 愛子  伊 藤 誠   
井上 琢智  内田 弘   大森 郁夫  音無 通宏  川島 信義  
栗田 啓子 ○坂本 達哉  塩野谷裕一  関 源太郎  千賀 重義  
○高 哲男  竹本 洋   田中 秀夫  永井 義雄   新村 聡  
西沢 保   根岸 隆   橋本 昭一  服部 正治 ○平井 俊顕  
深貝 保則  星野 彰男 ○八木紀一郎  山田 鋭夫  和田 重司  
渡会 勝義


監  事

橋本比登志  山下 博
(幹事・幹事の任期は,1999年4月1日から2001年3月31日まで)


決算・予算
 
 
 1998年度収支決算書(1998.4.1〜1999.3.31)
収入
支出
前期繰越金
790,476
大会費
400,000
会費
6,141,000
部会補助費
223,290
年報売上
150,870
会議費
1,303,110
年報広告掲載料
140,000
年報編集発行費
2,543,195
文部省助成
310,000
大会報告集印刷郵送費
384,440
利子収入
1,376
事務局費
918,026
大会報告集売上
600
選管費
99,330
臨時収入
230,000
センター費
726,891
臨時支出
40,000
前年度未払い金支払い
383,635
次期繰越金
742,435
 ・次期繰越金(預金・現金)
602,435
 ・年報36号広告料未収金
140,000
合計
7,764,322
合計
7,764,322

 
1999年度予算
収入
支出
前期繰越金
602,435
大会費
400,000
会費
6,100,000
部会補助費
253,000
年報売上
150,000
会議費
410,000
年報37号広告掲載料
140,000
刊行物編集費
700,000
文部省助成
260,000
年報編集発行費
2,100,000
利子収入
500
大会報告集印刷郵送費
400,000
大会報告集売上
5,000
事務局費
745,000
臨時収入
277,276
会員名簿印刷費
250,000
 ・年報36号広告料回収
140,000
センター費
723,000
 ・著作権協会配当金
130,000
経済学会連合分担金(2年分)
70,000
 ・その他
7276
予備費(50周年準備費等)
300,000
次期繰越金
1,184,211
合計
7,535,211
合計
7,535,211

年報編集委員会

 年報第37号の構成が決定いたしました。「特集」は「金融危機の経済思想」で3本の論文(18世紀欧州の金融危機と金融思想を扱ったもの,19世紀と現代の金融危機を扱ったもの,ケインズ経済学の視点から金融危機を扱ったもの)からなります。また「研究動向」は4本の論文(スミス研究の現状,マルクス経済学の市場社会論,戦間期イギリスの経済学,わが国における制度学派研究[英文])からなります。書評対象図書は36点(和書19点,洋書16点,翻訳書1点。洋書のうち2点は学会員によるもの)です。「公募論文」は12点あり,うち以下の5点を採用いたしました。それに「書誌」が付きます。
 
 益永 淳「リカードウの等価定理――その理論的・政治的意義――」
 深貝保則「マルサス『人口論』初版における農業重視論」
 山本英司「新古典派経済学の哲学的源流――デカルトとポパー――」
 江頭 進「ハイエクと世界恐慌――理論と観察の狭間で――」
 服部茂幸「カレツキと貨幣経済の理論」
(平井 俊顕)
 
公募論文投稿規定



大会組織委員会

 
1. 第63回大会のプログラムが別記のように決定されました。なお,3つのフォーラムのうち,「進化思想と経済学」では,都合により報告者が1名変更になりました。また,今回は一部4会場を設営してみましたので,大会終了後,この新しい試みについてのご感想・ご意見を賜りたく存じます。

2. 今年度の大会組織委員会は,池尾愛子,井上琢智(大会報告集小委員長),大森郁夫,栗田啓子,高 哲男(委員長),渡会勝義の6名です。

3. 第64回大会(予:一橋大学)は50周年記念の行事が予定されておりますので,第65回大会(予:関西学院大学)はフォーラムを企画することになります。「このようなテーマではどうか」というご提案をお待ちしております。委員までお知らせ下さい。

(高 哲男)

英文論集委員会

 英文論集第3集のための編集委員会が発足しました。委員は,大森郁夫,坂本達哉,篠原久,関源太郎,田中秀夫です。論集のテーマは「スコットランド啓蒙と経済思想」とし,坂本,田中が編者となる予定です。書物の構成は経済思想を軸としつつも政治,社会,歴史をふくむ15章前後の幅広いものとなります。執筆者については,現在,編集委員会において人選を進めています。出版社は未定ですが,2002年秋までの出版を予定しています。

企画交流委員会

 本委員会の日常業務はホームページおよびメイリングリストの維持・運営と海外学会の情報収集です。学会のホームページ(http://society.cpm.ehime-u.ac.jp/shet/)は,学術会議が編集協力している『学術の動向』の今年5月号の特集「学会とインターネット」で,他の6学会のホームページとともに積極的な活用例として2ページ見開きで紹介されました。メイリングリストに加入されたい方は,下記委員までご連絡ください。

  今期は,情報の収集だけでなく,発信面もさらに強化したいと考えています。部会などの研究会情報も,和文だけでなく英文もつけてお送りいただけるなら,海外からのアクセスにも対応できます。なお,学会会員業績を中心にした経済学史データベースの構築をホームページの拡充と結びつけるために,データベース小委員会と協働作業をおこなうことにしています。

  委員のメンバーとe-mailのアドレスは以下のとおりです:  赤間道夫(akamac@ll.ehime-u.ac.jp),池田幸弘(ikeda@econ.keio.ac.jp),深貝保則(fukagai-yasunori@c.metro-u.ac.jp),八木紀一郎(yagi@econ.kyoto-u.ac.jp:委員長),若田部昌澄(wakatabe@mn.waseda.ac.jp

(八木 紀一郎)


50周年記念事業関係
@辞典編集委員会

  6月3日−4日の編集委員会で,1184項目,358人の全原稿の点検と統一・編集作業を終わり,項目名と執筆者名一覧を6月5日の幹事会に報告しました。そして,6月25日には出版社(丸善・株・出版事業部)にMOファイルで入稿いたしました。代表幹事序文,凡例,辞典本文,索引でおおむね500ページで,2000年4月頃,経済学史学会編『経済思想史辞典』として刊行されます。初校ゲラが7月25日前後,初校提出期限が8月25日前後の予定です。再校以降は編集委員会で行うことにしています。校正につきまして,ご協力をお願いいたします。編集委員会は,引き続き次の委員で構成されています。安藤隆穂,出雲雅志,大村 泉,高哲男,竹本 洋,田村信一,藤井隆至,馬渡尚憲(委員長),渡会勝義。

