経済学史学会ニュース
The Society for the History of Economic Thought Newsletter

(本吉 祥子作成)
第15号(2000年1月) ISSN 0919-0384




幹事会・総会報告
 
 1999年11月5日と11月6日に,熊本学園大学で幹事会と総会が行われました。報告事項や決定事項は以下の通りです。

 1. 幹事会では事務局から,『会員名簿』(1999),『学会ニュース』(14号),文部省による新しい科学研究費「研究成果公開促進費・学術定期刊行物」申請条件の説明会(10月8日開催),『学会ニュース』(15号),会員異動等について,会務報告がありました。

 2. 幹事会で11名の新入会員が認められ,本年度退会者数を差し引き会員数は851名となりました。(「会員異動」参照[Web版では省略])

 3. 幹事会で2000年度の第64回大会(50周年記念大会)について,開催期日が11月11日(土),11月12日(日)と決定されました。総会では開催校・一橋大学の大会準備委員会委員長,美濃口武雄会員からご挨拶がありました。

 4. 幹事会に北海道部会の発足大会(9月25日)について報告がありました。部会会則が設けられ、今後年2回開催されることになり,初代の幹事(事務局兼務)には佐々木憲介会員(北海道大学)が選ばれたということでした。(「部会活動」参照)

 5. 『年報』編集委員会,英文論集委員会,企画交流委員会,50周年記念事業各委員会から報告や提案がありました。竹本洋委員長から50周年記念講演会とシンポジュームについて提案があり,幹事会で承認されました。(「各委員会報告」参照)

 6. 日本学術会議,同経済理論研究連絡委員会,日本経済学会連合について報告がありました。(「各委員会報告」参照)

 7. 幹事会で田中敏弘会員を名誉会員に推薦することを決定し,総会で同会員を名誉会員とすることを決定しました。会則により今後は名誉会員の追加は行われません。

 8. 幹事会と総会で,日本学術会議会員の推薦人を,根岸隆,和田重司,星野彰男の3会員とし,本学会推薦の会員候補者を塩野谷祐一会員とすることを決定しました。

 9. 幹事会で常任幹事会提案の年報改革案について協議し,次のように39号(2001年度)から,年報を年2回発行すること等を決定し,これが総会に報告されました。(1)書誌(「海外文献情報」)は38号から廃止する。(2)39号から各1冊を現在より薄くし,年2回発行する。(3)定価をつけ,市販も行う。非会員の定期購読制も設ける。(4)編集委員会の体制と編集方法等を改める。(5)以上の(2)〜(4)についての具体案と非会員の論文投稿を認めることの可否,認めるとした場合には投稿料を徴収することの可否について,次回幹事会で協議する。(6)2000年度(『年報』38号)から,科学研究費の新しい申請条件にそって,「研究成果公開促進費・学術定期刊行物」の補助の申請をする。但し,第38号は現行の年1回発行方式で申請する。(7)英文誌については他の学会との連携・アジア諸国との連携を視野に入れ企画交流委員会で研究を開始する。

 10. 「再任を妨げないが,連続して3期を超えないものとする」(会則9条),「現幹事(任期1995年4月1日-1997年3月31日)は全員第1期在任中とみなす」(附則3項)という新しい規定で行われる次期幹事選挙で,現幹事32人中24-25名が被選挙権を失うために学会の円滑な運営のためには移行措置が必要であるという代表幹事からの提案について,引き続き幹事会で協議し,次のように決定しました。(1)附則3に次のような但し書きをつけるように,附則3を改正する。「ただし,2000年の幹事選挙時に3期目の幹事のうち1/2を2期目とみなす移行措置をとる。」(2)この該当者は抽選で決める。(3)内規10項「現代表幹事は次期のみ幹事に選出されうる」という規定は幹事3期目の代表幹事にも当てはまるものとする。

 このうち附則3項の改正は総会協議事項ですので,総会に諮られ,承認されました。




各委員会報告

○年報編集委員会
 

 1. 年報第38号の編集委員会は次のメンバーで構成されています。
 
上宮 正一郎(書評担当),坂口 正志(書評担当),高草木 光一(書評担当),竹永 進(特集・論文担当),野口 旭(特集・論文担当),平井 俊顕(特集・論文担当。編集委員長),渡辺 恵一(特集・論文担当)。


 2. 年報第38号で現在確定している事項は次の点です。

 「特集」は「私の経済学史研究――20世紀の学史研究をふりかえって――」(仮題)で16本を予定しております。「研究動向」は本号では予定しておりません。「書誌」は11月の幹事会で廃止が決定いたしております。

 3. 「公募論文」を下記の要領で募集いたします。多数のご応募をお待ちいたしております。

公募論文投稿規定

 4. 第39号からは年2回の発行にすることが11月の幹事会で決定しており,それに伴い年報のシステムも大幅に変わることになります。動向にご注目いただきたいと思います。

(平井 俊顕)


○大会組織委員会
 
 1. 経済学史学会創立50周年にあたる第64回大会は,2000年11月11・12日に一橋大学で開催されます。50周年記念の特別プログラムは,同準備委員会が準備中です。

 2. 第64回大会(2000年)から,大会報告希望の発送・回収を大会組織委員会がおこなうようになりました。従来,「報告希望・推薦」の葉書は,開催校宛に返送していましたが,開催校の負担を軽減し,実際的な事務効率化を達成するため,このように変更されました。なお,報告要旨を添えるなどの点は,従来とまったく変わりありません。

 なお,従来は往復葉書で応募を募っておりましたが,経費節約のため,今後,『学会ニュース』送付時に同封いたしますので,ご注意ください。(2000年度大会用は本号に同封

 3. 2000年度の大会組織委員会は,安藤隆穂,井上琢智(大会報告集小委員長),音無道宏,高 哲男(委員長),星野彰男,渡会勝義の6名で構成されます。

 4. 2001年度の大会では,フォーラムの開催が予定されております。論題については幾つか候補も挙がりつつありますが,最終決定は春の幹事会でなされますので,さらに積極的なご提案をお待ちしております。

(高 哲男)


○英文論集委員会
 
 第63回大会における幹事会において,スコットランド啓蒙と経済思想を主題とする英文論集第3集について,以下のような内容および執筆者名が了承されました。英文書名は未定ですが,The Scottish Enlightenment and the Rise of Political Economyというようなものになる見込みです。2002年の秋までに英米の出版社(現在交渉中)からの出版をめざしています。

