久松 太郎 著『ロバート・トレンズと国際貿易ーリカードからJ. S. ミルへの架橋』ミネルヴァ書房、2025年5月

発売日
:2025年5月
判型・ページ数
:4-6版 / 400頁
定価
:4,180円(税込)
ISBN
:9784623098958

ロバート・トレンズ。経済思想家でもなければ、今やその名を知る者はいないだろう。だが、国際経済学の歴史におけるトレンズの足跡は無視しえない。標準的な教科書に見られるリカード・モデル(比較優位の貿易理論)は、リカードを出所としてJ・S・ミルが完成させたものと考えられているが、その変遷過程において一役買い、同時にこのモデルをリカードの創造物たらしめるべく後世の人びとを誘ったのはトレンズである。また、昨今世間を騒がせている相互関税や報復関税といった貿易政策をめぐる議論は、一九世紀前半の互恵主義論争にその起源をもつが、この論争の中心的役割を果たしたのもトレンズである。本書は、古典派経済学におけるトレンズの功罪を描き出し、国際経済学の歴史に埋もれた彼の仕事に再び光を当てる試みである。

[ここがポイント]
◎ 近年注目を集めつつあるトレンズに関する包括的な研究成果。
◎ 現代の国際貿易理論にも通用する思想を紹介。
◎ 古典派経済学を概観する、経済学史の概説としても有用。

目次

凡 例

序 章 征服者への挑戦状
  一八三一年
  忘却からの救出
  本書の目的
  本書の性格と構成

 第Ⅰ部 経済学の古典理論

第1章 生 誕
  軍人トレンズ
  フランス重農主義の誕生
  ケネーの交換の体系
  経済学の創設者
  スミス経済学の主題
  スミスの分業論
  スミスの資本蓄積理論
  スミスの価値論
  スミスの需要供給理論

第2章 改 宗
  哲学的急進主義者J・ミル
  通貨問題
  経済学者リカード
  人口論者マルサス
  穀物法論争
  リカードの差額地代説
  収穫逓減原理
  法曹界の経済学者ウェスト
  トレンズの初期地代論
  リカード教への改宗
  スミス教からの離脱
  利潤率低下の原理

第3章 支 配
  リカードとマルサス
  リカード『経済学と課税の原理』
  ヘクシャー=オリーン=サミュエルソン・モデルと奇妙な効果
  リカードの価値論
  リカードの「マルサス評注」
  生産費説と不変の価値尺度
  スラッファの標準商品

 第Ⅱ部 トレンズと価値および分配の理論

第4章 偽りの労働価値説
  『生産論』
  資本価値説
  規模の経済
  一般原理の例外と限界
  スコットランドの経済学者たち
  労働価値説批判
  実業家トレンズ
  弟子たちによる反論
  「不変の価値尺度」不要論

第5章 幻の穀物比率説
  スラッファのリカード利潤論解釈
  マルサス評論におけるトレンズ利潤論
  トレンズの利潤論
  真の利潤理論
  利潤率の傾向的低下
  トレンズとスラッファ
  デ・ヴィーヴォのトレンズ利潤論解釈 
  トレンズは穀物比率説を利潤理論とみなしたか?

第6章 需要と供給の基本原理
  オウエン計画 
  「基本原理」の容認
  マルサスからの批判
  シスモンディからの批判
  政界入りと『賃金と団結』
  『エディンバラ・レヴュー』論文から『生産論』へ
  トレンズの不況論
  その後の展開

 第Ⅲ部 トレンズと経済成長および国際貿易の理論

第7章 不落の人口原理
  戦後不況と移民論の高まり
  救貧政策と賃金理論
  移民と教育
  移民論におけるマルサスとトレンズ
  マルサス『人口論』
  巨星墜つ
  動学的均衡成長理論
  マルサス人口原理批判
  古典学派と経済学クラブ

第8章 不朽の比較優位説
  四つの魔法の数字
  リカード・モデル
  リカードのモデル
  J・ミル「植民地論」 
  リカーディアン・エコノミクスの教科書
  J・ミル『経済学綱要』における比較優位説
  ぬれぎぬ問題
  リカード・モデルへの変型
  互恵主義をめぐる論争
  比較優位の原理の発見
  リカード・モデルをつくったのは誰か?

終 章 経済学の歴史におけるトレンズ
  トレンズの「豹変」 
  トレンズの功罪
  一八六四年

あとがき
補 注
参考文献
人名・事項索引

版元の紹介ページ: https://www.minervashobo.co.jp/book/b657933.html