(馬渡 尚憲)
Aデータベース小委員会

  休眠していた本委員会も2000年に向けて動き出します。小委員会が設けられた趣旨は,物故者・退会者をも含む全会員の経済学史・経済思想史に関する業績を中心にした文献データベースが出来れば,学会の半世紀を記念しうるだけでなく,研究上の利便も高いということでした。構築されたデータベースをCD-Romによって配付することも考えられますが,まずは学会ホームページと結合したWeb・データベースとして構築するのが適当と考えられます。今年の秋までに,小規模な試行版データベースを構築するとともに,全会員にデータの提供依頼をしてデータの蓄積をはかります。そのうえで,文部省の科学研究費補助金(データベース作成支援)に応募し,大規模な入力作業や収集データの拡大の経費をまかないたいと考えています。

  今号のニューズレターとともに,会員のみなさまのお仕事(論文・著書・研究報告・翻訳など)について,データ提供の依頼状を同封させていただきます。提供の方法には,1)アンケート用紙に記入する,2)電子ファイルで業績目録をフロッピーディスクあるいは電子メールで送る,3)開設予定のWebデータベースにインターネットで接続し,その登録ページに直接記入する,4)印刷済みの既存の業績目録を郵送するといった,種々の方法がありますが,詳しくは依頼状をお読みください。

 なお,ご関係の深い物故・退会会員の業績について,調査をお願いすることもあると思いますので,その節はどうぞご協力をお願いします。  委員構成(*委員長):赤間道夫,池尾愛子,大村 泉,塘 茂樹,野口 旭,八木紀一郎*,若田部昌澄

(八木 紀一郎)




日本学術会議
1. 1999年4月21日〜23日の総会で,77ヶ国共同で進められている「地球圏・生物圏国際協同研究計画」の促進を政府に求める勧告を行うことが採択された。

2. 今年(1999年)は日本学術会議創立50周年に当たり,記念式典,特別記念講演等が10月28日に開催される。『50年史』も発行されている。

3. 行政改革との関連で,日本学術会議の位置付けが昨年から問題になっていることを報告してきたが,「中央省庁改革関連法案」の審議が開始され具体化されようとしている。日本学術会議は内閣総理大臣の所轄から,当面新しく設けられる「総務省」の所轄に変更され,今後のあり方については,「総合科学技術会議」(新設予定)で検討するとされている。この改革をめぐって,総会,各部会等を挙げて全面的な検討・討議が行われた。行革と関連して,創立50周年を迎える学術会議の内部改革の議論が同時に行われている。いま学術会議は,50周年の節目に,科学政策に関する行政への批判と提案という学術会議本来の役割と地位が危うくなるかもしれない大きな転機にさしかかっていると言える。政府に対する対応を誤らないように急ぐことと,会議の内部改革について,この際根本的な検討が加えられることが望まれている。

(田中 敏弘)

【参考:日本学術会議



学術会議経済理論研究連絡委員会
1. 本年度国際会議代表派遣として田中敏弘委員(米国経済学史学会第26回大会・6/25〜28)と宮川彰委員の派遣が承認された。

2. 本委員会主催の「経済学系大学院の現状と問題点」が3月19日に5国公私立大学のパネリストにより行われた(なお,この内容は,文書にまとめて公表される予定である)。

3. 科学研究費補助金制度が日本学術振興会に移管されたことに伴い,同補助金の審査委員候補者を推薦する窓口が本委員会に切り替えられた。また,審査委員が増員されたこともあって,同委員候補者を推薦する学会の選定方法を検討した結果,ある原則に基づいて本年度の選定を行った。なお,選定された学会からの委員候補者の推薦は,従来通り各学会が行う。

(星野 彰男)

【参考:日本学術会議



経済学会連合

 1999年度第1回評議員会が5月17日早稲田大学で開かれ,次の事項が了承ないし協議,決定された。

1. 本年度第1次国際会議派遣補助(日本商業学会30万円と日本地域学会40万円)

2. 本年度第1次外国人学者招聘補助(日本財政学会12万円と経済理論学会15万円)

3. 本年度第1次学会会合費補助(社会経済史学会と経営哲学学会各5万円)

4. 『英文年報』第18号刊行報告,同第19号編集経過報告。

5. 『連合ニュース』第35号刊行報告。

6.  IEA開催地変更報告。『連合ニュース』第35号18ページ参照。

7.  平成10年度決算報告,平成11年度予算案。

8.  日本海運学会新規加盟承認。

9.  評議員会で第18期連合理事選出,根岸隆理事は任期満了。新しい理事会で前期に引き継ぎ宇野政雄評議員(日本物流学会)が理事長に選出され評議員会で了承された。

(和田 重司)

経済学史学会第63回大会プログラム


会員異動(詳細は省略)



【部会活動】

東北部会過去の部会活動
 


衛藤 総一「ヒュームの黙約について」
 

 利己的な個人の集合の中からいかにして秩序が生まれるのか,という所謂ホッブス問題はこれまで様々に論じられてきた。本報告では,ヒュームの説く社会成立の過程をゲーム理論を使って検討した。

 脆弱な存在である人間には,社会を形成することが必要である。しかしヒュームは人間本性の基本を利己心であるとし,特に正義や社会・政府の成立に関しては仁愛や憐れみなどは非常に制限されてしまうとする。また人間の欲求や必要に対して財は希少であり,かつ容易に他人に移転されうる。貪欲な人間の利己心を抑制するのに,他者に対する仁愛では不十分である。このように,われわれの自然的性向や外部的事情のうちには,社会的接合を阻害する要因がある。ヒュームによれば,このような状況に対する唯一の救済策は,社会の全成員が黙約を結び,それらの外的財の所有に安定性を与え,各人が幸運と勤勉によって獲得できたものを平和に享受させることである。この黙約とは,共通利害の一般的な感覚であり,社会の全成員はこの感情を互いに表示しあい,この感覚に誘致されて,各人の行為を若干の規則によって規制する。

 このようなヒュ−ムの言う黙約は現在われわれの考える黙約概念とほぼ同じものである。そしてそれはゲーム理論においては調整問題の解とされる。この均衡としての黙約はそのまま存続もするはずである。しかしヒュームは一旦成立した黙約を人々が守らなくなるであろうと考えた。この相違を検討することが,ヒュームの人間観を理解する上で重要であると思われる。


佐々木 亮「アダム・スミスと功利主義――ベンサムとの対比において――」
                            
 アダム・スミスは『道徳感情論』において効用主義的な正義論,とりわけ社会的効用にその基礎をおくヒュームの正義論に対して批判的立場をとっている。またわれわれが感じる快・不快についても,そのすべてを利己心に還元するような考え方には否定的である。その上でスミスは正義や行為の適宜性の問題をできるかぎり同感の原理によって基礎づけようとしているが,例外として社会的効用の観点から是認または否認の判断を下さなければならない場合があり,その場合には中立的観察者の同感はその判断についていけないことがあることを認めている。『道徳感情論』でスミスがあげた例外とは,軍律と市民的行政(civil police)であるが,これが『国富論』の第5編や航海条例の是認などの政策論と結びつけられ,スミスは正義論においては同感原理を採用し功利主義的な考えを排除しているのに対し,実際的な政策判断においては功利主義的な側面があるとする解釈が存在するのも事実である。