英文論集第3集の構成と予定執筆者
 

(坂本 達哉)


○50周年記念事業関係
 
(1)辞典編集委員会

 原稿の執筆や修正および初校について,ご協力を得たおかげで『経済思想史事典』は,再校と索引の作成の段階に入っております。2脂コ旬校了3月末〜4月はじめ刊行の予定ですすんでおり,刊行も次第に目前に迫ってきました。すでに頒布の方法についても検討し,出版社との間で,510ページ前後,初版2000部,定価5900円程度,印税8%(予定)という話になっています。執筆者2割引,会員1割引,5冊以上申込者2割引という特典を設けるということです。編集委員会では,印税の扱いについて協議し,非会員には印税を払うこと,編集委員にはこれまで合宿等のための宿泊費を支給していないので,その一部にしかならないが,5万円に限って宿泊費を補填すること,これを超える印税はすべて学会の収入とすること等を決め,幹事会に諮り了承されました。編集委員は引き続き,安藤隆穂,出雲雅志,大村 泉,高 哲男,竹本 洋,田村信一,橋本昭一,藤井隆至,馬渡尚憲,渡会勝義の10名です。

(馬渡 尚憲)


(2)記念講演会委員会

 「記念講演会」および「記念シンポジウム」について

 第64回経済学史学会全国大会(2000年11月11・12日・一橋大学で開催予定)で催される学会創立50周年記念事業「記念講演会」および「記念シンポジウム」の概要が決まりました。
 

1. 記念講演会

 「経済学史学会の50年を回顧して」(仮題)  講演者 水田 洋

2. 記念シンポジウム

  「市場経済の理解と評価――経済学史研究の立場から――」(仮題)

<論点と報告者(問題提起者)>

a. 市場経済と国家    若森 章孝

b. 市場経済と制度    磯谷 明徳

c. 市場経済と不平等   深貝 保則

d. 市場経済と自然・環境 桂木 健次

司会者 八木 紀一郎・竹本 洋

 なお,2000年6月の幹事会にあわせて,プレ・シンポジウムをもてるよう準備しています。
(竹本 洋)


(3)データベース委員会

 経済学史・経済思想史文献データベースも企画段階から実際に構築する段階に移行しましたので,「小委員会」の「小」の名前をとり,科学研究費のデータベースの作成費に応募しました。たとえ採択されなくても,ある程度のものは自前でも構築しますので,ぜひともご協力ください。

 8月末にデータ提供の依頼を会員各位に差し上げましたが,現在のところ,協力していただいた会員はなお少数にとどまっています。データベース構築の作業は,本学会の書誌作成の伝統を現代化したもので,学界にとっての共有資産を構築するものです。どうぞ,この趣旨をご理解ください。

 前回のお願いでは書式やファイルについて細かいことを書きましたが,基本データがいただければ,形式を整えることは,委員会でもできます。とくに,すでに電子ファイルになっている著作目録のようなものがあれば,それをe-mailかフロッピーディスクでお送りいただければありがたく存じます。なお,このデータベースでは,タイトルとキーワードを英訳する計画です。ご自分で英語のタイトルとキーワードを付されない場合には,委員会で適宜英訳させていただきますので,あらかじめご了承ください。

 インターネットをご利用の方は,学会のホームページ(下記)にデータベースの案内とオンライン新規登録の窓口がありますので,ぜひごらんください。データが蓄積された段階で,ここに検索のページを作成する予定です。

http://society.cpm.ehime-u.ac.jp/shet/shetj.html

【基本データ】

  • 雑誌論文の場合:著者; 論文タイトル; 雑誌名; 雑誌巻号; 刊行年; pp.xx-xx
  • 書籍収録論文:著者; 論文タイトル; 編者; 書籍タイトル; 出版社: 出版地; 刊行年; pp.xx-xx
  • 単行本:著者; 書籍タイトル; 出版社: 出版地; 刊行年; ページ数(共著の場合は分担ページ)および上記の英訳。英語のキーワード。

  • 【送付先】

    (八木 紀一郎)


    ○日本学術会議報告
     
     日本学術会議は今年創立50周年の節目を迎え,10月28日に記念式典,特別記念講演会,記念祝賀会が行われ,関連して第7回アジア学術会議(10月28〜31日)も開催された。

     総会(10月27〜28日)で決定された事項として,次の4点が重要である。弟1は「我が国の大学等における研究環境の改善について」政府に「勧告」が行われた。これは,主として国立大学を念頭に置いているが,公立大学,私学も含め,特に研究用建物の劣悪な環境の改善を勧告したものである。

     第2と第3は,「声明」であり,「日本学術会議の位置づけに関する見解」と「日本学術会議の自己改革について」である。これまですでに報告してきたように,行政改革との関連で,学術会議が「総務省」の管轄に移り,「総合科学技術会議」でそのあり方が議論されることになったのに対して,学術会議自体がその位置づけについて見解を明らかにしたものであり,学術会議がこれまでどうりの役割を果たすことができるための声明である。同時に学術会議の自己改革についての見解と決意を示すものといえる。

     第4は「国立大学の独立行政法人化問題に関する日本学術会議会長談話」である。これは,もしその設置形態を変更するのであれば,その決定に際して,国立大学を始め我が国の代表的学術機関の意見を十分聞いた上,慎重に行い,拙速をさけるべきことを主張したものである。

     もう一つは,第3部で出た問題で,科研費審査に関連して,現在「分科」の下に「細目」がないが,これは第3部だけであり,この際「細目」をもうけることを検討してはということになった。これは今後研連委で取り上げられることになる。

    (田中 敏弘)

    【参考:日本学術会議



    ○日本学術会議経済理論研究連絡委員会
     

     1. 経済学系大学院問題に関するシンポジウム記録集を関係各学会などに配布することとした。

     2. 平成12年度代表派遣会議および代表派遣候補者の推薦について,その順位を決めた。

     3. 科学研究費補助金の分科「経済理論」の細目の分割について検討した結果,従来の分科の細目として「経済理論」と「経済学史」の二つに分割する方向で第3部の他の研連と協議することとした。

    (星野 彰男)

    【参考:日本学術会議



    ○日本経済学会連合報告
     
     1999年度第2回評議員会が10月25日早稲田大学で開かれ次の事項が了承ないし協議,決定された。

     1. 本年度第2次国際会議派遣補助(日本経済学会からシンガポールへ。20万円)

