南森 茂太 著『「民(みん)」を重んじた思想家 神田孝平―異色の官僚が構想した、もう一つの明治日本』九州大学出版会、2022年7月

発売日
:2022年7月
判型・ページ数
:A5判 / 310頁
定価
:5,400円(税別)
ISBN
:978-4-7985-0334-9

神田孝平は、幕末から明治初期にかけて、思想家、官僚として活躍する。思想家としての神田は民衆を「愚民」と捉えず、現存する彼らを政治・経済の担い手と位置づける。また官僚としての神田はこの民衆への評価に立脚した政策を数多く構想する。そして、この政策論が政府の方針と異なる場合、自らの信念を曲げることなく、自らの思想家としての影響力を行使しても、自らの構想を実現しようともする。このように神田は特色のある思想家、官僚ではあるものの、現在では忘れられた人物となりつつある。彼の業績を掘り起こし、その実像を読者に提示することが本書の目的である。

目次

まえがき
 凡例
 
序章 明治初期の思想史研究における神田孝平の位置づけ
 
 一 明治初期思想史研究における「学者ノ職分ヲ論ス」の影響
 二 明治初期思想史研究における神田孝平の位置づけ
 三 本書の目的と構成
 
第一章 神田孝平の経歴──出自と修学過程を中心に──
 
 一 神田孝平の伝記的研究の問題点
 二 交代寄合竹中家とその家臣たち
    交代寄合竹中家/竹中家の家臣たち
 三 神田家と神田孝平
    神田家の人びと/幼少期から蕃書調所出仕までの神田孝平
 四 幕臣から明治政府の官僚へ
 五 洋学と「立身出世」
 
第二章 神田孝平における「人民」
 
 一 明治初期における政府首脳、官僚、知識人の民衆への評価
 二 『農商弁』における「民」についての認識とその政策論
 三 江戸開城以降の経済・政治論における「人民」
    経済論における「人民」/政治論における「人民」
 四 明治初期から中期にかけての「人民」観
    『学問ノスヽメ』における福澤諭吉の「愚民」観/「隠密なる政治上之変遷」に
    おける徳富蘇峰の「平民」観
 五 「愚民」観払拭のための官僚、思想家としての神田孝平の活動
 
第三章 『農商弁』における「商」の「利」──税制改革論を中心に──
 
 一 日本経済思想史研究における『農商弁』の位置づけ
 二 『農商弁』における日本の内政・国防問題に対する認識
    士農の困窮に対する認識/国防問題に対する認識
 三 『農商弁』における税制改革論
 四 江戸時代の経済思想としての『農商弁』
 五 『農商弁』における神田孝平の経済論の特色
 
第四章 幕末・明治初期の政治情勢と神田孝平の政治思想
 
 一 議会制度導入者としての神田孝平に対する評価
 二 武家政権下における神田孝平の政治体制論
    『農商弁』における「仁政」の実現/開成所における「会議」と「会議法則案」
 三 江戸開城決定後の神田孝平の政治思想
 四 議事体裁取調方における神田孝平の貢献
 五 公議所、集議院時代の神田孝平の政治思想
 六 「明治六年政変」後の神田孝平の政治思想
 七 一貫した議会早期開設論者として
 
第五章 明治初期における神田孝平の税制・財政改革案
 
 一 地租改正に対する神田孝平の貢献に対する評価
 二 「田税改革議」における神田孝平の税制改革案
    「田税改革議」の成立事情/「田税改革議」における税制改革案
 三 「税法私言」による「所得税法」の導入案
 四 「民選議院」の開設と財政制度改革
 五 税制改革案、財政改革案で目指したもの
 
第六章 神田孝平の兵庫県政──地方制度改革と「民会」開設を中心に──
 
 一 兵庫県令・神田孝平による地方制度改革と「民会」開設についての評価
 二 神田県令時代における兵庫県の地方制度改革
 三 「民会」の開設
 四 地方官会議における神田孝平の発言
 五 神田孝平による地方制度改革と「民会」開設の特徴と展望
 
第七章 神田孝平「貨幣四録」の執筆・公表の目的
 
 一 明治初期の自由・保護貿易論争
 二 「四録ノ一」、「四録ノ二」における現状認識
 三 「四録ノ三」における将来予測と「四録ノ四」における解決策
 四 「貨幣四録」執筆・公表の目的
 五 神田孝平と『明六雑誌』
 
第八章 木戸孝允と神田孝平における「官」と「民(みん)」──新聞とのかかわりと政治観とを中心に──
 
 一 「官」から「民」への新たなコミュニケーション・ツールの登場
 二 木戸孝允、神田孝平と新聞
    木戸孝允と新聞/神田孝平と新聞との関係
 三 木戸孝允の政治論
 四 木戸孝允と神田孝平の政治論の共通点と相違点
 五 木戸孝允の神田孝平への警戒心
 六 メディアと「近代」的官僚制度
 
終章 神田孝平が描いた明治日本
 
 一 神田孝平と明治日本
 二 神田孝平研究の現代的意義
    忘れられた人物神田孝平/現代に神田孝平を読む意義
 
 初出一覧
 あとがき
 索引

版元の紹介ページ: https://kup.or.jp/booklist/hu/history/1334.html