 以上の議論からはまた,スミスの同感原理は正義論に限定し社会的効用とはひとまず切り離すべきであるとする考えが生じるが,しかし同感の原理は社会的効用と全く関係がないとは言い切れないのではないだろうか。というのは第一に歓喜への同感論からいわゆる「見えざる手」の論理が導出されているからであり,第二は正義論の範囲を超えてはいるが公共精神論などにおいては個人的利害を社会的利害のために犠牲にする行為が観察者の同感によって是認されることを述べているからである。政策についても高利子の制限はベンサムによる批判をうけるが,これはスミスの筆がすべったのではなく,すべての個人の利己心が社会的功利につながるとするベンサムと中流および下層階級と上流階級との間に一線を引くスミスとのスタンスの違いによるところが大きいと思われる。


斧田 好雄「マーシャルと大学教育――経済学教育の普及と発展――」

 23年間のケンブリッジ大学教授時代のマーシャルの講義は,ただ知識を授けるというよりも,学生と一緒に考え,学生の能力を啓発する「考える教育」を基本とした。従って彼の講義は系統だったものではなかったし,また芸術作品のようにテクニックを駆使して組み立てられたものでもなかったが,真面目な学生にとって,また小さなクラスの場合には―前向きに勉強しない学生の受講を拒否―非常に感動を覚える講義だった。また彼はしばしば講義日の「タイムズ」を持ってきて,身近な経済問題を取り上げ,それを解説しながら,自説を披露した。また彼は多くの学生を経済学の勉強に引きつけるために,自宅で月曜と水曜の午後4−7時の間,学生に無報酬で非公式の指導や助言を与えた。

 彼は大学における経済学の地位向上に,また経済学教育の前進に全精力を傾倒したが,中でも彼の最大の功績は経済学トライポスの創設であった。そもそも1816年にケンブリッジ大学でG・プリムによる経済学講義が開始されたが,経済学教授職が公認され,常設されるのは1863年であった。マーシャルが初代H・フォーセットの後継として教授に就任したときには,未だ経済学は道徳科学および歴史学トライポスの一選択科目にすぎなかった。そこで経済学の素養を持った人材の育成が必要,緊急であることを痛感するとともに,経済学は教養の一部として大学の中で学ぶ価値のある学問であるという確信のもとに,大学当局に経済学トライポス設置を要求していく。結局1903年彼の長年の野望はかなえられた。彼は教育の充実 ―人格の向上,労働力の質的改善―経済発展―所得増加― いっそうの教育投資,という人間投資と良質の労働力との相乗作用による経済発展に大いに期待した。それゆえ国内における貧困の除去の問題,対外的にはイギリス産業上の主導権の維持の問題,この両者の同時的解決の一つの方策として,大学での教育の充実が彼にとっては至上命令であった。



関東部会過去の部会活動
 
1998年度第3回例会

池田 幸弘「カール・メンガー『国民経済学原理』の成立」

 オーストリア学派の創始者であるカール・メンガーについては,これまで資料的制約もあってその伝記的情報については,隔靴掻痒の感が強かった。このことは,とくにすでに書簡集まで存在するワルラス研究に比していいうる。こうしたことは,メンガーの主著である『国民経済学原理』(1871)の成立過程を調べるのにさいしても,大きな困難となっていたが,しかしながら,メンガー家のカール・メンガー関係資料のデューク大学への寄贈によって事情は大きく好転した。本報告は,デューク大学所蔵の資料,メンガーが学生時代をすごしたヴィーン大学,プラハ大学のそれぞれの文書館所蔵の資料,オーストリア国立図書館所蔵の当時の新聞等の資料をもつかいながら,『原理』の成立を考察したものである。以下,得られた結果を要約しよう。

 メンガーは,歴史学派の巨頭,ヴィルヘルム・ロッシャーからは,『原理』の成立の過程で重要な役割をはたす『原理』のプランのヒントを得た。私見では,このプランはロッシャーの『国民経済学の基礎』(初版1854年刊行。メンガーが主として利用した第6版は1866年刊行。)からメンガーが考案したものにほかならない。また,いわば社会的な使用価値とも解釈しうるロッシャーの不十分さをメンガーは主観的な価値学説の立場から批判している。このことは,かなり早い時期からメンガーが個人間の選好のばらつきに注目していたことを意味している。ただし,『原理』では擬制的な財と正常な財,そして擬制的な価値と正常な価値を峻別しようとする立場をメンガーはとっており,この点にかんするメンガー・ロッシャー関係は単純なものではない。これは,メンガーの価値学説が主観的なそれであるとの通説にたいして『原理』成立史研究の立場から疑問を提起したこととなろう。


ヴォルフガング・シュヴェントカー「日本のマックス・ヴェーバー受容」

 ここでは日本における1905−1964年のマックス・ヴェーバー受容史を3期に分けて考える。始めにヴェーバーの日本社会の解釈を「世界宗教の経済倫理」に,見ておき,次に1905−20年の受容史を概括する。ここで明らかになったことは,ヴェーバーの著作が日本ではまずは経済学者によって読まれたことであり,アメリカで社会学者に読まれたことと対照をなす,という点である。第2期(1925−45年ごろ)にようやく社会学者,歴史家,哲学者による研究や翻訳が始まる。日本の研究は特に社会科学方法論と比較宗教社会学に集中した。注目すべきは日米の違いである。終戦までに日本ではヴェーバーの重要な著作がほとんど翻訳されたのに対し,アメリカでは「経済史」と「倫理」論文だけであった。日本の特徴はさらに,歴史に焦点があてられたことにある。アメリカの受容は1945年以降と言ってよいが,歴史よりも,社会的行為論や官僚制の研究のようにヴェーバーを使って現代社会分析を試みた。ドイツのヴェーバー研究はナチ時代に止んだ。日本では1945年以降も戦前・戦中の研究を継ぐことができた。第3局面は,とくに宗教社会学を日本の全社会的近代化のモデルとして読んだ。ここでは1950年代以降アメリカの近代化論の影響にさらされたがベラーのアプローチにも批判的な立場がとられた。これら3期を通じて日本の受容は独米と比べても極めて独自な問題設定と解釈を展開しており,西洋の今後の研究にとって意義をもつことになるだろう。(小林 純訳)
 