     2. 本年度第2次外国人学者招聘補助(組織学会へアメリカから。15万円)

     3. 本年度第2次学会会合費補助(経営史学会,経済地理学会,日本保険学会へ各5万円)

     4. 『英文年報』第19号刊行報告,同第20号編集経過報告。

     5. 平成11年度会計中間報告,平成11年度予算案。平成12年度事業計画,従来どおり。

     6. 日本管理会計学会新規加盟が承認され学会連合は52学会になる。経営学史学会,国際ビジネス研究学会,アジア経営学会の加盟手続きを進める。

     学会連合創立50周年記念事業として講演会(2000年5月),シンポジウムなどを開催する。費用は特別事業運営基金から引き当てる。

    (和田 重司)




    会員異動(詳細は省略)
     1. 退会者(以下略)

     2. 新入会員

    [会員数]846名(1999年6月の会員数)+11名(11月の新入会員数)−6名(11月の本年退会者数)=851名(1999年11月5日会員数)


     3. 住所等変更 7月20日〜12月20日(以下略)

     4. 『経済学史学会会員名簿(1999)』の訂正(お詫びして訂正します)(以下略)

     5. 会員メール・アドレス

    『経済学史学会会員名簿(20001)』から,各会員の申し出により会員のメール・アドレスを記載することになっています。以下は第63回大会(熊本学園大学)の出欠葉書で公表可として回答のあったメール・アドレスです。先行的に掲載します。誤りについてはご連絡下さい。(以下略)




    部会活動

    北海道部会過去の部会活動
     



     
    森下 宏美「G. P. スクロープの救貧法論とマルサス批判」

                    
     G. J. P.スクロープ (George Julius Poulett Scrope,1797-1876)は,1831年から33年までの間,『クォーターリー・レヴュー』における経済関係のレヴュアーとして活躍した人物である。彼はまた,国会議員をつとめるかたわら,自由貿易や移民問題,救貧法の改革やアイルランドにおける貧困問題などに関する膨大な数のパンフレットを著している。主著は,1833年の『経済学原理』(第2版,1873年)である。

     スクロープは,救貧法改革論議が高まるなかで,貧困の原因を,政府による経済的諸資源の誤った利用と権力者や富者による社会の富の不当な強奪とに求める立場から,マルサス人口論批判を展開するとともに,エリザベス救貧法の理念の回復を唱えている。

     スクロープは,人口と食糧の関係についてのマルサスの見解を否定し,むしろその逆であることを強調する。そのうえで彼は,人口原理の有害性を,とりわけ貧民の救済において富者と政府が果たすべき義務を免除することの誤りを指摘している。それは=Cu貧民の被救済権 (right of the poor to relief)」を唱えるとともに,「最大の生産ともっとも公正な分配を保証するうえで必要不可欠な自然権の原理」にもとづく統治の必要性を説く彼の主張と結びついている。

     また彼は,貧民救済の具体的方策として,ある種の保険基金制度の設立も提唱している。彼の唱える経済理論はきわめて調和論的であるが,それゆえに,政府の誤った政策を批判する武器にもなっている。

     本報告は,スクロープのこうした主張を紹介するとともに,彼の経済思想を,彼が「ハイパーエコノミスト」と呼んだマカロックらの経済学と,同じく彼が批判したホジスキンらリカードウ派社会主義者の議論とのあいだに位置づけて,その意義を考えるとともに,マルサス人口論争の一断面を明らかにしようとしたものである。
     


    田村 信一「ゾンバルト『近代資本主義』第2版(1916-27)の大改訂」
     

     ゾンバルトは1902年の『近代資本主義』初版の上梓によってドイツの社会科学に大きなセンセーションを引き起こした。初版そのものの内容についてはすでに紹介したので,第2版の大改訂に至るプロセスと改訂の内容を大まかに検討することが本報告の課題である。

     初版に対する同時代人の多くの批判の中でゾンバルトが影響を受けたのは,シュモラーとヴェーバーの見解であった。ゾンバルトは1911年以降,改訂のための準備的著作を次々と公刊したが,とりわけ『ブルジョワ』(1913)における資本主義的精神の再定義は彼らに対する応答の結果である。すなわち彼は資本主義的精神を企業精神と市民精神に分解し,前者を国家指導者と同一の権力欲・征服欲に還元することによって企業者としての国家の経済的意義を高く評価し(シュモラーへの譲歩),他方市民精神を宗教的影響の産物と理解することでヴェーバーの批判を部分的に受け入れた。

     こうした観点から改訂された第2版は,初版の資本主義発展に対する楽観的展望を反省し,ロマン主義的なペシミズムに色濃く支配されている。それは手工業経済から資本主義への発展という基本線を維持しつつ,それらに先行する農業的自給経済の叙述の登場と高い評価に,さらに初期資本主義の技術の「有機的性格」による初期資本主義の限界と危機の強調にはっきり表れている。しかしそこから脱出した「高度資本主義時代」もまたその発展の限界に突き当たることになる。そこでは資本主義は「支配的」形態になるが,「前資本主義的」農業・手工業を完全に駆逐することはできない。その論拠となったのは,マルクスを批判した独自の経営「集中論」であったが,その根底には経済の機械化・物象化から「人間の魂」を救いだそうとするゾンバルトの「近代」批判が存在した。


    関東部会過去の部会活動
     



     
    野田 邦彦「初期J. S. ミルの社会改革思想における教育の意義」

     
     J. S.ミルは,17歳で当時の論壇に頭角を現わした早熟な思想家である。しかし,従来の研究では,『論理学体系』(1843)や『経済学原理』(1848)以降が主な対象とされ,初期の業績に対する研究は,あまり行われて来なかった。また,ミルは社会改革における教育,即ち人間の内的陶冶を生涯重視し続けており,その萌芽は,ミルが論壇に登場した1820年代に遡る。そこで,本報告では,2つの演説草稿,「知識の有用性」(1823)と「完成可能性」(1828)をもとに,ミルの社会改革思想における教育の意義について検討した。

     これら2つの草稿に共通する問題意識は,英国教会の聖職者,貴族,国王等,当時の特権階級の特殊利益,ミルの言う「悪辣な利益」(sinister interest)の廃止にある。ミルは,「悪辣な利益」が,民衆の物心両面の向上を妨げていると指摘し,その克服に向けた民衆への知的・道徳的教育を普及を唱える。     