1999年度第1回例会

八田 幸二「J. M. ケインズの政治・経済思想と新自由主義――ケインズとホブソン――」

 J. M. ケインズは,自己の政治・経済思想,体制観を20年代半ばには新自由主義 (New Liberalism),38年には自由主義的社会主義(LiberalSocialism)と形容している。しかし,このケインズの政治・経済思想――新自由主義・自由主義的社会主義――が,如何なる先行思想から影響を受けて形成されたものであるのか,或いはそれが如何なる思想的系譜に属すものと解釈し得るのかについては明確なコンセンサスは存在していない。

 本報告の課題は,ケインズとイギリス新自由主義,就中,J. A. ホブソンとにおける思想的共通性を剔出することによって,ケインズの政治・経済思想が部分的にせよ,イギリス新自由主義の修正自由主義的・社会改良主義的系譜に属すものであると解釈し得ることを指摘し,ケインズにはイギリス新自由主義の思想的特徴である平等主義的観点・所得再分配政策に関する顧慮が欠如,或いは希薄であるとしてイギリス新自由主義とケインズの政治・経済思想との連続性を否定する見解に疑義を呈することにある。

 ケインズは,(1)新階級分析を基礎とする投資家階級批判,(2)海外投資の国内投資への転換・国内経済優先論,(3)国内政策による戦争の抑止,(4)消費関数論に基づく所得再分配政策に関する議論等々においてホブソンと同質的な議論を展開し,これら四つの点においてホブソン等イギリス新自由主義者達と思想的に共通性を有している。また,ケインズは1904年の'The Political Doctrines of Edmund Burke'から『一般理論』に至るまで分配の平等・社会的正義について腐心していたのであって,この点においても彼にはイギリス新自由主義の思想的特徴である平等主義的傾向を認めることができるのである。


Alan Booth, British Economic Historians and the Study of J. M. Keynes's Economic Ideas in the 1930s

The focus of British Keynes scholarship in the past decade has been the impact of his ideas on British economic policy. British historians of interwar economic policy have tended to move beyond the economist-centred approach, which Keynes and his closest interwar colleagues most favoured. The economic ideas of leading Treasury officials certainly played a part in the rejection of expansionist policies, just as Keynes had supposed (and Clarke has demonstrated). But the Treasury's administrative and practical objections to deficit-financed public works, which Keynes had seen as a cover for deeper economic arguments, were real enough, as Peden, Middleton and others have confirmed. The recognition of the power of administrative and political factors in policy choices has led to the development of state-centred explanations, notably by Skocpol and Weir. In this perspective, Keynes failed because he did not address the primary policy concerns of ministers and civil servants - unemployment insurance, balancing the budget and promoting industrial competitiveness. Finally, attention must be drawn to the importance of structural factors. The British public sector of the 1930s was almost certainly too small to act as a foundation for deficit-financed expansion. The scale of borrowing and public expenditure required to reduce unemployment to normal levels was simply impossible. Keynes's success in achieving a revolution in economic theory should not be seen, as many economists and historians of economic thought appear to imagine, as the main step towards a Keynesian revolution in economic policy.


佐藤 方宣「フランク・ナイトにおける市場経済の倫理的検討」

 この報告の目的は,ナイトが「競争の倫理」論考 (1923年) に代表される1920年代の一連の論考で示した市場経済擁護論批判の内容を検討し,そこで展開された経済秩序の「倫理的な」検討という議論のレベルを確認することで,ナイトの社会思想/社会哲学の全般的検討の布石とすることであった。

 ナイトが批判対象とする議論とは,(1)諸個人の欲求を与件/所与と見なしてその充足を善とすること,(2)欲求充足手段の効率的提供と生産への貢献度に応じた分配の実現という観点から市場を肯定すること,(3)自由な経済活動を「ゲーム」に喩えてその活動とその結果を是とすること,(4)市場競争において張り合いを動機とした活動の活発さが生まれるのを倫理的に是とすることといった,自由放任経済の擁護論である。こうした議論をナイトは,(1)欲求はその性質上与件/所与とは見なしえず人間の生活は単なる欲求充足の過程とは見なし難い,(2)完全市場の理論的諸前提は現実的ではなくまた生産への貢献度に応じた分配の倫理性は自明とは言い難い,(3)同時代アメリカのビジネスゲームは公正なゲームとは言い難い,(4)「競争の倫理」なるものは活動の質を問題にしないものであり「倫理」とは言い難い,と批判した。

 だがこのようなナイトの市場経済擁護論批判を,ただちに市場経済を否定するものととってはならない。ここでのナイトの市場経済秩序の批判的検討は「倫理的な」観点からの議論なのであり,それは現実的な選択肢のなかでの選択に関わる「政策論的な」議論とはレベルの異なるものなのである。実際,ナイトは1930年代以降,社会主義経済やニューディール型経済の倫理的検討をもふまえ,市場経済を中心とする経済体制 を肯定していく。そうした後年のナイトの議論を理解するうえで,今回行ったナイトの市場経済秩序の「倫理的な」検討という議論のレベルの確認は,重要な手がかりとなるだろう。


関西部会過去の部会活動
 

第136回例会

熊谷 次郎「ヘンリー・マーティン (Henry Martin) の重商主義」

 1713-14年のユトレヒト通商条約論争において保護主義を掲げた『ブリティッシュ・マーチャント』(以下BMと略記)の中心的論客として活躍したマーティンには,分業と機械の使用による生産力の増強を基礎とする自由貿易論『東インド貿易に関する諸考察』(1701)がある。しかしこの著作はBMの保護主義とは矛盾するので,マーティンの作品ではないという見解がわが国では支配的であった。ところが1983年にマクロードが『諸考察』の著者の確定をして以来(Christine Macleod, Henry Martin and the authorship of 'Considerations upon the East India Trade', Bulletin of the Institute of Historical Research, 56,Nov. 1983),それをマーティンの著作と見なすことが定着した。そうなるとマーティンにおける『諸考察』の自由貿易論とBMの議論との関係を改めて検討する必要が生まれてくる。

 研究史上ほとんど看過されてきた『諸考察』の第18-22章のアメリカ植民地での安価な造船とそれに基づく海運業の強調,1711年の『スペクテーター』誌での分業に基づく貿易論,輸出入総監時代の報告書(『1698年のクリスマスから1719年のクリスマスにいたる各年のわが国の全貿易差額の確定にかんする一論』)での繁栄の源泉としての外国貿易,そしてマーティンの筆になる部分が多いと思われるBMの「フランスとの貿易」論でのユトレヒト通商条約反対理由としてのフランスにおけるイギリスからの再輸出品輸入禁止勅令(1701)の存続,こうしたマーティンの議論の検討からわかることは,大塚久雄がBM派にあるとした「2つの魂――国内市場と国外市場――」の後者の魂がマーティンには明らかにみられることである。BM第1巻のキングの序文でも強調されている貿易商人の活躍によるイギリスの繁栄論もこの点で注目される。これらはBMの議論を帝国的規模での再生産の観点から見直す必要を迫っているように思われる。


西川 弘展「ケインズのインフレーション論の学説史的意義――『貨幣改革論』の分析を中心として――」

 『平和の経済的帰結』で貨幣的契約に依存した社会秩序安定の立場からケインズがインフレーションを痛烈に批判したことは周知であろう。本報告では,『貨幣改革論』(以下TMR),『ケインズ全集 第19巻』を典拠に,主として1)こうしたアンチ・インフレーショニズムの立場が失業問題の顕在化しはじめたTMR期においても徹底して受け継がれていたこと(この点は従来の研究であいまいにされてきた)を例証し,2)こうしたケインズの見解がケインズ貨幣的経済論形成との関連でもつ意味について展望を与えた。

 TMRはインフレーションの産出効果に論及しており,同書がインフレーション許容論であったとする解釈やその中心的な問題が失業であったとする解釈が少なからず存在するが,これら所説は支持しがたい。なぜなら,1)失業問題への対応としてインフレーション政策を唱導する見解を「近視眼的インフレーショニスト」としてケインズは退けており,2)TMRにおける物価変動の累積性の命題が産出高一定(完全雇用)の仮定を要請することなどから同書が不完全雇用を前提とした短期の産出高増大に関する理論を積極的に提示することを意図していたとは考えられないからである。TMRは失業の経済学ではなく,管理通貨制の導入にまつわる経済学を主題としていた。後者は彼の経済学上のひとつの基軸問題であり,この観点からTMRは評価されなければならない。またこの時期の彼のアンチ・インフレーショニズムの見解は,管理通貨制について幅広いコンセンサスを得る説得上の手段であったという可能性も残り,それならばなおのこと,この見解は,この時期の彼における問題の優先順位(失業の克服よりも管理通貨制の導入)を明らかにしている。


八木 紀一郎「第二次世界大戦後日本経済学の学術的環境」

  経済学史に対する知識社会学的なアプローチとして学問的内容に出来るだけ立ち入らずに,経済学という知的作業の環境的・制度的条件と,そのもとでの経済学者・経済学文献の数量的把握をおこなうことも,何らかの意義をもつのではないだろうか。このように考えて戦後日本の経済学についての考察を試み,1)経済学の研究体制における戦時期と戦後期の変革,2)戦後経済学アカデミズムの制度的基盤としての新制大学,3)経済学者の年齢と分野構成,などについて報告した。(池尾愛子編『日本の経済学と経済学者』日本経済評論社,報告者執筆第2章を参照されたい。)


(関西部会第135回例会,『経済学史学会ニュース』前号未収録分)

服部 茂幸「カレツキと貨幣経済の理論」

 カレツキは「ケインズ革命」の同時発見者として知られている。けれども,ケインズが自己の経済学は貨幣経済学であると強調したのに対して,カレツキの経済学は実物経済学であるかのごとき印象を受ける。けれども,本報告はカレツキの経済学が貨幣経済学の発展のためにも重要な意味を持っていることを示す。

 一般均衡論は全ての市場において同時に需給が一致すると想定している。しかし,現実の市場では売りと買いの間には時間的なラグが存在し,それをつなぐものとして貨幣が必要となる。そのため,貨幣経済学はこのような時間的なラグをともなう調整過程を持たなければならない。このような調整過程を貨幣資本の循環の問題として扱ったのがマルクスであり,これをケインズは継承したのである。

 ケインズは企業が投資を行う際に資金が調達できるかどうかは重要であるが,貯蓄は必要ないと主張した。これは貨幣資本の循環を考えれば当然の主張となる。けれども,信用を利用できる時,実際に貨幣を持たなくても財が購入可能となる。逆に,銀行のように信用のある者の債務は社会的に流通し,貨幣として扱われるであろう。しかし,将来が不確実な現実の経済では,企業は望むだけ借入れることができるとは限らない。その結果,自己資金を持たない企業は投資を行うのが難しくなるのである。実はこのような貨幣と信用に関する問題はカレツキが重大な関心を抱いたところである。

 さて,カレツキの経済モデルはマルクス的な2階級モデルである。そこでは,資本家の支出が利潤を生み出すのに対し,労働者は賃金によって消費が決まると考えられている。同時均衡を仮定する一般均衡論は因果関係を否定するが,カレツキは因果関係を重視するのである。さて,資本家と労働者の間では因果関係は逆転している。このような逆転は資産を持ち,あるいは借入れも可能な企業,金利生活者とそれらが不可能な労働者という金融面における非対称性の結果である。


西南部会過去の部会活動
 

第86回例会

荒川 章義「価値の理論の変遷と諸科学の理論」

 本報告の目的は,19世紀後半にほぼ同時に発生した自然科学や哲学の理論の大きな変化が,経済学の「価値」の理論の変遷と正確な平行関係にあるのだと言うこと,並びにこの同じ事実が新古典派経済学の消費者の理論と生産者の理論の性質を正確に規定したのだと言うことを説明することにある。

  限界革命以前の古典派経済学は,商品の価値の源泉=本質を(その商品に投下された)「労働」にあるとみなしていたのに対し,限界革命の新古典派経済学は,商品の価値の源泉=本質を(その商品の相対的な)「稀少性」にあるとみなすようになった。この差異には,認識論的には一見するよりはるかに重要な意味があるということに注意しなければならない。と言うのは,古典派経済学のように,価値の源泉を「労働」にあるとみなすということは,実は,価値の本質を「外的」な「実体」性 にあると考えることに等しい。なぜなら,「労働」量とは,まさしく個人の主観=選好に由来しないという意味では「外的」であり,また他の商品との相対的な量の多さに依存しないという意味では「実体」的であるからである。これに対し,新古典派経済学のように,価値の源泉を「稀少性」にあるとみなすということは,実は,価値の本質を「内的」な「関係」性にあると考えることに等しい。なぜなら,「稀少性」とは,まさしく個人の主観=選好に由来するという意味では「内的」であり,また他の商品との相対的な量の多さに依存するという意味では「関係」的であるからである。

 しかし,この経済学が価値の本質をもはや「外的」「実体」性と見なさなくなり,むしろ「内的」「関係性」と見なすようになったということは,実は当時の諸科学の理論の変遷,より具体的に言えば,「エネルギー」の概念(物理学)や,「計量」空間の位置(数学)の移行,さらには「間主観性」の理論や「進化」 の理論の登場と正確な平行関係が存在するのである。