     だが,ミルの主張は,1826年の「精神の危機」を境に,微妙に変化する。「知識の有用性」では道徳的改善が知的・経済的条件に依存していたが,「完成可能性」では道徳的改善をそれらの条件から切り離す。即ち,富も知識もない民衆,殊に長時間労働に心身共に疲弊した労働者でさえも,幼年期の道徳教育と成人期の社交,世論による道徳的改善の可能性に道を開く。


    森村 敏己「フェヌロンの経済思想」
     

     本報告では,ルイ14世時代を代表する著述家のひとりであるフェヌロンを取り上げて,彼の経済思想の輪郭を描いてみたい。対象とする作品は,もっとも多くの読者を獲得し,結果的には彼の代表作となった『テレマックの冒険』と,死後に初めて公刊された『統治改革論』である。いずれの作品もフェヌロンが師傅を務めた王孫ブルゴーニュ公と深い関わりがある。前者は十代前半の幼い公にあるべき国王のあり方を示すため,後者は王太子の死を受けて,ブルゴーニュ公が王位継承者となり,即位が近い将来の現実となった際に,実際に行うべき統治改革プランをまとめたものである。

     真の豊かさとは農業がもたらす食料をはじめとする生活必需品であるとの立場から,フェヌロンが理想としていたのは基本的には農業国家であったが,『テレマックの冒険』において主人公は王が身につけておくべき統治の心得として,農業政策ばかりでなく,商業的繁栄の方法も学ぶことになる。どちらの部門においても,質素・勤勉という美徳が豊かさの基礎であることに変わりはないが,商業においては商業の自由という原則と,奢侈の排除という要求の間でフェヌロンの態度は揺れ動いているように見える。同様の「揺れ」は『統治改革論』においてはより鮮明に現れる。ここでは,道徳的観点から商業への規制が求められる一方で,『テレマックの冒険』では禁じられていた奢侈品の製造,貿易が経済的発展への要求から容認されている。

     こうした一見矛盾に見える態度は,キリスト教道徳に基づく国家の再建というフェヌロンの基本姿勢と,経済の重要性に関する彼の現実認識の葛藤として理解すべきものであろう。『テレマックの冒険』においてユートピアとして描かれる国ベティックには商業は存在しないが,近い将来、王位に就き,フランス王国を統治すべきブルゴーニュ公に,現実の経済への配慮をいっさい欠いた教えを説くことはフェヌロンにはできなかったのである。


    MARCO E. L. GUIDI, Towards a History of Emulation: Hobbes, Smith and Bentham
     

     The paper suggests that the notion of emulation has played a major theoretical role in the early stages of the historical development of political economy. This notion has been for a certain period even more important than that of competition, which eventually became dominating. The paper compares three authors on this issue: Thomas Hobbes, Adam Smith, and Jeremy Bentham. The guideline of this inquiry is the hypothesis that there is a significant evolution in the meaning of emulation: Hobbes intends it as a destructive strategy oriented by the search for honour and precedence, and sees no other solution than a political appeasement of this asocial passion. Smith's definition of emulation, although with different accents, is not far from Hobbes's. However Smith believes that society provides spontaneous mechanisms that moderate emulation and transform it in a powerful instrument of economic growth. Lastly, Bentham re-defines emulation as a particular type of competition, aiming at conquering scarce positional goods. According to Bentham reputation is an important end in itself, but the material advantages indirectly occasioned by it are possibly the ultimate goals of those who pursue it. Thus, while emulation - marrying with pecuniary interest - is transformed in a bourgeois and sociable virtue, its peculiar advantages as an economic incentive and as a means to ensure the junction of interest and duty become more evident.


    西南部会過去の部会活動




     
    遠藤 哲広「リカードウ新機械論について」

                   
     リカードウは『原理』第3版において機械論を展開し,機械の導入が労働者階級にとって有害でありうることを認めた。本報告は,その論旨をリカードウに内在して理解することにつとめた。リカードウの機械論における方法は,一産業部門における機械の導入(資本総額一定のもと,流動資本の固定資本への転化)による失業が,食物および必需品の物的数量の増減(実質賃金一定のもと,賃金バスケットの数の増減)によって,社会総体としてはすべて吸収されるか,あるいは残存するかというものであった,と報告者は考えている。

     一産業部門における機械の導入は,機械導入後の物的数量が不変あるいは増大であるならば,流動資本減少分だけ所得・消費が減少しているから(機械からの価値移転ゼロ),この部門の需要者に消費・貯蓄(=蓄積)資力の増大=需要の増大をもたらすはずである。このとき,需要減少部門から需要増大部門へ資本移動が生まれるであろう。それゆえ,需要減少部門で生まれた失業は需要増大部門で吸収されるはずである。もっとも,この二つの部門で資本構成が違えば,失業者のすべてを即座に需要増大部門で吸収することはできず,需要の増大は原材料や機械への需要の増大となるだろうが,それは波及して原材料や機械を作る部門における労働需要の増大となるので,社会総体としてみれば,失業者はすべて吸収されるだろう。ゆえに,食物および必需品の物的数量は不変であろう。

     ところが,機械導入後の物的数量が減少し,この部門の商品(必需品の原材料)が価格に対して非弾力的であるならば,食物および必需品部門から資本と労働の移動があるであろう。このとき,機械の導入による需要の増大は,消費資力の増大―移動した資本(1+利潤率)となり,需要の減少のほうが需要の増大よりも大きくなり,失業者は残存するであろう。



     
    柳田 芳伸「N.W.シーニョアの福利論――マルサスとの対比において――」                  

     本報告では,ジェボンズ,セリグマン,シュンペーターが異口同音に賞賛してきた経済学者としてのシーニョアではなく,シーニョア自らが経済学の対象外であるとした「労働者階級の福利 (welfare)」の実現,増進に尽力したシーニョアの足跡をマルサスの所論と比較しながら一顧することをその課題とした。

     まずシーニョアが『人口二講』(1829)で「社会において地位 (rank) を保持するのに必要である諸物」と定義した品位品 (decencies) に注目し,シーニョアが品位品こそ人口に対する深慮的妨げの作用を引き起こす誘引であると述べている点を紹介した。またシーニョアがその品位品を保有し,「享楽の標準」を向上させつつ,深慮的習慣を身につけていける貧民階級をジェントルマンが労働者に限定していたと主張した。そしてシーニョアが用いた「享楽の標準」とマルサスの造語である「愉楽の標準」との類似性を指摘し,あわせてシーニョアの貧民階級の階層分化(ジェントルマン労働者と被救恤民とへの)論がマルサスの中流階級肥大論,とりもなおさず勤労階級創出論ときわめて似通っていると述べた。

     次いで,マルサルもシーニョアも等しく下層階級の多数を諸明徳を修養した勤労階級またはジェントルマン労働者に陶冶せんとする見地から賃金補助制の廃止を唱えたけれども,被救恤民を家族分離でワークハウスへ収容することによって院外の独立労働者格差をつけ,劣等処遇を徹底化しようとしたのはシーニョアの創見であると論じた。

     最後に,シーニョアが知能,熟練等を明確に「非物質的資本」ないしは「精神的資本」と把握し,たとえば熟練労働者の高賃金を「節欲の報酬」であると論じて,節欲説に立脚した「人的 (personal) 資本」論をマーシャルに先駆けて展開していたこと,またそれに基づいて貧民階級全員への民衆教育の普及の必要を説き,ケイ・シャトルワースの地区学校案の推進を切望していたと報告した。



     
    川島 信義「J. ステュアート利子論の二重構造
     

     ステュアートが,その大著『政治経済学原理の研究』において,自給自足の経済から脱却して,剰余を生産して交換する,国民的な「自由で商業的な」社会育成のあり方いかんを固有に追究し,その育成のために「事前的」に供給されるべき「流通必要貨幣量」の決定要因を,「富者の消費欲望」と「貧者の勤労意欲」とに見出したことは周知のとおりである。その「富者」に消費基金を供給すべき「貸付け可能資金」の形成を,彼は,別して,「外国貿易」段階から「国内商業」段階への移行期に顕著にみられる貿易商人の「金利生活者」への転換,「貨幣階級」の形成に見出した。いわば,「利殖的金融流通」がここに形成される。利子は,ここでは,「無償で」貸借される「貨幣の価格」としてあらわれる。

     さて,この「商業的な」社会には,彼によれば,大別して「利益をえるために借り入れる階級」,すなわち「商業階級」と「浪費するために借り入れる階級」,すなわち「富者」とが存在する。支払われる利子は,前者はその利潤によって限界を画されており,後者は,その限界がなく,高利貸のえじきとなりうる。

     「私的信用にもとづく流通の銀行」が,この「富者」にその土地を担保に「銀行券」を発行し,消費資金を供給する。この流通が,この「商業的な」社会における「一大国民的流通」,いわば「基礎的金融流通」を形成する。「富者」の借り入れ需要は,いまや「貨幣市場における競争」からまるごと削除され,金融流通は二重化する。ここでは,流通しない土地が,貨幣と同様に流通する「銀行券」と,すなわち,「等価物」が「等価物」と,交換される。利子は,ここでは「銀行券」のもつ「流通上の利便性」の「価格」としてあらわれる。

     ステュアート利子論は,その金融流通の二重化とともに,二重の構造をとって現れている点に,まず十分な注意が払われなければならない。


    丸山 武志「オウエンのユートピアと共生社会」
     

     本報告は拙著『オウエンのユーとビアと共生社会』を紹介しながら,その第六章「オウエンとニュー・ハーモニー(II)――共同村実験の失敗――」を論じるものである。後者の共同村実験の失敗を論じる前に,なぜアメリカの辺境地でオウエンが共同村実験に取り組んだのかという謎を解明し,本題に入っていった。かれは,ニュー・ラナーク工場村では宗教的なランカスター教育をおしつけられたことなどのために,それらを嫌い,その共同村実験の場所をイギリス国内で探したが,資金不足などから,アメリカで実験をおこなうことにした。アメリカは,古い習慣や束縛のない政治的に自由な新しい国で,何よりもオウエンの手持ちの資金で実験が十二分におこなえ,ラッピストなどの宗教セクトが平等の共同体の運営で成功を勝ち取っている国であるので,オウエンはニュー・ハーモニーで共同村実験が成功することを夢み,その舞台を求めた。

     本題の第六章は,その実験の経過とともに,協同村実験が失敗に終わった原因を解明している。ニュー・ハーモニー実験は,本格的な平等の共同体を建設する前に準備社会を周到に用意しようとしていたとはいえ,理想を共有する住民を選抜することなく,資本主義的で利己的な人間が大勢参加したために,また準備が整っていないにもかかわらず,オウエンの指導により1年後に本格的な平等社会に突入したために,その失敗を促進していった。そこは,何よりも生産する物より消費する物が多く,経済的にうまく運営されることがなく,オウエンの資金に依存するばかりであったので,必然的に失敗せざるをえなかった。上述の理由のほかに,オウエンの宗教批判や強力な指導力のなさやオウエンとマクルアの教育をめぐる仲違いなどが,協同村実験の失敗を加速させた。とはいえ,オウエンの協同村実験への信念は変わることがなかった。

     さらに,ニュー・ハーモニーは理想社会を実現する試みがいかに大事か,つまりユートピアの追求なくして社会改革がありえないことを人類に訴えている。



    国際学会

    参加報告

     
    ○History of Economics Society(アメリカ経済学史学会)第26回大会

     1999年度の大会は6月25日から28日までノースカロライナ大学(グリーンズボロ)で開催された。参加者は場所の関係でやや少なめだったが,それでも約22カ国から150名ほどのの参加があった。

     日本からは塩野谷,深貝,保住,田中(学術会議派遣)の4名が参加した。深貝会員がベンサム,保住会員がヒルファーディングについて研究報告をされた。ペイパーは全体で118ほどあり,それにラウンドテーブルが2つ,ホランダーのマルサスに関する特別講演,コランダーの会長講演などが行われた。全体として,コーツ,サムエルズ,ラザフォード,モスなどの活躍が相変わらず目立った。特にコーツが司会者となったラウンドテーブル 'The Progress of Heterodox Economics' はコーツのリードもあって盛り上りがあり,興味あるセッションとなった。

     コランダーの会長講演の論題は,'The Death of Neoclassical Economics'という実に魅力的なものだった。なかなか歯切れのいい内容だったが,これまで多くの批判を受けてきたいわゆる 'Neoclassical Economics'は,修正・発展させられてきており,現代の正統派経済学はもはや古い「新古典派経済学」ではないと言う意味で,「新古典派経済学は死んだ」に過ぎないと言う主張であり,期待はずれという感想が多く聞かれた。