久間 清俊「マルクス主義における市民社会と高度資本主義」

 マルクス,エンゲルスの市民社会観(階級史観を含む)と彼らの後継者達の高度資本主義観を,官僚制批判の視点において,考察した。

  まず,マルクス,エンゲルスにおける官僚制批判について。マルクスの社会主義論においては,官僚制批判は重要な役割を占めているが,エンゲルスにおいては,そうではない。それは,マルクスの主体的弁証法に対して,エンゲルスは客観的弁証法であることによるものと思われる。マルクスは研究活動の初期において,ヘーゲルにおける政治組織としての官僚制と社会組織としての市民社会の対立的把握を批判し,この対立を私的所有制の克服,共産主義社会の実現において止揚しようとした。この視座が彼の生涯の主体的弁証法を貫いている。他方,エンゲルスは,研究活動の初期から,すでに階級闘争史観に立脚しており,この視座が客観的弁証法となって彼の生涯の,客観的法則としての社会主義の実現という唯物論的歴史観となる。エンゲルスにおいては,官僚制の問題は社会主義にとって重要な問題ではなかった。

 マルクスの官僚制批判の方法は『経済学哲学草稿』における私的所有制の下での「分業」批判において基礎的視角が現れているが,エンゲルスとの出会いを契機に形成されてくる唯物論的歴史観において,「分業」に対する「協業」の視角の強調という形で展開される『資本論・第一部』第4編「相対的剰余価値の生産」においても,「分業」と「協業」の対立的把握において,資本の指揮下での協働組織を考察している。もちろんマルクスは,社会主義においてはこの対立は止揚されると考えている。

 マルクス,エンゲルスの後継者達における官僚制批判も大きく二つの立場に分かれる。レーニンやローザ=ルクセンブルク,グラムシなどの革命的マルクス主義者においては,社会主義における官僚制批判の重要性が強調される。これに対して,ベルンシュタイン,カウツキー,ヒルファディンク等の社会民主主義者においては,社会主義における官僚制批判は,さほど重要視されてはいない。前者はマルクスの主体的弁証法に依拠し,後者はエンゲルスの客観的弁証法に依拠していると言える。

 マルクスの官僚制の批判の視座が再考されるべきである。もちろん,エンゲルスや,彼らの後継者達の理論とその評価を踏まえてである。現代のガルブレイスやドラッカー,レギュラシオン学派の組織論とも関連するものである。


中村 廣治「リカードウ『地金案』」

 本報告は,主としてリカードウの「地金案」のアイディアの提示から兌換再開法に組み込まれるまでの経緯と,これによって彼の意図したこととを,その論拠とともに究明しようとするものである。すなわち彼は,イングランド銀行が「銀行制限法」下に私益を追求して,自由な発券裁量によって通貨減価を引き起こす「権能」をもつことを不当とし,これ以上の減価を阻止するため,その裁量の余地を与えず,地金価格を徐々に造幣価格に近づけ,最終的にはそれ以下に保持するような発券調整を余儀なくさせる制度として,地金による即兌換案を提唱した。

 これによって彼は,通貨価値の「安定」(=地金価値との一致)とともに,国内流通の全面的な金紙代替により流通空費が節減され,金融逼迫期における正貨の「国内流出」も有効に阻止され,金準備を世界貨幣準備に限定・縮約しうる「経済的」通貨制度が実現される,と説いた。そうして結局は,その発行は政府から独立の機関に委ねる『国立銀行設立案』の原形を提示するにいたった。


国際学会情報

○第12回ハイルブロン経済学・社会科学シンポジウム

12th Heibronn Symposium in Economics and the Social Sciences, 25-27 June 1999

The twelfth Heilbronn Symposium in Economics and the Social Sciences will be devoted to the role of mathematics in the social sciences in general and economics in particular.The conference will be held in Heilbronn from June 25-27, 1999. The conference site is the traditional Schiesshaus at less than five minutes' distance from the railroad station. On Thursday 24 June, at four o'clock, conference participants will gather at the big clock in front of the railroad station, for a guided tour. Afterwards, dinner in Hotel Goetz.

Please address your inquiries to: Prof. Dr. Juergen G. Backhaus, Maastricht University, AE
P.O. Box 616
6200 MD Maastricht
The Netherlands
tel: +31-43-3883636
fax: +31-43-3258440
email: s.roggen@algec.unimaas.nl

○オーストラリア経済学史学会 第12回

History of Economic Thought Society of Australia Twelfth Conference, The Australian National University, Canberra, Australia,
14-16 July 1999

The History of Economic Thought Society of Australia (HETSA) will hold its1999 annual conference at the Humanities Research Centre, Australian National University, Canberra, between Wednesday 14 July and Friday 16 July.

Contact
Dr Grant Fleming, Convenor, 1999 HETSA Conference, Department of Commerce, Australian National University, Canberra ACT 0200, AUSTRALIA, or Grant.Fleming@anu.edu.au

○イギリス経済学史学会

HISTORY OF ECONOMIC THOUGHT CONFERENCE GLASGOW CALEDONIAN UNIVERSITY, 7 - 9 September 1999

Papers are invited in all areas of economic thought for the annual History of Economic Thought Conference to be held at Glasgow Caledonian University. Conference accommodation is available in comfortable student flats(with single rooms) adjacent to the city centre campus or in city hotels. On Wednesday afternoon an expedition to the Burrell Collectionis planned for participants.

Conference Organiser: Professor Alexander Dow, Department of Economics, Glasgow Caledonian University
70 Cowcaddens Road
Glasgow G4 0BA
Scotland
e-mail: acdo@gcal.ac.uk
Tel: + 44(0)141 331 3310
Fax: +44(0)141 331 3293
Web site: http://www.ecn.bris.ac.uk/het/1999/welcome.htm

○新制度派経済学国際会議,第三回年次総会

THE 3rd ANNUAL CONFERENCE OF THE INTERNATIONAL SOCIETY FOR NEW INSTITUTIONAL ECONOMICS.

The 3rd Annual Conference of the International Society for New Institutional Economics will be held on September 16-18, 1999, in Washington, DC, USA. Presentations and papers in all areas of New Institutional Economics are welcome.  In addition to economics, the conference program will include sessions on the application of NIE to political science, anthropology, law, and sociology.