     バンケットの後,ホランダー教授がその古典派経済学――特にスミス,リカードウ,ミル,マルサスーの研究により学会の distinguished fellow として表彰された。また今年もアメリカ経済学史研究の優れた博士論文に対して与えられるドーフマン賞が与えられた。

     本年2000年の大会は6月30日から7月3日にかけてカナダ,ヴァンクーヴァーのブリティッシュ・コロンビア大学で開催される。日本からの参加・報告者がもっと増えることが強く望まれる。

    (田中 敏弘)


     ○History of Economic Thought Conference(1999年度イギリス経済思想史学会)

     本学会は1999年9月7日(火)〜9日(木)に,グラスゴー・カレドニアン大学で行われた。8つの報告と約40人の参加者(内7人の日本人)という規模だった。Blaug,C. Black,Coats,Skinner,Dow夫妻の各氏も参加した。報告を列挙しておく(題名は意訳改変)。Harcourt教授(ケンブリッジ)の「50年間ケインジアンとして」(引退記念講演)。Oslington博士(オーストラリア)の「Henry Newmanの方法論・倫理学:Seniorとの交流」。Rotheim教授(アメリカ)の「ピグーと失業問題」。Warke博士(シェフィールド)の「ベンサムの最大幸福原理と決定的選択」。Gee博士の「戦間期産業問題におけるAlexander Bowie」。Chick教授(ユニバーシティカレッジ)の「Karl Niebylの方法論と貨幣理論」。Keaney氏(グラズゴーカレドニアン)の「国家と社会:Louis Horowizの政治社会学」(Comim氏「ケインズまでの経済学の常識観」の差し替え)。Fontana博士(リード)の「ケインズの哲学:貨幣と選択の非中立性」。宿舎は大学内の学生寮であり,清潔で安い(参加費を含めて135ポンド,2泊2夕食付き)。晩餐の席でO'Brien教授の引退スピーチがあり,続いて論文集(出席者に無料配布)From Classical Economics to the Theory of the Firm, EE, 1999の編者であるBackhouse教授がこれまでの業績を讃えた。3出版社の人も晩餐に参加しており、本会も模倣すべきと思われる(陳列本は50-15%引き)。全体的な印象では,相変わらず家庭的で紳士的な応答が続いていたものの,あえてマイナス点を挙げれば,マイナーな人物を取り上げる傾向があったこと,発表の技術が非英語圏には不親切なこと(論文はおろかレジュメすらない報告も多い),がある。個人的には,イギリス戦間期に活躍したBowieに関する報告に興味を持った。詳細:http:www.ecn.bris.ac.uk/het/1999/welcome.htm

    (小峯 敦)
    ○History of Economic Thought Society of Australia(オーストラリア経済学史学会)

     オーストラリア経済学史学会の年次大会は,1999年7月14日から16日にかけて,CanberraにあるAustralian National Universityで開催された。大会参加者数30名ほどと小規模(日本からは有江,若田部が報告参加)ながらも,マーシャルの新しい伝記で著名なPeter Groenewegen,マルサス研究のJohn Pullen,ジェヴォンズ研究のMichael White,マルクス経済学やポスト・ケインジアンの歴史研究のJohn E. King,オーストリア学派研究のAnthony Endresなどが顔を揃え,しかも平行セッションをおかない全員参加型大会のため,討議はかなり充実していた。また,滞豪中のDuke University教授Roy Weintraubが,この学会恒例である招待講演や討論を通じて,経済学史は純粋に歴史であって経済学に色気を出してはいけないという,いつもながらthought-provokingな主張を繰り返していたのも印象的であった。さて,この学会の特徴は内容面でもイギリスの伝統を色濃く残しているところにあり,その研究関心は大きく分けてスラッファ的古典派解釈,ケインズ研究,オーストラリア経済学史の三本柱に分かれるといえる。その中でも今回注目されたのはオーストラリアへのケインズ経済学導入史研究である。日本人にはなじみのない領域ではあるが,公私にわたる各種文書を丹念に発掘しながら実際の政策決定過程へのケインズ経済学の浸透を検証して行こうとする研究は,この分野の大きな可能性を示すものであった。来年は2000年7月にSydneyで開催される予定である。実質的な討議を期待する方々にはぜひとも参加を勧めたい。

    (若田部 昌澄)
    ○Heilbronn Symposium in Economics and the Social Sciences, June 25-27, 1999(第12回ハイルブロン経済学・社会科学シンポジウム)

     シュモラーゆかりの地であるハイルブロンで行われるこのシンポジウムも今年で12回を数える。本年は社会科学における数学の利用,とくにドイツにおける数理的経済学の伝統という論題で,シンポがもたれた。参加者の国籍は,ドイツ,オランダ,ハンガリー,ポルトガル,ベルギー,アメリカ等々多彩であり,日本からは私が出席した。このシンポは,主催者ユルゲン・バックハウスをはじめとするいくにんかのコア・メンバーと,毎年論題によって集まってくる浮動的なメンバーから成り立っているように見受けられる。ピーター・セン,ヴォルフガング・ドレヒシュラーはコア・メンバーだといってよいであろう。私はこのシンポでかれらの顔をみなかったことはない。ソンバルトの訳者で知られる金森誠也氏もこのシンポの常連である。コア・メンバーの存在は,このシンポにそれなりの伝統を与えているように思われる。私自身は参加は三度目,そして報告は二度目である。今回は,「ハインリッヒ・ゴッセン,無視された数理経済学者の影響史」と題して報告したが,コメンテーターのゲリット・マイヤーから,まずはゴッセンそれ自体の研究を優先させるべきではないか,と厳しい,しかしながらまったくもっともな批判をもらった。シンポで読まれた論文のなかでは,とくにバックハウス夫人のラウンハルトについての報告,そしてベルト・モーゼルマンズのマンゴルトについての報告が優れていたように思われる。来年はシュンペーターについてのシンポが予定されている。参加希望者は,上記のバックハウス氏に詳細を問い合わせられたい。             

    (池田 幸弘)
    ○Workshop: History of Evolutionary Thought in Economics(経済学における進化思想史ワークショップ)

     8月26-27日にイエナにあるマックス・プランク経済体制研究所で,この研究所の「進化経済学部門」のウルリッヒ・ヴィットによって,上記題目のワークショップが開催された。組織にあたっては,オランダのマーストリヒト大学のユルゲン・バックハウスが協力した。提出されたペーパーは11本,参加者はみなで30人という小規模な会合だったが,そのすぐあとの11月には我が学会の熊本大会でも同様なテーマでフォーラムがもたれたのだから,興味をもつ向きもあるだろう。