Contact Michael Sykuta.
E-mail: SykutaM@missouri.edu
See also
ISNIE-USA : http://isnie.org/
ISNIE-EUROPE : http://www.univ-paris1.fr/ATOM/nie/nie.html

○シャルル・ジイド経済思想研究連合

Association Charles Gide pour l'Etude de la Pensee Economique International Conference: Formal Models and Economic Theory: History, Analysis, Methodology Parism September 17 and 18, 1999

What kind of scientific references did economic theory adopt throughout its history? What formal models were conducive to these references? How did they shape the analytical content of the theory? What analogies or homologies could be considered as having initiated new approaches to economic theory? Such questions lead to analyze the place and role of medical, chemical, mechanical, thermodynamical, biological, systemic, or other formal metaphors in the construction of economic theory. Colloque "Modeles formels et theorie economique : histoire, analyse, epistemologie"

GRESE Universite de Paris I Pantheon-Sorbonne Maison des Sciences Economiques 106-112,
boulevard de l'Hopital 75013 Paris France
telephone : 33 (0) 1 55 43 42 37
e-mail : grese@univ-paris1.fr

○ヴィーン・サークル主催「知識と経済学」ワークショップ

The Vienna Circle Institute will be hosting an international workshop in October 1999: Conceptions of Knowledge and Economics by/on Otto Neurath and Josef Popper-Lynkeus

Location: Institute Vienna Circle
Date: October 1/2, 1999
Together with: Institute of Philosophy, Working Group Analytical Philosophy (Co-ordination: Elisabeth Nemeth)

For more information, contact: Institute Vienna Circle
Museumstrasse 5/2/19
A-1070 Vienna, AUSTRIA
Tel./Fax: (+43 1) 5261005
http://hhobel.phl.univie.ac.at/wk

○ジンメル会議

Call for Papers

One hundred years ago in 1899, Georg Simmel published what has now been  translated as his Philosophy of Money. The book addresses the phenomenon of money, not from the point of view of classical or neo-classical theory,  but rather from a philosophical point of view -- yet there are many interesting insights for economists from this approach. Efforts are on the way to organize a conference digging more deeply into the significance of Simmel's work from a contemporary point of view.A conference will be held in Berlin on 8.9. and 10 October 1999 at the Berlin Business School (Fachhochschule fuer Wirtschaft), convened jointly by the Maastricht University and the Berlin Business School.

Please address your inquiries to: Prof. Dr. Juergen G. Backhaus
Maastricht University, AE
P.O. Box 616
6200 MD Maastricht
The Netherlands
tel: +31-43-3883636
fax: +31-43-3258440
email: s.roggen@algec.unimaas.nl

○進化経済学ヨーロッパ連合

European Association for Evolutionary Political Economy (EAEPE) 1999 Conferencem, 4-7 November, Prague, Czech Republic
Institutional History of Economics Research Area
For details contact  Esther-Mirjam Sent
CPNSS
London School of Economics
Houghton Street
London WC2A 2AE
UK
Tel: +44-171-955 6827
Fax: +44-171-955 6869
E-mail: sent.2@nd.edu
Web-site: http://www.nd.edu/~esent

Further information on the EAEPE 1999 conference can be found at: http://eaepe.tuwien.ac.at/conference.html
Further information on the research area is at: http://www.eh.net/ehnet/Archives/hes/nov-98/0011.html

○啓蒙についてのプロジェクト

THE "ENLIGHTENMENT PROJECT": WHAT IS IT? a panel to be held at the Twenty-Third Annual Conference of the Northeast American Society for Eighteenth-Century Studies, December 9-12, 1999

University of New Hampshire
Durham, New Hampshire
Recent discussions in the humanities and the social sciences regularly presume that there is something called the "Enlightenment Project" that needs to be redeemed, reconstructed, deconstructed, gotten back to, or gotten over. Yet those who invoke the "Enlightenment project" have not always been very precise as to what this project was supposed to involve or very forthcoming in their account of who was allegedly involved init.  In the meantime, at least some historians of the eighteenth century have expressed doubts about the existence of "the" Enlightenment and have instead suggested that there were a number of different enlightenments -- each, presumably, with its own projects.

Contac James Schmidt
University Professors Program
Boston University
745 Commonwealth Ave.
Boston, MA 02215

○進化経済学連合年次総会

THE ANNUAL MEETING OF THE ASSOCIATION FOR EVOLUTIONARY ECONOMICS

The next annual meeting of the Association for Evolutionary Economics will be held in conjunction with meetings of the Allied Social Sciences Association (ASSA) on January 7, 8, and 9, 2000 in Boston.

Contact yramstad@uri.edu.

○ヨーロッパ経済思想史学会第4回年次総会

Fourth Annual Conference of the European Society for the History of Economic Thought (ESHET)
25-27 February 2000 in Graz, Austria

The fourth annual conference of the EUROPEAN SOCIETY FOR THE HISTORY OF ECONOMIC THOUGHT will be held at the University of Graz, Austria, 25-27 February 2000. The conference will have both a thematic part and an open part. The theme will be: "Is there progress in economics?" Scholars who would like to attend and give a paper are asked to send a proposal and an abstract of not more than 500 words and full details of their affiliation by 31 August 1999, using preferably e-mail (or fax) to

E-mail: ESHET2000@kfunigraz.ac.at
Fax: ++43 316 351314
Postal address: ESHET 2000, Department of Economics, University of Graz,
Resowi-Zentrum F4, A-8010 Graz, Austria. Telephone: ++43 316 380
3444/3457/3461.

A scientific committee will screen the proposals. Notice of acceptance will be sent by 30 September 1999. The deadline for the submission of papers is 15 December 1999. Ph.D. Seminar, 23-24 February 2000

Prior to the conference there will be a two-day seminar in which Ph.D. students can present their work to leading experts in their field of research, get comments and suggestions, and meet and discuss with other postgraduates. Ph.D. students are, of course, invited to stay on for the conference.

Contact Bert.Mosselmans@vub.ac.be

○「価値理論」ミニ・ワークショップ

International Working Group on Value Theory

CALL FOR PAPERS

Year 2000 Value Theory Mini-Conference
Crystal City Hyatt Regency, March 24th- March 26th 2000

We invite you to the seventh "New Directions in Value/Price Theory" mini-conference, organized by the International Working Group on Value Theory (IWGVT), to be held as part of the Eastern Economic Association (EEA) conference. Papers relating to the IWGVT's areas of interest are welcome and proposals for complete panels will be considered.

The full call, and instructions for submission, are on our website at www.greenwich.ac.uk/~fa03/iwgvt.
We can be contacted at  Value.Theory@greenwich.ac.uk  for information or informal discussion.
Abstracts of individual papers or proposals for complete sessions are  welcome from May 1st onwards. Proposals for complete sessions should be made by August 1st 1999. The deadline for papers and accompanying material is November 1, 1999.

○HOPE会議

THE AGE OF ECONOMIC MEASUREMENT
HOPE Conference, 2000

Guest Editors: Judy L. Klein and Mary S. Morgan

March/April 2000

The History of Political Economy conference in the year 2000 will explore the origins of economic measurement and the historical links between such empirical observation and issues of public policy, changes in economic theory and academic practice. There are no geographical boundaries to our proposed exploration, but we imagine that most of the papers will concentrate on the time period from 1850 to 1950, which could well be labelled the "age of measurement in economics."

Contact
Judy L. Klein (at Department of Economics, Mary Baldwin College, Staunton, VA 24401, USA. Phone: 1-540-887-7053 Fax: 1-540-887-7137 email: jklein@mbc.edu) or  Mary Morgan (at Department of Economic History, London School of Economics, Houghton St., London WC2A 2AE, UK. Phone 44-171-955- 7081; Fax 44-171-955-7730; email: m.morgan@lse.ac.uk).