     このワークショップのペーパーは,経済思想史的な議論をするグループと,進化経済学の方法や中間総括を論じるグループの二つに大別された。前者では,シュモラー,マルクス,ホブソン,アドルフ・ワグナー,それとヴィーザー(筆者)がとりあげられたが,水準はあまり高いとは思えなかった。それに対して,後者のグループのペーパーには新味が感じられた。ヴィットはハイエクの,エスベン・アンデルセンはシュンペーターの理論のこれまで知られていなかった側面を提示し,アントニオ・カラファティ,スタファン・フルテンは「経路依存性」や「ポピュレーション概念」などの進化的経済学の重要な概念を回顧的にふりかえった。

     討論に参加したドクトラントの一人が,「なんでも進化的というのは問題だ」とこぼすような傾向もあったし,また両グループの議論がまだ十分に架橋されていない印象もあったが,学史研究者と理論研究者が,同じ席についたことを喜ぶべきであろう。

    (八木 紀一郎)
    ○International Karl Polanyi Conference;The Karl Polanyi Institute of Political Economy(第7回カール・ポランニー・コンファレンス)

     「第7回国際カール・ポランニー・コンファレンス」が,1999年5月26-28日,フランス,リヨンで開催された。当初,第7回コンファレンスは,東京で開かれることになっていた。そのため,すでに,『経済セミナー』1998年4月号より1999年2月号にかけて,丸山真人,P. メドウ,室田武,佐藤光,春日直樹,松田凡,関根友彦,柳田香織,若森みどりの各氏が担当して「カール・ポランニー再発見」なるリレー連載が掲載された。

     だが,日本側の開催準備が滞る中で,リヨン大学の「オーギュスト・レオン・ワルラス・センター」が中心となって,国際コンファレンスを開催する企画が急遽まとまり,実現することになった。そうした経緯もあって,今回のコンファレンスには,日本からの出席者も多数にのぼったし,報告も多かった。丸山真人,渋谷博,立岩寿一,八坂雅充各氏による「移行期にある日本福祉国家体制――アメリカ化と市場志向的規制緩和の圧力」という独立のセッションがもたれたほか,関根友彦,若森みどり,筆者らがプレゼンテーションを行った。このコンファレンスは,「ヒューマン・ニーズ再考」を共通テーマとしつつ,経済思想へのポランニーの貢献,ポランニーの遺産,交換と互酬,連帯と社会,ソーシャルネットワーク・アソシアシオン・非公式経済,ニーズの政治経済学,ニーズ・承認・市民権,進化経済学と経済社会学,福祉改革,国家の再検討,貨幣とインフレの理論,日本の金融ビッグバンの限界,ポスト自由主義世界の構図,現代世界危機の分析が取り上げられた。

     中でも,フランス側の出席者の問題提起は熱意がこもっていて,殊のほか「互酬性」が合言葉になっていた。19世紀フランスの絹工業の中心地であったリヨンには,フーリエやプルードンも住んだことがある。そして,1820年代以降リヨンで結成された労働者の相互主義的組織が,彼らの思想とつながりをもっているといわれる。そうした歴史を背負って,リヨンで国際ポランニー・コンファレンスが開催された意義は大きい。

    (杉浦克己)

    開催予定
     

    ○経済学と文学(全米比較文学学会)

     The following call for papers is for a seminar that will be submitted for inclusion in the program of the annual meeting of the American Comparative Literature Association (ACLA) to be held at Yale University, February 25-27, 2000. The overall theme of the conference is "Interdisciplinary studies: in the middle, across, or in between?" For more information on the Conference, consult its web page at http://www.yale.edu/complit/acla2000.htm

    ○欧州経済学史会議

    Sixth Annual European Conference on the History of Economics ECHE 2000
    University of Amsterdam
    20-22 April 2000

    CALL FOR PAPERS

    Changing Instruments in Economics

    While the history of economics has traditionally tended to focus on theories and ideas - "economic thought" - historians of economics are increasingly approaching their subject from different angles. One such angle, inspired by recent work in the history and sociology of science, involves the consideration of those instruments used in the construction of economic theory and the pursuit of applied economic research. Paper proposals of around 1000 words should clearly indicate the contribution of the paper to the theme of the conference.

    Contact:
    Marcel Boumans, University of Amsterdam, Roetersstraat 11, 1018 WB
    Amsterdam, The Netherlands. e-mail: boumans@fee.uva.nl

    ○全米経済学史学会(HES)

    History of Economics Society

    The twenty-seventh annual meeting of the History of Economics Society will be held June 30-July 3 at the University of British Columbia, Vancouver,B.C., Canada. All persons wishing to present a paper or organize a complete session should submit an abstract of 200 words or less for a paper or an abstract of 400 words or less for a complete session by February 15, 2000 to the President-Elect, John Davis.

    Proposals on all aspects of history of economic thought and methodology are invited. A special issue of the Journal of the History of Economic Thought will give preference to papers on the conference theme, "Historiography, the methodology of the history of economic thought."

    Proposals may be submitted by:
    HES website:
    http://www.eh.net/HisEcSoc/Conferences/2000.shtml
    E-mail: davis@mail.busadm.mu.edu
    Fax: to John Davis at 414-288-5757
    Mail to: John Davis
    David Straz Hall
    PO Box 1881
    Marquette University
    Milwaukee, WI 53201-1881

    ○経済学方法論国際ネットワーク

    The 2000 meetings of the International Network for Economic Method will be held on 29 June 2000 at the University of British Columbia, Vancouver, Canada. Abstracts of papers (no more than 200 words) or proposals for sessions on any aspect of economic methodology, the philosophy or sociology of science applied to economics, or other areas of interest to economic methodologists should be sent before 1 April 2000 to Kevin D. Hoover, Chair, INEM, Department of Economics, University of California, Davis, CA 95616-8578 or, by e-mail, to kdhoover@ucdavis.edu or, fax, (530) 752-9382. Papers presented at the conference may also be submitted to the Journal of Economic Methodology.

    ○国際マクロ経済学の歴史

    Flexible Exchange Rates, the Balance of Payments, International Adjustment, and Capital Mobility

    The Development of the Open Economy Macromodel in Comparative and Historical Perspective

    An International Conference to be held in 2001.(Decisions about location and dates will be made in October 1999 and announced on the HES list)

    Historians of Economic Thought are invited to submit proposals for papers in the following areas to Warren Young at: youngw@mail.biu.ac.il

    Comparative and Historical Perspective- the 1950s "Flexible Rates Group": a history- the Machlup "Bellagio Group" and its influence- US vs British Keynesians on exchange rates and adjustment- International and National experiences with Flexible Rates: case studies and their impact on theory and policy- Flexible rates vs Bretton Woods: Panacea or Pyrrhic victory?- the "Monetary Approach" to the Balance of Payments vs the "Keynesian Approach": separate or interrelated histories?- Adjustment Policies "beyond" the exchange rate: are Flexible Rates enough?- the development of the Closed and "Internationalized" IS-LM model in Comparative perspective" "Cross-Fertilization" or "Independent Discovery"?

    ○制度経済思想協会

    ASSOCIATION FOR INSTITUTIONAL THOUGHT (AFIT)

    The annual meeting of AFIT will be held April 26 to 29, 2000

    Town and Country Resort and Convention Center

    San Diego, California, in Conjunction with the 42nd annual conference of the Western Social Science Association (WSSA)

    The year 2000 marks an importing milestone in the history of economics (and the human race), the commencement of the second century of Institutional Economics. AFIT, a national organization dedicated to advancing the discipline of economics from an Institutional Economics perspective, thus will have as its primary theme for this years conference: 1) accessing the first hundred years of Institutional Economics (successes and failures); and 2) directions for the future.

    Contact: Charles M. A. Clark VP AFIT
    Department of Economics
    St. John's University
    Jamaica, New York 11439
    USA
    Phone: 718 990 7343
    Cleiroch@aol.com

    ○オーストリア学派の応用経済学

    CONFERENCE: WHAT DOES AN AUSTRIAN APPLIED ECONOMICS LOOK LIKE?

    The Association of Historians of the Austrian Economic Tradition (AHAET) organizes a conference in Paris (18-19 May 2000).

    The conference will be devoted to the following topic: What does an Austrian applied economics look like? After a long period of relative neglect, the last two decades have witnessed a proliferation of studies devoted to the Austrian tradition in economics. Most of this work concentrated on an exegesis of its major representatives in the past. More recently, research in such diverse fields as the analysis of the firm and of organizations, the economics of law, the theory of business cycles and the theory of money have taken their inspiration from the Austrian tradition. Contact: Thierry Aimar

    Association des Historiens de la Tradition Economique Autrichienne,
    Centre d'Histoire de la Pensee Economique,
    Maison des Sciences Economiques,
    106, Boulevard de l'H・ital,
    75647 PARIS
    FRANCE
    Phone: (+33) 1 55-43-42-33
    Fax: (+33) 1 55 43-42-35
    E-mail: aimar@univ-paris1.fr
    http://www.univ-paris1.fr/AHTEA/

    ○ジョーン・ロビンソン記念国際シンポジウム

    Joan Robinson International Symposium

    March 2000 - Dunkerque (Dunkirk)

    From Joan Robinson's death to the end of the 1990s, economics has experienced notable evolutions - often in opposition with what the economist of Cambridge fought all her life for.

    In order to organise fruitful debates, six themes are proposed : - Actuality and influence of Joan Robinson's writings; - Joan Robinson and Keynes; - Influence and place of Marx in Joan Robinson's thought; - Joan Robinson and the economic action of State; - Industrial restructuring, training, and worker qualification; - Economic stalemates and perspectives of growth. Propositions of communication must be sent at the following address before December 31, 1999.

    The organisation committee will inform contributors of the selected papers by the middle of February 2000.

    Contact :
    Joan Robinson International Symposium
    Laboratoire Redeploiement Industriel et Innovation
    MRSH - ULCO
    21, quai de la Citadelle
    F-59140 Dunkerque (France)
    E-Mail : labrii@univ-littoral.fr
    Telephone : +33 3.28.23.71.47 ou 34 - Fax : +33 3.28.23.71.10
    http://www.univ-littoral.fr/eng/robins.htm

    ○異端派経済学連合

    ASSOCIATION FOR HETERODOX ECONOMICS

    THE OTHER ECONOMIC CONFERENCE, 2000

    LONDON, UNITED KINGDOM

    27 - 28 JUNE 2000

    Papers on any aspect of heterodox economics, history of economic thought, economic history, business history, alternative economic systems, social economics, feminist economics, and economic policy are invited for the Two-Day The Other Economic Conference, 2000 of the Association for Heterodox Economics. The Conference will take place at the Open University Conference Centre, 344-354 Gray's Inn Road, London WC1x 8BP.

    Contact: Alan Freeman
    School of Social Sciences
    University of Greenwich
    Avery Hill Road
    London SE9 2HB
    (44) 181 858 6865
    a.freeman@greenwich.ac.uk
    www.greenwich.ac.uk/~fa03


    編集後記
     

     『30年史』を見ておりましたら,学会ニュースは以前にも出していたことがあるようで,今号は再刊15号ということになります。執筆者のご協力で今号もメール原稿の編集によってスムースに作業が出来ました。ただ,「国際学会」のところの紙面を「参加報告」と「開催予定」に分け,少し改めました。事務局の仕事では,学術会議会員選出方法,科研費「学術定期刊行物」申請条件等々,学会を巡る状況の変化に,「例年通り」には行かない注意深い対応が求められているという感じです。
    (馬渡 尚憲)
     寒い日が続いておりますが,学会員の皆様にはいかがお過ごしでしょうか。2号目のニューズレターです。今回も各委員会のメンバーの方々と学会員の方々のご協力で無事に編集を終了することが出来ました。変わり目というのでしょうか。科学研究費「学術定期刊行物」の申請条件も変化があり,作成にかなり手間取りましたが,封筒・ハガキの宛名書き等も自動化しておりまして何とかやっております。引き続きよろしくお願いいたします。
    (本吉 祥子)

    ──────────────────────
    『経済学史学会ニュース』第15号
    2000年1月25日発行
    経済学史学会 代表幹事 馬渡 尚憲
    事務局 〒980-8576 仙台市青葉区川内
    東北大学経済学部(馬渡研究室)
    Tel: 022-217-6275
    E-mail: mawatari@econ.tohoku.ac.jp
    ──────────────────────

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