○2000年モリス会議

MORRIS 2000 CONFERENCE--University of Toronto, 22-25 June 2000

Following the centenary conference at Oxford in 1996, the William Morris Society is sponsoring the second quadrennial international conference to bring together scholars and students of Morris as an artist, writer, and socialist.  The conference is taking place 22-25 June 2000, at the University of Toronto, with accommodation at its downtown campus in the centre of the city.

Proposals for 20-25 minute papers on all aspects of Morris are welcomed. Proposals of 300-500 words and enquiries for further information should be mailed to David and Sheila Latham at 42 Belmont Street, Toronto, Ontario M5R 1P8, or e-mailed to <dlatham@yorku.ca>. The closing date for the submission of proposals is 30 September 1999.

○第27回ヒューム学会年次総会

Twenty-seventh Annual Hume Society Conference

College of William and Mary
Williamsburg, Virginia (USA)
July 24-29, 2000

The Hume Society is pleased to announce a call for papers for its twenty-seventh annual conference, to be held August 2-7, 2000 in Williamsburg, Virginia (USA).  The title of the conference is a "A Feast of Reason".

Papers should be no longer than thirty minutes in reading length, with self-references deleted for blind reviewing; the author's name should appear only on a front cover sheet. Papers may be in English, French, or German, but an abstract in English of up to 150 words is required for all papers.

Submissions must be postmarked by November 1, 1999. Send triplicate copies of both abstracts and papers to:
Professor Mikael M. Karlsson
Executive Secretary-Treasurer of the Hume Society
University of Iceland
Main Building IS-101
Reykjavik, Iceland
http://www.hi.is/~mike/hume.html
http://sun.soci.niu.edu/~phildept/Hume/

○マルクス主義再考第4回国際ガラ会議

RETHINKING MARXISM announces its fourth International Gala Conference

MARXISM 2000
21-24 September (Thursday-Sunday) 2000
University of Massachusetts at Amherst

PURPOSE:
With the new millennium upon us, the editors of RETHINKING MARXISM intend "Marxism 2000" to explore and engender fresh insights and struggles, and to (re)claim utopian visions and hopes for just and humane global alternatives. As Marxism's long first century draws to a close, we may reflect back on its many successes and unfortunate failures.
Contact
Stephen Cullenberg
Department of Economics
University of California
Riverside, CA 92521, USA
email: Stephen.Cullenberg@ucr.edu

(文責池田幸弘:情報収集にあたって,SHETのメーリングリストをフルに活用させて頂いた。情報提供者,ならびに関係各位にたいし深謝する次第である。)

(池田 幸弘)


弔辞
 
渡辺輝雄会員を悼む

 渡辺輝雄先生は1998年12月8日逝去されました。享年85歳でした。

 先生は1937年旧制神戸商業大学御卒業後,大倉高等商業学校で教鞭をとられ,戦後学制改革による同校の大学への昇格と共に,経済原論,経済学史担当の教授に就任されました。1949年東京経済大学発足時から,1984年定年退職までの間に,経済学部長,図書館長,学長(3期)の要職につかれる一方,経済学史の研究に精力的に取り組まれ,まずその成果を『創設者の経済学,ペティ,カンティロン,ケネー』の一書にまとめられました。1959年本業績に対し,京都大学により経済学博士の学位を授与されました。同書公刊後も,引き続いて,自らも論争の渦中に身を置かれた重農主義研究,とりわけケネー及びボードーの「経済表」についての精緻な研究を次々と発表され,この分野の研究の前進に大いに寄与されました。更に,先生の本学会への直接的貢献として,1958年「経済表」公刊200年を記念する学会企画としての『わが国における重農主義研究文献目録』(故坂田太郎会員との共編)の編纂があります。先生は御退職後も長年の御研究の仕上げのお仕事を進めておられましたが,卒然として急逝されましたことは,御自身にとってはもとより,斯学にとっても大変惜しまれる所であります。

 ここに慎んで哀悼の意を表し,御冥福をお祈りいたします。

(高山 満)


 
杉山忠平会員を悼む

 杉山忠平名誉会員は本年3月21日に東京西五反田の病院で78年の生涯を閉じられた。筋萎縮性側索硬化症という不治の難病に冒されて1年余りの闘病生活であった。1921年沼津市に生まれ,1944年東京商科大学を卒業後,日本・静岡・一橋・東京経済の各大学で教鞭をとられ静岡大学と東京経済大学の名誉教授であった。1978年11月から1981年3月まで本学会の代表幹事。経済思想史家としての広くて深い学殖は,卓越した語学力に支えられた原典主義にもとづき,重商主義から古典派,社会主義思想,シュンペーター,さらには明治期の経済思想にまで及んだ。学士院賞を受賞した『イギリス信用思想史研究』(1963年)を始め,『理性と革命の時代に生きて』(1974年),『明治啓蒙期の経済思想』(1986年)等はその代表作である。マンチェスター大学留学時代の師であったW.スタークの著作の翻訳や英国の大学での講義,国際学会での発表,英文論文集の編集,Origins of Economic Thought in Modern Japan(1994)の刊行,ローダーデールの蔵書の整理とWN注解の出版等で国際的にも活躍された。短歌の優れた鑑賞者やエッセイストとしての一面も忘れられない。本文をほぼ訳し終えた『国富論』新訳の中断が心残りだったに違いない。

(大森 郁夫)

編集後記
 

 『学会ニュース』第14号をお届けします。青山学院大学から事務局を引継ぎ,東北大学の事務局で出す第一号です。執筆していただいた各位に感謝します。事務局は,大村泉会員,本吉祥子会員と3人で構成していますが,現在大村会員が海外出張中ですので,本吉さんが私の研究室に週3回通って学会事務をこなしています。結構あるものです。前事務局あるいは歴代の事務局の方々のご苦労がしのばれます。二年間よろしくお願いいたします。
(馬渡 尚憲)
 今年の4月から学会の事務局の仕事をしております本吉です。事務局を引き継いだ時には膨大な資料を前にしてどうなることかと思いましたが,仕事に慣れない私を代表幹事が色々助けて下さり,何とかこなしております。学会ニュースについては,執筆者の方々に9割の原稿をメールで,しかも締め切り日までに出していただき助かりました。コンピュータを武器に何とかがんばります。
(本吉 祥子)

 
 
──────────────────────
『経済学史学会ニュース』第14号
1999年9月1日発行
経済学史学会 代表幹事 馬渡 尚憲
事務局 〒980-8576 仙台市青葉区川内
東北大学経済学部(馬渡研究室)
Tel: 022-217-6275
E-mail: mawatari@econ.tohoku.ac.jp
──────────────────────

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